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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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18:幸せの魔法


 太陽の日差しが眩しく感じるお昼前。

 それ以上に眩しい笑顔を浮かべたジゼルが、僕より先へと道を進んでいく。


「ディラン! はやく早く!」

 

 紺色のワンピースを着たジゼルが振り向くと、それに合わせてスカートもひらりと舞う。

 フワフワの白い髪はハーフアップにしており、アクセントに黒いリボンをつけていた。


 今日はマルシェの近くの広場で、豊かな一年の実りを祈るお祭りが開催されていた。

 毎年屋台が沢山出ているため、せっかくだから遊びに行こうと出掛けていたのだった。


 


「わぁ〜!〝ジゼルさん〟の記憶では知ってたけど、これがお祭りかぁ」

 広場に到着したジゼルは、途端に目をキラキラと輝かせて、勝手に先へと進んでいった。

 夢中になってどんどん人混みに紛れていくジゼルの手を、僕は慌てて握る。


「これ以上離れると、はぐれちゃうよ」

「あ、ごめんね。ありがとう」

 ジゼルが照れながらシュンとした。


「何か食べたいものはあった?」

 僕が優しく笑いかけると、ジゼルが安心したかのようにニッコリ笑う。

「あれが食べてみたい!」

 

 僕たちはそうして手を繋いだまま、いろいろな屋台を回ったり、広場の中央で行われる演目を見たりして、お祭りを楽しんだ。




 ーーーーーー


「いっぱい食べ過ぎちゃったかも」

 僕の隣を歩くジゼルが、心配そうな声色で言った。

 けれどお祭りを目一杯楽しんだからか、声に反して表情はニコニコしており上機嫌だ。


 僕たちはそろそろ帰ろうかと、家へと続く大通りを目指して、路地をゆっくり歩いていた。


「またこういうのがあったら来ようか?」

「うん! またディランと来たい!」

 ジゼルが繋いでいる手をギュッと握りしめると、ニッコリと笑った。

 彼女からの素直な好意に当てられて、僕は頬を染めて照れる。




 その時、向かっていた大通りから大きな音がした。

 何かにぶつかるような音と馬のいななき。

 聞き覚えのあるような女性の悲痛な叫び声ーー


「ディラン!?」

「行ってみよう!」


 僕たちは手を離して駆け出していた。

 大通りに出ると、止まっている馬車と人だかりが見えた。

 ジゼルが悲鳴のような声を上げる。


「……っケントくん!?」


 群衆の真ん中には、馬車に轢かれて倒れているケントがいた。

 足や頭から血が出ており、道を赤く染めている。

 意識の無いぐったりとしたケントの(かたわ)らには、泣き叫ぶ母親が……


「ケント!? ケントッ!!」

 彼女の涙声が大通りに響き渡った。


 何事かと集まった人々は、何も出来ずにただ親子を取り囲んでいた。

 それは僕らも同じで、野次馬に混じり呆然と立ち尽くしていた。

 けれど救いを求めて視線を彷徨わせる母親の目に、運悪く僕の姿が留まってしまった。


「ディランさん!? あぁ、ちょうど良かった! 私のケントを助けたい〝強い思い〟を叶えて下さい! この子は……走ることが楽しくて飛び出してしまったの!!」


 ケントの母親は人を縫うようにして僕に近付くと、腕を引っ張りすがりついた。

 驚いた周りの人たちが自然と僕らから距離を置く。

 必死な彼女は、大粒の涙を流しながら懸命に訴え続けた。


「お金なら頑張って払いますからっ!! どうかケントを助けて下さい!!」

「…………僕の〝人からの願いを叶える〟魔法は、蒼い月の時にしか使えないんです。すみません」

 僕は母親の眼差しから逃げるように、顔を伏せた。


「そんなっ!? 何で?? この役立たず!!」

 彼女は取り乱しながら泣き崩れてしまった。

 

 地面にペタンと座り込んで大泣きしながらも、ケントの方へ這うように移動する。

 その泣き声に責め立てられている僕は、胸の痛みを我慢するしかなかった。

 

 蒼い月が出ていないと、僕たち蒼刻の魔術師はとても無力だ。

 回復魔法も微々たるものしか使えないから、あんな重症を負ったケントに対しては、焼け石に水だ。

 母親の行き場のない感情を、受け止めてあげることぐらいしか出来ない。


 ………………


「……ディラン……」

 ジゼルが僕を呼んだ。

 彼女が心配そうに見つめている視線を感じる。

 けれど情けなくて、僕はジゼルに顔を向けることが出来ずにいた。


 すると、ジゼルから深く息を吸う音が聞こえた。

 それから始まった呪文の詠唱ーー


「ジゼル?」 

 僕が思わず彼女を見ると、ジゼルが自身の両手を組み合わせて祈りのポーズをとっていた。

 目をギュッと閉じて、白の魔法の呪文……女神セルフィーダに向けて祈りを捧げている。


 猫だったジゼルが魔法を?

 しかもこれは上級魔法……

 まさか……!?


 僕がハッとしていると、ジゼルの体が薄っすら光り、彼女の周りを柔らかい風が円を描くように吹いた。

 それに合わせて彼女のスカートや髪の毛もフワフワと揺れる。


 周りの人たちも、ざわつきながらジゼルを見守っていた。

 ケントの母親もジゼルを見つめて唖然としている。

 

 ジゼルは呪文を唱え切ると、目をしっかり開いて両手をケントに向かってかざした。

 ケントが倒れている地面に、白銀に輝く魔法陣が浮かび上がる。


「〝傷を癒せ(セラピア)!〟」

 ジゼルが回復魔法を唱えた。


 彼女の力強い声に反応した魔法陣が、より一層美しく輝く。

 その白い光はケントを優しく包み、彼を見えなくさせると……次の瞬間にはパッと消えて無くなった。




 ーーーー

 

 あとには、傷口が綺麗に塞がったケントの姿があった。

 怪我の跡はあるけれど、あれだけ流れていた血がピタリと止まっている。


「ケント!!」

 彼にしがみついた母親が呼びかけると、ケントが顔を(かす)かに動かした。

 

「どいて下さい! 治療を行います!」

 ちょうどその時、白衣の医者が駆け付けた。

 貫禄のある年配の男性と、ドクターズバッグを抱えた若者が、ケントの真横にしゃがみ込み容態を診る。

 

 彼らに遅れてケントの父親も現れた。

 医者を呼びに行っていたようで、額に汗をかき息を切らしている。

 けれどすぐさまケントのそばで四つん這いになると、医者に詰め寄った。


「ケントは大丈夫でしょうか!?」  

「大丈夫ですよ。どなたかが回復魔法をかけてくれており、傷の奥深くは治っています。命に別状は無いでしょう」

 年配の医者が、父親を安心させるために穏やかに告げた。




 それを聞いてホッとしたジゼルが、フラリとよろけた。

 僕は慌てて彼女の肩を抱いて支える。


「大丈夫?」

「うん。なんとか魔法がかけれて良かった」

 

 ジゼルが嬉しそうにほほ笑んだ。





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