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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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44:君がいてくれて


 素早く出ていこうとするタナエル王子に、僕とジゼルはあたふたしながら頭を下げた。

 店の扉がバタンと閉まる音が聞こえると、揃って顔を上げる。


「…………準備を念入りにって、お姫様を助け出すために何をするんだろ?」

 僕は誰に言うわけでもなく、ぼそりとこぼした。

 王子に課せられる任務が過酷な物にしか思えず、背中がゾクリと震える。

 静かになった店内で、僕は立ち尽くしていた。


 そんな僕のことなど気にも留めず、ジゼルはすでに動き出していたらしい。

 ふいに背後から袖をちょんちょんと引かれる。


「ん? どうしたの??」

 振り向くと、ジゼルが白い歯をこぼして眩しい笑顔を浮かべていた。


「さっそく試してみようよ!」

 彼女はいつの間にか持ってきたホウキを、僕に差し出した。




 **===========**


 蒼い月明かりが、街をふんわりと優しく包み込む夜。

 空を見上げるとキラキラと輝く光の粒が、どこまでもどこまでも広がっていた。

 星々の瞬きを浴びながら、幻想的な蒼い世界を、2人を乗せたホウキが滑っていくーー



「すごい! 普通に飛べてる!!」

 僕は感動して、ホウキの()を持つ手にギュッと力を込めた。

 するとそれに呼応するかのように、ホウキの速度がビュンと速くなる。

 けれど途端に後ろから悲鳴が聞こえた。


「ディ、ディラン! 速すぎてちょっと怖いよっ」

 怯えるジゼルが僕の背中にしがみついた。

「あ、ごめん。2人で乗っても普通に飛べるし、魔法の感覚が研ぎ澄まされてるから、つい……」

 はしゃぎすぎたと反省しながら、僕は速度を落とした。


 肩越しにチラリとジゼルを見ると、背中にくっついていた彼女が、顔を上げて僕と目を合わす。

 ジゼルが「フフッ」と肩を震わせた。

 彼女の様子に安心した僕は、前に視線を戻してジゼルに尋ねた。


「嬉しそうだけど、どうしたの?」

「ディランが魔法を使って楽しそうなのは、初めてだね」


 ジゼルの柔らかい声にハッとした。


 彼女の言う通り、楽しく魔法を使えているのは久しぶりだ。

 初めて魔法が使えた時は、あんなに楽しくてワクワクしたのに……


「神様たちに、声が届くようになって良かったね」

 ジゼルが自分のことのように喜ぶ様子が、声から伝わってきた。


 僕の口元が自然と緩む。

 彼女の暖かい気持ちにつられて、蒼願の魔法をかけて良かったとさえ思えてくるから不思議だ。


 ジゼルがそばに居てくれて本当に嬉しい。

 言葉では言い尽くせないけれど、この気持ちを伝えていきたいーー



「ジゼルありがとう。いつも感謝してるよ」

「私もだよ。ディラン、ありがとう」


「ジゼルと一緒にいると、毎日楽しいし」

「フフッ。私も楽しいよ」


「大好きだよ」

「私も……ってえぇ!?」

「ジゼル!?」

 気が動転したジゼルが、体のバランスを崩してホウキから落ちた。

 僕が慌てて彼女の手を掴むと、ジゼルはなんとか宙にぶら下がった。

 僕はホウキに胸を押しつけるように身を伏せ、片腕を彼女に向かって精一杯伸ばした。

 これ以上体を持っていかれないように、もう片方の手でホウキの()を必死に掴む。


「わあぁ! …………ディランごめんね、大丈夫?」

「うん。ジゼルは、だいじょう……ぶ?」


 ジゼルが泣きそうな顔で見上げるものだから、僕は痩せ我慢をして答えた。

 伸ばした片腕に、ひと1人の重さがのしかかる。

 僕は奥歯を噛み締めて、額に汗を浮かべながらも、高度を下げて緩やかに彼女を地面に下ろした。

 ジゼルがどこかの通りに無事に足をつくと、それに続いて僕もホウキから降り立つ。


「ありがとう……」

 真っ赤になったジゼルが、恐縮そうに弱々しく囁いた。

 彼女は相変わらず、僕からの好意に過剰に照れてしまう。

 そのことに苦笑しながら答えた。


「ホウキで飛んでる時は危ないから、もうジゼルが照れることは言わないでおくね」

「な、慣れるから! そのうちっ……!」

 

 ジゼルの必死な様子に、僕は思わず吹き出してしまった。


「本当かなぁ?」

「……ディランがたくさん言ってくれたら、慣れるのも早いと思うよっ」

 少しムキになったジゼルが、赤面したまま詰め寄ってきた。


 ……やられた。

 慣れるためだと言われて、うまくもう一度言わされる形になった。

 さりげなくじゃなくて、改めて言うのってすごく恥ずかしい。


 ジゼルに負けないほど赤くなった僕は、明後日の方向に顔を向けた。

 そして視線だけをジゼルに向ける。


「……大好きだよ」

「わ、私も大好きっ!」


 ジゼルがぎこちなく僕に抱きついた。

 照れて逃げないように頑張っているようだけれど、結局は僕の胸に顔を埋めて、隠れてしまっている。


 そんな彼女の背中に腕を回して、僕はしっかりと抱きしめ返した。

 腕の中にすっぽりと収まるこの暖かい存在を、僕は心から守りたいと思った。

 全力で僕を好きでいてくれるジゼルに、尊い気持ちが溢れる。


 僕らは何を喋るわけでもなく、お互いのぬくもりを感じるだけで満たされていた。

 そんな2人を、蒼い月がいつまでも優しく見守っていた。




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