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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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164/165

164:託された思いを叶えて、ずっと一緒に。


「そんなこと、どうやって? リンネの意識はこの地に残っているようだが、彼女はもう死んだんだ……」

 メアルフェザー様が静かに告げる。

 彼は暗に、生死を扱うような願いは叶えられないと、拒絶していた。


「大丈夫です! タブーに触れない方法を考えて来ましたから!」

 僕は爽やかに笑った。

 それから、着いてきてくれた仲間たちを見る。


「キュロ、お願い」

「うん。分かったよ!」

 精霊の血を引くキュロが、元気よくみんなの輪を飛び出し、大木のほうへ駆けていった。


「わぁ〜。ディランから青い花が咲く木だって聞いてたけど、珍しい木だね〜」

 彼が大木を見上げて歓声をあげた。

 今度は数歩離れて地面を確認する。

「ここら辺でいいかな? 準備出来たよー!」

 小柄なキュロは、大きく手を振ってこちらに合図した。


 僕は次にダレンを見た。

「じゃあ、また一緒にお願いするね」

「……はぁ。いくら蒼刻の魔術師が複数でかけると、威力が高まるからって……俺の方が魔力量少ないから、ものすごく疲れるんだけど……」

 ブツブツ言いながらも、優しい彼は僕の隣に立ってくれた。

「あはは。ありがとう。でもここは蒼の魔力が満ちあふれてるから、前よりマシなんじゃないかな?」

 

 そして僕はジゼルを見た。

「ジゼルも、いつもありがとう。思いのサポートをしてくれる?」

「もちろんだよ。私もリンネアル様に会いたい!」

 彼女は弾けんばかりの笑顔を浮かべると、僕の隣で両手を組み合わせた。

 いつもの祈りのポーズをとり、目をそっと閉じる。

 

 そんなジゼルの隣には、ルークとホリーがわくわくしながら並んでいた。

 彼らは興味本位で着いてきた。


〝え? 女神様が見えるのか? いくいく!〟

〝……ルークが行くなら、行こうかな?〟


 あのノリのまま、なんだかんだで来てくれる2人に、僕は笑いながら声をかけた。

「しっかり思いを向けてね。見えないだろうけどリンネアル様に」

「まかせておけ!」

「はーい」


 黒猫のコレーを抱っこしたレシアが、ダレンの奥に並んだ。 

「『リンネアル様がメアルフェザー様と一緒にいられますように』だっけ?」

 質問を僕に向けながらも、レシアはコレーを撫でてニッコリしていた。

 どうやら黒猫の抱き心地がよほど気に入ったらしく、彼女の口ぶりはどこかうわの空だ。


 レシアは、僕らのお目付け役を頼まれていた。

 今回のことを、僕から事前に聞いていたタナエル王子から。

 この前、リヒリト王子に勝手に蒼願の魔法をかけたことで、少し信用されていないらしい。


 ……王子のためにやったのに、酷い。


 僕はレシアの言葉に答えた。

「えっと、違うよ。今からキュロが新しく御神木を生やすから、それに『リンネアル様の魂が宿るように』って願ってくれる?」

「あ、そうだったね。……ふふ、ごめんなさい」

 黒猫に夢中になっていた彼女が、ようやく視線を上げて、僕にやわらかくほほ笑んだ。


 僕らの話を聞いていたメアルフェザー様が、目を大きく見開く。

「それは……」

「メアルフェザー様も、その木に思いを向けて下さい。僕らは思いが強ければ強いほど、蒼願の魔法で叶えることが出来る……ですよね?」

 僕はニッコリ笑うと、アルテアの杖を湖にかざした。


 湖面いっぱいに、蒼色の美しい魔法陣が広がる。



 

