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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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26:蒼刻の魔術師アランと緑の魔術師メリナ

 

 太陽が顔を出し、輝く光が溢れ出す朝。

 ディランの部屋にも朝日が差し込み、ベッドで眠る2人を照らした。


 仰向けで寝ているディランの(かたわ)らには、横向きでくっついているジゼルがいる。

 気持ちよさそうにぐっすり眠る2人は、まだまだ起きる気配が無かった。


 彼らは毎朝遅めに起きる。

 夜にお店を開くため、その日はどうしても眠る時間が遅くなってしまい、生活リズムが夜型になるからだった。

 だから今日も、太陽が昇り街の人々が動き出す時間になっても、2人はスヤスヤと眠り続けていた。




 ーーーーーー


 僕とジゼルの穏やかな寝息。

 遠くで聞こえる街の喧騒。

 この部屋だけは、ゆっくりとした優しい時間が流れているようだった。

 けれどその世界を壊すかのように、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。


「ただいまー。相変わらずまだ寝ているのかしら?」

 そう声をかけながら部屋に入ってきた女性が、ベッドに目を向けてピタリと止まった。

 固まった彼女が、目を見開いて大きく息を吸う。

 

「あなたっ! ディランが女の子を連れ込んでる!!」

 そう叫ぶと、女性はバタバタと部屋をあとにした。 




 僕は彼女の大声と騒音で目を覚ました。


「……うーん……母さんたち帰ってきたんだ……」

 あくびをしながら体を起こした僕は、開けっぱなしの扉を見つめた。

 

 さっき入って来たのは僕の母親だ。

 遠い場所で隠居している両親は、たまに帰ってきては、僕の様子を確認する。

 今回もそうだろう。

 

 でもあんなに驚かなくていいのに。

 僕とジゼルが一緒に寝ているなんて、いつものことだから……

 

 …………

 って、えぇ!?

 

「ジゼル、起きてっ!」

 覚醒し切った僕は、慌ててジゼルを揺り起こした。


「…………おはよう…………」

 1度は瞼を持ち上げて何とか返事をしたジゼルが、再び目を閉じて眠りの世界へと旅立とうとした。


「父さんと母さんが帰ってきたんだ!」

「!!」

 パチリと目を開けたジゼルがガバッと起き上がると、その丸くなった瞳で僕を見つめた。

 



 ーーーーーー


 急いで起きて支度をした僕とジゼルは、ダイニングテーブルの椅子に横並びで座っていた。

 目の前のテーブルには、母さんが用意してくれた朝食が。


「じゃあ、みんなでいただきましょうか」

 朗らかに笑う母さんの隣で、呑気な父さんがすでにパンに手をつけていた。


 そんな2人の向かいには、気まずい思いを抱えた僕とジゼルがいる訳で……

 

 こうして奇妙な4者面談が始まった。


「あ、あのっ。私、白の魔術師ウィリアムの飼い猫だったんです!」

 ガチガチのジゼルが早口で喋る。


 父さんがメガネのフレームを指で押し上げて、具合を直しながら聞いた。

「白の魔術師ウィリアムって、あのウィリアム・フォグリアさんかな?」


「はい。最近亡くなったのですが、ウィリアムの最期の願い〝ジゼル・フォグリアに会いたい〟を叶えるために、ディランにジゼルさんの姿形(すがたかたち)にしてもらいました! それで、あの、猫の時はウィリアムと毎日一緒に寝てたからーー」

 ジゼルが相変わらず勢いよく喋る。

 

 少し不穏な空気を感じて、僕は思わずジゼルに声をかけた。

「ジゼル……」

「人間になっても、1人で寝るのは寂しくってーー」

「ねぇ、落ち着いて」

「ディランが私を慰めるために、一緒に寝てくれてたんですっ!」

「…………」


 僕は呆気にとられてしまった。

 真っ赤になって言い切ったジゼルは、やましい事は無いと必死に弁明したつもりなんだろうけど……両親には盛大に勘違いされた気がする。


 現に母さんは〝傷心中の娘さんに手を出したのかー、うわー〟みたいな顔をして僕を見ていた。

 僕は母さんの視線から逃げたくて、思わずそっぽを向く。


 あ、ダメだ。

 余計に勘違いされる……


 派手に引いていた母さんは、気を取り直すとジゼルに向かって喋りかけた。


「あなたが何処の誰なのかよく分かったわ。家のこともジゼルちゃんがしてくれているの? ディランより家事の仕上がりが丁寧だから」

「はい。住まわせてもらっているので、せめて家のことだけでも……」


 それを聞いた母さんは、今度は父さんの方を見た。

「やっとディランに色恋沙汰が舞い込んだと思ったら、いきなりお嫁さんが出来たわね」

「でもいいんじゃない? そうだろ? ディラン」

 父さんが穏やかにほほ笑んで僕を見つめた。


「う、うん……」

 僕は真っ赤になって俯いた。

 照れている僕の様子に、ハッとしたジゼルが騒ぎ始める。

「私、ディランのお嫁さんでいいの? ねぇ本当に? まだ猫を飼ってる気持ちとかじゃない??」

「!!」

 僕は急いで朝ごはんのパンとスープをかき込んだ。

 最後に水を一気に飲み干す。


「ごちそうさまっ!」

「あー! 逃げたー!」


 僕が席を立って足早に退散すると、背中にジゼルの非難する声を浴びた。

 むくれた彼女はパンを両手で持ってパクッと食べると、腹いせかのようにモグモグと大きく咀嚼する。


 そんな2人の様子を、母さんと父さんがほほ笑ましそうに見ていた。




 朝食が済んだ後、ジゼルと母さんがキッチンで後片付けをしていた。

 食器をあらかた下げ終えたジゼルに、母さんが声をかける。


「ジゼルちゃん。あとは私がするから、残りの洗濯物を干してきてくれるかしら?」

「はーい」


 …………


 母さんはジゼルが部屋から去っていくのを見届けると、急いでリビングでくつろぐ父さんの元へと向かった。

 

 ソファに深く腰掛けて新聞を読んでいた父さんは、隣に座った母さんに気付くと顔を上げた。

 するとワクワクしている母さんが、声を弾ませて聞いた。


「どう? あの2人は?」

「うん。いいね。お互いちゃんと『いつまでも一緒にいたい』と思い合っているよ」

 父さんがニッコリ笑い返した。

 

 彼も蒼刻の魔術師。

 だからディランがジゼルに向けた強い思いも、ジゼルがディランに向けた強い思いも、感じ取ることが出来る。


 それを聞いた母さんは、手をパンと打ち合せて喜んだ。

「良かったわ。これでやっとメアルフェザー様に報告出来るわね」

「そうだね。いい子がディランを選んでくれて良かったよ。ジゼルさんなら乗り越えられると思うから」


 2人は見つめ合いながらニコッと笑った。




 

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