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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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162/165

162:思いを集めて 


 タナエル王子の剣を止めた僕に、会場内の視線が一斉に集まった。

 恥ずかしくて固まったけれど、勇気を振り絞ってその気持ちを跳ね除ける。


「……ぼ、僕がこいつから1番ひどい目にあったんだ!」

 ビシッとリヒリト王子を指差して続ける。

「デタラメな噂を流されて、パレードで爆弾を浴びた時なんか……生死の境を彷徨(さまよ)ったし、なっ!!」


 突然始まった僕の熱弁に、背後にいるルークとホリーが騒ぎ始めた。


「え? ディランはどうしたんだ?」

「あれじゃない? 自分だけ風刺画っぽいことしてないから……」

 コソコソとふたりが喋る。

「あー……じゃあディラン的には全力で悪ぶってる?」

「そうなんじゃない? どう思う? ジゼル?」

 

 ホリーに話を振られたジゼルが、思いっきり眉を下げて笑う。

「…………ちょっとワイルドで、カッコいいんじゃないかな?」

「…………さすが奥さんだな」

「聞いちゃってごめんね?」


 僕は思わず頬を赤くして3人をジロリと睨んだ。

 それからまたすぐに、タナエル王子に視線を戻して喋る。


「だから、刑の執行は僕にやらせ……ろ!!」

「…………」

 僕の下手くそな小芝居に困惑したタナエル王子が、剣をわずかに下げた。

 その隙に、僕はアルテアの杖をすばやくかざした。

 蒼い魔法陣がリヒリト王子のまわりに浮かび上がる。

 同時に、国王様の視線が僕に突き刺さるのを感じた。


 ひぃぃ!

 

 怯んで謝り倒してしまいそうな体を、なんとか制してリヒリト王子に向かって叫んだ。


「ここにいる全員が、お前に憎しみによる強い思いを向けている……ぞ! それを蒼願の魔法で叶えて地獄に送ってや、る! 死ぬより悲惨な目に合うだろう……!!」

 必死に自分なりの悪どい笑みを浮かべた。

 頬を引きつらせながら。


 そして目をギュッと閉じて呪文を唱えた。

 誰にも止められないように大声で。

 今までにないほど早口で。



 すると再び、会場内に蒼い光があふれた。


「…………ディラン」

 タナエル王子の小さな声が聞こえた。


「っや、めろ! やめてくれ!!」

 最後まで泣き喚くリヒリト王子の声も。


 僕は魔法に集中し、思いを掬い取った。

 

 どうか、この思いが叶いますように……

 と願いを込めて。




 無事に呪文を唱え終えると、魔法陣がより強く輝いた。

 リヒリト王子は眩しい蒼光に包まれ、その輪郭すら掴めなくなった。

 

 その光も次第に収まっていきーー


 月明かりだけが残る頃には、壇上にいた彼の姿はなくなっていた。



「「「わぁぁああ!!」」」

 客席が再び割れんばかりにわく。


 僕はひと段落ついたと感じて、大きく息を吐いた。

 そんな僕を、複雑な表情で見ているタナエル王子に気付く。

 ニコリと笑ってみせると、彼はそっと近付いて来た。


 目の前に立ったタナエル王子に、僕は国王様に聞こえないように声をひそめて言った。

 ……まあ、これだけの歓声のなかじゃ、普通に話しても誰の耳にも届かないだろうけど。


「勝手なことをして申し訳ございません」

「……リヒリトには何をかけたんだ?」

「『自分の弟としてではなく、幸せに生きて欲しい』という願いと、僕からの『どっか行け!』という願いを叶えました」

 僕は悪びれもせずに、ニコニコと答えた。

 

 願いの内容的に、リヒリト王子は第二王子だった記憶を失い、どこか新天地で幸せになる……と思う。

 そこまで上手く魔法がかかったか分からないけれど、要は彼次第だ。


 タナエル王子が困ったような苦笑を浮かべた。

「…………本当に、勝手なことをしてくれたな」

「僕はみんなを幸せにする蒼刻の魔術師です。そのみんなには、タナエル王子も入ってますよ」

「…………」

 タナエル王子がハッとしてから目を伏せた。


 僕はゆったりとほほ笑んだ。

 どんなに怒られようと、僕はタナエル王子の心を守りたかったから。

 

 いくら強くて国民を守る立場の王子様でも、誰からも守ってもらえないなんて、不公平じゃないか。


 タナエル王子はゆっくりと視線を上げて、僕を見た。

「私の邪魔をしたから礼は言わない。ただ……ディランが私の専属で良かった」

 王子は爽やかな笑顔を浮かべると、最高の賛辞を送ってくれた。


「僕もーーーー」


 何か返事をしようとした瞬間、目の前の景色がグルグルと回り始めた。

 目まいに襲われた僕は、ドタンと後ろに倒れてしまう。


 背後にいたジゼルが、逆さまに見えた。

 彼女が驚いて、両手を口に当てながら言った。

「あ、ディランの下手な演技に気を取られて忘れてた! 2回も蒼願の魔法をかけたから、魔力切れだよ!」

 慌ててしゃがみ込んだジゼルが、僕を上から覗き込む。


 彼女に続いて、ルークとホリーも駆け寄ってきた。

「下手って言っちゃってるね」

「な?」

 2人は軽口を交わしながら僕のそばに膝をつき、なんだかんだ心配そうに僕をのぞき込んだ。


 ジゼルの青い瞳がゆらめく。

「大丈夫??」

「……なんとか……」

 僕はみんなに笑い返した。

 

 僕の顔の上には3人の顔が仲良く取り囲んでおり、その上から立ったまま覗き込むタナエル王子が見えた。

 

 もっと先には、夜空に浮かぶ蒼い月が。

 

 僕ら蒼刻の魔術師に、力を与えてくれる不思議な月。

 その神秘的な蒼い月を見ながら僕は思った。


 やっと。

 やっと分かった気がする。

 

 メアルフェザー様を幸せにする方法が。


 僕は月に向かって……そこにいるメアルフェザー様に向かって、柔らかくほほ笑んだ。



  


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