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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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24:もう1人の蒼刻の魔術師


 あれから式典は滞りなく進み、大きな問題も無く終わった。

 開始前と同じように、まずは王族たちが退出し、それから魔術師たちの番になった。

 みんな一斉に、ゾロゾロと出口に向けて動き始める。


「お、終わったー」

 さっきまで立っていた僕は、椅子にドスンと座り込んだ。

 背もたれに仰け反るように上を向き脱力する。

 緊張の糸が切れて、心底ホッとしていた。


 王族側の席にいたけれど、たいがいは失礼にならないように立っていることが多かった。

 王族や魔術師のトップたちの話を聞くのが主なこの行事。

 魔術師の席にいたとしても、立ちっぱなしになる。

 

 ……地味に足が疲れた。


「緊張したねぇ……」

 ジゼルも椅子に座りこんで、僕側にある肘掛けにふにゃっと伏せていた。


 そんな彼女に僕もゆっくりと目を向ける。

 お互いの視線がぴったり合うと、思わず苦笑をもらし合った。


「帰ろうか」

「うん」

「今日は疲れたし、何か食べて帰る?」

「わーい! 私来る時に見つけた店に行ってみたい!」


 先に僕が立ち上がり、ふんにゃりしているジゼルに手を差し出した。

 ジゼルはニコリと笑って僕の手を握ると、ピョンと元気よく立ち上がる。

 そうして手を繋いだ僕たちは、高台を降りて出口へと足を進めた。



 

 式典会場の出口である大きな門から、外の景色が見えてきた。

 隣にいるジゼルも同じ方向を見つめ、表情を緩めたように感じる。

 僕も〝やっと帰れる〟と心から安堵している時だった。


「おい、ディラン! 貴様卑怯だぞ!!」

 そう怒鳴り声が聞こえたかと思うと、肩をグイッと掴まれた。

 僕は振り向き様に相手を見る。


「……ダレン」


 そこには僕と同じ蒼色のローブを纏った、蒼刻の魔術師のダレンがいた。

 同い年の彼は、昔から何かと僕に突っかかってきた。


 適当な蒼刻の魔術師の中でも、一応僕は本家筋。

 対するダレンは分家筋で、それを気にしてか、彼は僕よりも何事において優っていないと気が済まなかった。

 今日も僕がタナエル王子の専属だと分かって、言い掛かりをつけに来たのだろう。


 …………

 ダレンは蒼刻の魔術師としては珍しい、金髪にエメラルドの瞳をしていた。

 めちゃくちゃカッコいい部類なのに、こうして突っかかってくるダレンは残念で勿体無い。

 僕になんかに構わず暮らした方が、絶対楽しいのに。

 

 僕は怪訝(けげん)な目で彼を眺めてしまった。

 ますます逆上したダレンが叫ぶ。


「どうやってタナエル王子に取り入ったんだ? 俺を差し置いて貴様が専属になったなんて、絶対裏があるだろ!? その女か?」


 ダレンがビシッとジゼルを指差した。

 ビクリと震えたジゼルを、僕はそっと背中に隠す。

 その間もダレンの言い掛かりが続いた。


「噂では猫をかの有名なジゼル・フォグリアにしたそうじゃないか。浅ましい自分の願いを、お得意の蒼願の願いで叶えたのか!?」

 

 彼の弾糾が会場内に響き渡った。

 その騒がしさに、周りの魔術師達が足を止めて僕らを見る。

 



 僕は眉間にシワを寄せ、不愉快をあらわにした。

「そんなんじゃない。ジゼルはダレンが思っているような理由で、人間になったんじゃない。もっと尊い気持ちだ。ジゼルを侮辱することは許さないよ……あと、タナエル王子も」

