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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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163/165

163:託された思いを叶えて、ずっと一緒に。


 空に広がる満天の星。

 見渡す限り続く、青白く光る広大な草原。


 ここは、どんな時も夜の世界だった。

 地面からほのかな光が立ち(のぼ)るなか、澄んだ蒼い湖の近くに1人の男性が立っていた。

 

 駆け抜ける甘い香りの風が草を揺らし、湖を撫でていく。

 広がっていく水紋を眺めていた男性が、不意に振り向いた。


「……ディラン?」

「お久しぶりです。メアルフェザー様」

 

 ーーーーーー




 蒼い月にやってきた僕は、湖のほとりで佇むメアルフェザー様にニッコリとほほ笑んだ。


「あなたの願いを叶えにきました」

「……俺の願いを叶える? どういうことだ?」

 メアルフェザー様が首をかしげる。


 彼が不思議に思うのも無理はない。

 蒼刻の魔術師の力の源であるメアルフェザー様に、その力を借りている魔術師が、たいそれたことを言い出したからだ。

 メアルフェザー様が出来ないことは、僕らも出来ない。


 ……と、僕も思っていた。


「僕1人じゃ無理なんで、みんなにも手伝ってもらいます」

 そう言って僕が見上げた上空には、光輝く丸い円が浮かんでいた。

 ちょうどその時、中からジゼルが現れた。


「わぁ!」

 思いがけず高い所に出てしまったジゼルが、驚きながらもサッとしゃがんで着地した。

 さすが元白猫。

 動きが相変わらず俊敏だ。


 けれどそのあとから現れた人たちはーー


「えぇ!? 何だこれ!?」

「キャッ!」

「ぐぅ」

「いてっ!」


 地面にドサドサと落ちていく。

 ルーク、ホリー、キャロ、ダレンと続き、次に落ちてきたレシアは、ダレンの背中にぽすんと座るように落ちた。


「…………本当に蒼い月に来たんだー。わぁっ!」

「にゃー」

 のんびりと辺りを見回していたレシアの胸に、最後に黒猫が飛び込んできた。

 レシアが思わず抱き止める。


 その光景を呆然と眺めるメアルフェザー様が、ついこぼした。

「こんなに大勢の人が、ここに来るなんて……」

 

 僕は穏やかに笑いながら説明した。

「『ここに来たい』という僕らの思いを、叶えてもらいました」

「確かにさっき許可は出したが、あの2人に出来るなんて思わなかった」

「フフッ。ジゼルの無彩の魔法をかけて、能力を一時的に引き上げたんで、今頃へばってるとは思います」

 星空に視線を向けながら、僕は2人の顔を思い浮かべた。

「僕はこれから魔力を沢山使いますから、ここに来るにはナフメディさんたちに頼るしかなくて……」


 今回、僕らに蒼願の魔法をかけてくれたのは、父さんとナフメディさんだった。

 メアルフェザー様に関することだったから、僕は蒼刻の魔術師をかき集めていたのだ。




 僕とメアルフェザー様が喋っているあいだに、みんなも少しずつ立ち上がった。

 落ちた拍子にできた擦り傷を確かめたり、乱れた服を整えたりしている。

 その中からピョンと飛び出してきた黒猫が、僕に抗議した。


「それで、帰るとき要員で駆り出されたにゃー。いくら1度行ってマークした場所に転移出来るからって……こんな大人数、骨が折れるにゃー」

 耳を後ろへ反らした黒猫のコレーに、ジゼルが答える。

「でも、またたびをあげるからって約束したでしょ?」

「にゃー! あの悪魔の枝に、見事に釣られてしまったにゃー!!」

 コレーがニャーニャーと騒ぎ出してしまった。

 それを見たジゼルが、クスクスと見守るように笑った。

 ジゼルは今回も、コレーの目の前に、またたびの枝をぶら下げて誘導したのだ。


 枝と言えばーー


 僕は、湖のそばにそびえ立つ大木を見上げた。

「メアルフェザー様……貴方は神様ではないのに、僕らに力を与えることが出来ますよね。そしてさっき口走った〝許可を出す〟という単語…………」

 僕はゆっくりと大木に近づいた。

 幹にそっと触れてから続ける。


「薄々感じていましたが……貴方はこの大きな木ではないのですか? 僕ら蒼刻の魔術師の、御神木のような存在ですよね?」


 初めて話す内容に、他の魔術師たちも驚いて息を呑む。

 ダレンが何かに気付いて声をかけてきた。

「だから俺たち蒼刻の魔術師だけ、魔法の発動条件が違うのか……」

「うん。魔法陣を通して御神木(メアルフェザー様)に祈りを捧げ、許可が降りると魔法が発動する仕組みのようだね」

 僕は彼に頷いた。

 そして静かに歩き始め、再びメアルフェザー様の元に戻る。

 

 メアルフェザー様は穏やかに……少し寂しそうに笑いながら僕に言った。

「そうだ。よく分かったな。俺の本体はこの大木だ。リンネ……リンネアルが最後の神力を使って生み出したんだ」


「……メアルフェザー様は、その力を自分で発動することは出来ない。だから自由に使えるのはごくまれで、あくまで蒼刻の魔術師に分け与えるだけーー」

 僕はメアルフェザー様が、1度だけ店に現れた時のことを思い出していた。

 あの時、確かに彼は蒼い月から離れていた。

 

 メアルフェザー様は……蒼刻の花嫁の証を授ける時だけ、自由に動けるんじゃないかな?


 おそらく昔の蒼刻の魔術師が、彼に思いを向けて、魔法で叶えたのだろう。

 『自分の愛する人に特別な加護を下さい』と。


 時によって疎まれてしまう蒼刻の魔術師。

 その伴侶になってくれる相手を守りたい一心で、きっと蒼願の魔法をかけたのだと思う。


 彼に蒼願の魔法をかけられるということはーー


 僕はメアルフェザー様に向けて、堂々と告げた。

「けれど貴方の強い思いなら、蒼願の魔法にすることが出来ます」

「!?」

 思いがけない提案に、メアルフェザー様が目を見張る。


「僕はリンネアル様から〝メアルフェザー様を幸せにして〟と託されました。そんな彼女が貴方に抱く思いは『縛り付けてしまったメアルフェザー様の解放』です」

「…………リンネ」

 彼は切なげに目を伏せた。


「リンネアル様は、貴方がひとりでこの地に生き続けなければならないことに、ずっと心を痛めているそうです。〝ごめんなさい〟と……」

 そう伝えた瞬間、一陣の風が吹いた。

 甘い香りを乗せて運ぶその風は、リンネアル様の意思だ。


 彼女の魂は生まれ変わることなく、湖に留まっている。

 正確には……

 湖の底の大木の根本に、だ。


「リンネは御神木である俺に、精神が宿るなんて思っていなかったんだ……」

 メアルフェザー様が弱々しく呟く。

 僕はこくりと頷いた。

「けれど、メアルフェザー様は解放を望んでいませんよね? それでは幸せになれませんよね?」

「??」

 念を押す僕を、不思議そうに彼が見つめる。


 僕はニッと笑い、自信ありげに宣言した。


「だから……メアルフェザー様の思い『リンネアル様と共に生を歩む』を叶えにきました!」





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