 僕がキュロに視線を送ると、彼はそれに気づき、小さくうなずいてから呪文を唱え始めた。

 彼を中心に円を描くように風が吹き抜け、緑の魔法陣が地面に浮かび上がる。

 その風がキュロの柔らかい髪をふわりと揺らすなか、彼はゆっくりと手をかざした。


「〝歓喜の萌芽(ヴラスタリカラス)!〟」


 キュロの高い声が響き渡ると、地面から芽が顔を出し、ぐんぐん空へと伸びていった。

 細い茎はみるみるうちに太さを増し、やがて立派な幹になる。

 同時に枝があちらこちらへと広がり、新緑の葉っぱがいっせいに生い茂った。

 力強く天へと向かって伸びていくその姿は、雄大でどこまでも清らかだった。


「ふぅ。ぼくの力じゃこれが精一杯だよ。けれど春の女神ネアル様のお役に立てるなんて、夢みたいだ!」

 額にかいた汗を拭うキュロが、朗らかに笑った。

 メアルフェザー様の御神木のすぐそばには、それと同じ種類の木が生えていた。

 はるかに小ぶりではあったけれど、人の背丈をゆうに超える高さで、静かに天を仰いでいる。


「キュロありがとう!」

 僕は手を振りながら叫び終わると、並んでいる周りのみんなを見た。

 偶然にも、ホウキに乗ってスピード競争をした時と一緒の並びだ。


 あの時は、まさかこんなことになるなんて、思わなかったな。

 みんなで力を合わせると、リンネアル様から託された使命を果たせるなんて……


 僕はその喜びを笑顔に乗せた。

 目の前の魔法陣を見つめてから、メアルフェザー様に視線を移す。

 呆然としている彼に向かって、僕は更に笑顔を深めた。


「じゃあ、魔法をかけますね」


 そうして僕らは、蒼願の魔法をかけた。




 ーーーーーー

 ーーーー

 ーー


 蒼い魔法陣の光がサラサラと流れる粒子になり、生まれたばかりの小さな御神木の前に集まった。

 それはやがて球状にまとまると、まばゆい輝きを放ちパッと弾け飛ぶ。

 すると、中から10歳ぐらいの少女が現れた。

 目を閉じて佇む彼女の周りを、再び粒になった光たちが、(またた)きながら地面へと落ちていく。

 

 その儚げな光が消える頃、少女がそっと瞼を持ち上げた。

 身にまとった丈の長い白のワンピースは、裾に向けて青色のグラデーションになっていた。

 腰でゆったりとブラウジングしたそれは、絵画でよく見る女神様の衣装のようだ。


 その少女が瞳にいっぱい涙を溜めて、メアルフェザー様を呼んだ。


「…………ルフ」

「リンネッ!」

 その一声に感極まったメアルフェザー様が、思わず歩み寄る。

 姿かたちを再び得たリンネアル様も、大泣きしながら駆け出していた。

 彼女が走ったあとの地面に次々と芽が顔を出し、色とりどりの花を咲かせていく。


 飛び込んできた小さなリンネアル様を、メアルフェザー様が身をかがめてしっかりと受け止めた。

 そしてひしと抱きしめ合う。

 2人の周りでは花が咲き乱れ、辺りを埋め尽くしていった。

 リンネアル様の喜びを表す花たちが、今度は彼らを祝福するかのように優しく揺れる。


「もう一度リンネに会えるなんて……」

「ルフッ、ルフ! 今までごめんね。ここに残ることを選んでくれて、ありがとう。……私も本当は、一緒にいたかったからっ!」

 メアルフェザー様が、泣きじゃくるリンネアル様を、大切そうにぎゅっと抱きしめ直した。

 

 ーーやっと彼らは、想いを通じ合うことが出来た。

 

 永い時をそばにいたのに、触れ合えなかった2人。


 僕ら蒼刻の魔術師を、見守ってくれていた神様たち。




 隣にいるジゼルが、目を潤ませながら僕に笑いかけた。

「……良かったね」

「うん。みんなの幸せを願ってきた人たちが、1番幸せになるべきだよね。その手助けが出来て本当に良かった」

 僕もジゼルに笑い返した。


 他のみんなも次々に喋る。

「神様復活させたのって凄くない?」

「だよね! しかもとっても幸せそうで嬉しいし」

「あー……蒼の魔力が満ちてても、疲れた……」

「大丈夫? あ、キュロもお疲れ様」

「みんなもお疲れ様。何だか楽しかったね!」

「フフッ。楽しかったよね。こんな凄いことが出来るなんて。他にも何が出来るかな?」

「にゃ〜」


 僕らがわいわい喜び合っていると、メアルフェザー様とリンネアル様が、手を繋いでこっちに歩いてきた。

 にぎやかだった声がふっと止み、僕たちは自然と2人に視線を向ける。

 僕は前に進み出て、目の前に立つ2人と向き合った。

 

 メアルフェザー様が、柔らかく笑いながら口を開いた。

「ありがとう、ディラン。俺の願いを叶えようと考えた蒼刻の魔術師なんて、初めてだよ」

 少女姿になったリンネアル様が、僕を見上げて言う。

「よくここまで能力を高めましたね。私が頼んだことだけど、本当にありがとう。皆さんも、心からありがとう」


 感謝を伝えると、2人は幸せそうに見つめ合い笑い合った。

 その姿に、僕もさらに嬉しくなって返した。


「僕ひとりじゃ到底無理でした。みんなの……たくさんの()()()()があってからこそ、だと思います。これがーー」

 メアルフェザー様とリンネアル様が、僕をしっかり見て聞き入った。

 僕は、2人に伝えたかった思いを言葉にする。


「メアルフェザー様たちが守ってきた、僕たち人間の力ですよ」


「ディラン…………」

 リンネアル様が、涙混じりの声で僕の名を呼んだ。


「今までの感謝を、貴方たちに返したかった。だから……2人が幸せになって本当に良かった!」


 僕は目を細めて、こぼれるような笑みを浮かべた。




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