 念のために王子についても言及しておいた。


 すると、白いローブの女性がジゼルに駆けより抱きしめた。

「なんか騒ぎになってるけど大丈夫!?」

 ホリーがジゼルを守るように腕の中に閉じ込め、ダレンを睨んだ。

「うっわ。相手カッコよすぎじゃない? ディラン」

 そして余計な一言を僕に投げかけた。


 違う所からは、黒いローブを着たルークが駆けつけてきた。

「ジゼルちゃんが危ないのか!? 後ろは任されたからディラン、戦ってこい!!」

 この騒ぎを半ば楽しんでいるルークが、僕の斜め後ろに立った。


「任されたって……ルーク、防御魔法をまともに使えるようになったの?」

 僕はルークの雰囲気に釣られて、つい冗談まじりに言う。

「ディランだって、攻撃魔法使えないだろ? どうやって戦うんだよ」

 ルークが大笑いしながら返事をした。


 そんな和やかな僕たちに、ダレンの感情が更に逆撫でされる。

「俺と戦うだって? 蒼の魔法以外は俺より弱いディランが何を言ってるんだ!?」

 ダレンが右手を僕にかざした。


 魔法を使うつもり!?

 この式典会場で魔法は御法度のはずなのにっ!!


 ギョッとした僕を見たダレンが、ニヤリと笑って詠唱した。

「〝炎よ燃えろ(フローガ)!〟」


「「!?」」

 僕ら4人は固まるようにして身構えた。

 思わず顔を伏せて衝撃に備える。

 



 けれど何も起こらず……

 静けさが辺りを覆った。


「!! 魔法が発動されない!?」

 ダレンの声に顔を上げてみると、彼が驚きながら僕を見ていた。

 僕が何かしたのかと思ったらしい。


 その時、ダレンの後ろから白いローブを着た魔術師が声をかけた。


「君の魔法を無効化させてもらったよ。我々各系統の代表者は、秩序を守る努めもあるからね」


「ハロルドさん!」

 僕が名前を呼ぶのと同時に、ダレンが振り向いて背後の人物を確認した。

 邪魔をされて悔しそうに顔を(しか)めるダレンに向けて、ハロルドが静かに伝える。


「そこの蒼刻の魔術師ディランとジゼルを侮辱することは私が許さない。それは私の父であるウィリアム・フォグリア、そして母であるジゼル・フォグリアを侮辱することにも繋がるからだ」

 彼の厳かな声が辺りに響く。

 周りにいる魔術師達も自然と聞き入っていた。


「な……んで……?」

 驚きのあまりダレンの声が掠れた。

 ハロルドが厳しい表情のまま続ける。


「〝最期にジゼル・フォグリアに会いたい〟という父の願いを、猫だったジゼルは叶えてくれた。ディランは蒼願の魔法で父の思いを形にしてくれた。そんな2人に私は感謝している」

 そこまで言うと、ハロルドが僕とジゼルに目を向けた。

「言いそびれてしまってすまない。ありがとう」

 

 ホリーの腕の中から、か細い声が上がった。

「……ハロルド」

 見るとジゼルが、その穏やかな青い目を潤ませていた。


 僕は深々とハロルドに頭を下げた。

「こちらこそ僕たちのために、皆に事情を説明してくれて、ありがとうございます」


 ハロルドは、僕たちがダレンからのような誹謗中傷を受けないように、先制として周りに説明してくれたのだった。


 ダレンがバツの悪い顔をして俯く。

「…………ちっ」

 諦めた彼が握りしめていた拳を解いて、ゆっくりと垂らした。




 ーーこれでこの騒動は終わりだと、会場内の空気が緩んだように感じた。


 けれどその時、バンッと威勢よく扉が開け放たれ、王宮の騎士が2名飛び出してきた。

 みんなが何事かと騒然とする中、彼らが僕を目指して一直線に駆けつける。

 そして僕の目の前でビシッと整列すると、大声で言った。


「今回の騒ぎを聞いた、タナエル王子様からの伝言です! 『相手が蒼刻の魔術師なら、殺してしまっても大丈夫だ。王族管理の元、どうとでも出来るから安心しろ』とのことです!!」


「「…………」」

 

 それを聞いた周りが静まり返った。

 僕とダレンだけがみるみる青ざめる。


「そんな権限いらないです……」

 僕は弱々しく首を横に振った。




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