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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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161/165

161:思いを集めて


「実に見事だった。未来を(にな)う魔術師たちよ。タナエルの代は安泰だな」


 壇上に現れた国王様が、低くて威圧感のある声を震わせた。


 後ろに家臣を数名引き連れながら、タナエル王子のそばにやってくる。

 王子とミルシュ姫は武器を納めると、頭を下げて迎えた。

 突然の国王様の登場に、場内は唖然としていた。

 けれど、王太子夫妻がすぐに礼を取ったのを皮切りに、そばにいたセドリックやキュロ、そして僕らも、次々と頭を下げていった。


 国王様はその様子を見渡してから、タナエル王子に重々しく語りかける。


「最後の仕上げをすればの話だが……」

「はい父上。分かっております」

 返事と共に顔を上げたタナエル王子の声は、少しだけ悲しそうに聞こえた。


 気にかかった僕がそろそろと顔を上げた時、壇上の端にいたリヒリト王子が叫んだ。

「な、何をするんだ!?」

 王宮の騎士に拘束された彼が、タナエル王子の前に引きずり出された。


 ジゼルの拘束する魔法はとっくに切れていた。

 けれどリヒリト王子の一行は、その場から1歩も動けずにいたようだ。

 呆気なく全員が拘束されていく。


 床に放り出されたリヒリト王子は、無様に転がりながらも、手をついて上半身を必死に起こしていた。

 そんな彼に国王様が告げた。


「リヒリトよ。お前の行動は目に余る。国民の命を危険に晒す真似は看過(かんか)できない」

「……父上……」

「よって、ここで処刑する」

「!? そんな!? 僕はただ……兄さんより優れていることを証明したかったんだ! 戦場に……同じ土俵に、いつまでも立たせてくれないから……」

 青ざめていたリヒリト王子が、キッと国王様を見据えて続ける。

「兄さんがなかなか戦果を上げなければ……国民たちからの声が大きくなれば、僕にもその役目が回ってくると思ったんだ!!」


 僕が以前感じ取った、リヒリト王子からタナエル王子に向けた『兄を追い抜きたい』という強い思いが、痛いほど伝わってきた。


「こんな街中にゲートを開く指示なんて、していなかったんだっ!!」

 リヒリト王子が必死に訴えた。

 

 僕があの時感じたとおり、彼はゲートを塞ぐ時に思いを乗せていた。

 リヒリト王子も、グランディ国を転覆させたかった訳ではなさそうだ。


 けれども国王様は、彼を終始冷ややかな目で見つめている。

「今まで兄弟間の争いも、切磋琢磨の機会として大目に見ていた。だが、このままお前を生かしておくことはーー此度(こたび)の魔物との戦いで命を失った兵士たちへの、示しがつかないと判断した」

「…………」


「タナエル」

「はい」




 国王様に指示されて、タナエル王子がリヒリト王子の前に歩み出る。

 ゆっくりと、鞘から剣を引き抜きながら。

 

 顔面をこわばらせ、蒼白になったリヒリト王子は、恐怖で歯を鳴らしながら兄の動きを目で追っていた。

 座り込んだまま、尻を引きずるようにズルズル後退すると、背後から忍び寄った騎士に捕まえられる。

 彼は両手を後ろに取られ、両膝をついた姿勢で、首を差し出すように頭を押さえつけられた。


「うぅ……離せっ!!」

「大人しくして下さい。暴れた方が苦しみますよ」

 がっちりと体を固定されても、なお抵抗を続けるリヒリト王子に、落ち着きを払った声で騎士が告げる。


 タナエル王子は窮地に追いやられた弟の様子を、無表情で見つめていた。

 ことの成り行きを見守っていた国民たちも、場の雰囲気に呑まれてか、口々にリヒリト王子に向けて罵倒を浴びせ始めた。

 

「よくも俺たちを騙したな!」

「魔物を呼び寄せていただなんて……なんて酷いことをするの!?」

「国民を何だと思ってるんだ! そんな奴やっちまえ!!」


 長く魔物の恐怖にさらされてきた国民たちの、やり場のなかった感情が爆発する。

 リヒリト王子に向けられた強い思い……黒い黒い憎悪が。


 僕はこの状況にひどく動揺していた。

 リヒリト王子は確かに酷いことをした。

 国王様が言うように今回だけでなく、以前から何度も……

 

 けれど……

 今、

 この場で、

 タナエル王子が、(みずか)ら手を下さなきゃいけないのかな!?


 僕は泣きそうになりながら、タナエル王子とリヒリト王子を見つめた。


 みんながリヒリト王子を憎むなか、タナエル王子だけは……

 どこまでも純粋な思いを向けていた。

 その思いが、僕の中に飛び込んでくる。


第二王子(自分の弟)じゃなければ、幸せに生きられたのに』




 僕はつい口元を緩めてしまった。


 まったくこの兄弟は。

 いがみ合いながらも、本質では相手を思ってて……なんて似たもの同士なんだろう。


 そう思った時には、僕はすでに動いていた。

 剣を振り上げたタナエル王子に向かって叫ぶ。


「待て!!」


「…………え?」

 

 命令口調の僕に驚いたタナエル王子が、初めて素でぽかんとしていた。





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