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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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160:思いを集めて 


 すぅっと息を吸い込んだ僕は、声を前の広い空間へまっすぐ飛ばした。


「僕は蒼刻の魔術師です!」

 

 壇上の縁に立ち、国民たちに向かって呼びかける。

 僕は背筋を真っ直ぐ伸ばし、恥ずかしがらずに胸を張った。


「僕らは〝人から向けられた強い思い〟を、蒼い月の力を借りて魔法で叶えることが出来ます!」


 ドラゴンの登場から、ずっと静かに様子を見守っていた客席がざわめき始めた。


「蒼こく……の魔術師? 青じゃなく?」

「聞いたことあるような? でも思いを魔法で叶えるって……」

「何だか夢のような話だな」


 騒がしくなるのは仕方がないことだった。

 それもそのはず、僕ら蒼刻の魔術師は知名度が低い。

 魔術に興味がない人は、知らない人も多いだろう。


 僕は負けじと声を張り上げて伝えた。

「今からこの魔物が出てくる穴を、その魔法で塞ぎたいと思います!!」


「本当にそんなこと出来るのか?」

「あ、あの人、タナエル王子様のパレードで見たことあるかも!?」

「王子専属の魔術師? パッとしないやつだな」


 ガヤガヤと、客席が騒然となっていく。



「けれどそのためには、皆さんの思いが必要でーー」


「それよりも今のうちに逃げた方が……」

「いつ魔物がまた現れるか分からないしな」

「そうだ! そうだ!」




「…………」

 みんなが僕の話を聞いてくれず途方に暮れていると、左隣にダレンが立った。


「みんなよく聞け! リヒリト王子に騙されていた愚かどもが! お前たちが奴を助長するから、こんな穴が開いたようなもんだろ!? だからお前らも、この穴を塞ぐのに協力するんだ!!」

 そう彼が言い放つと、国民たちはシンと静まり返った。

 わざと偉そうに言って注目を集めたダレンが続ける。


「俺たち蒼刻の魔術師が、体を張ってこの穴を塞いでやるから、お前たちは祈れ! 願え! 『魔物が出てくる穴が塞がりますように』と。いいか、穴が塞がることを願えよ! 魔物がいなくなりますようにじゃないぞ!」


 国民に言い終わったダレンは、僕を肘でつつきながら小声で告げた。


「もっと堂々としろよ」

「……うん。ダレンが居てくれて助かったよ」

「…………」

 彼は口をぽかんと開けて呆れ返ってしまい、僕を冷めた目つきで見た。

 けれどボソリと続ける。

「俺も微力ながら手伝うよ」

 そう言って客席に背を向けて、魔法陣の方を向いた。


 次にジゼルが僕の右隣に立って、みんなに語った。

「私も蒼刻の魔術師です。私たちは願いが強ければ強いほど、強力な魔法をかけることが出来ます。どうか『魔物が出てくる穴が塞がりますように』と願って下さい。ここにいる人たちの力で、平和なグランディ国を取り戻しましょう!」


 凛とした姿で呼びかけ終えたジゼルが、くるりと客席に背を向けた。

 僕の方を照れながらチラリと見ると、目を閉じて祈りのポーズをとる。


「……じゃあ、魔法をかけますね」

 最後に僕が、客席のみんなに穏やかな声をかけて、背後にある魔法陣と向き合った。


 国民たちからは、僕ら3人の背中にある国の紋章が揃って見えた。

 その盾と剣の紋章が入った蒼いローブが、風にふわりと舞う。

 〝随分軽くなったな〟と思いながら、僕は目を閉じて呪文を紡いだ。

 僕の声にダレンの声も重なり、思いを……希望を乗せて、唱え続ける。

 

 大丈夫。

 1人じゃない。

 みんながいる。


 僕は自然と笑みを浮かべていた。


 


 蒼い月の力を借りて、僕ら蒼刻の魔術師は人々の願いを叶える。

 使命でもなく、ましてや義務でも無い。

 けれど僕らは、この魔法を使うことを欲してやまない。

 

 おそらくそれは、人を幸せにしたいというリンネアル様の意志を継ぐから。


 …………


 必ず、この黒い穴を塞いでみせる。

 必ず、みんなを幸せに導いてみせる。


 僕は蒼刻の魔術師。

 蒼い月を味方につけて、何でも魔法にしてしまうことが出来るんだ!


 


 僕は思いを込めて、みんなから向けられた強い思いを掬い取った。

 蒼く光り輝く魔法陣の外側に、さらに元始の魔法陣が展開される。


 すると、これまでになくはっきりと、1人ひとりの思いが伝わってきた。

 ジゼル、タナエル王子、ミルシュ姫、セドリック、ルーク、ホリー、レシア、キュロ……

 

 そして……リヒリト王子からも。


 僕の心は不思議と()いでいった。

 ゆっくりと丁寧に、呪文の最後の一節を唱える。


 式典会場が、蒼く蒼く沈んでいったーー

 

 ーーーー

 ーー




「「「わぁぁぁぁああ!!」」」


 割れんばかりの歓声が沸き起こった。


 僕がその声に釣られて瞼を持ち上げると、目の前にあった黒い穴は綺麗さっぱり消えていた。

 キュロの(いばら)もなくなっており、元の石造の床が見える。


「やったぁ!! 成功したよ!」

 ジゼルがピョンピョン跳ねながら、僕の腕に抱きついた。

「上手くいって良かった。ジゼルありがとう」

 僕も彼女の肩を抱いて喜び合う。


「あぁー! きっつい。魔力がほとんど無い!」

 ダレンが床にへたり込んだ。

「お疲れ様。ダレンが手伝ってくれたから、僕はその分楽だったよ。ありがとう」

「…………余裕の顔で立ててるなんて、流石だな」

 彼は僕を見上げて、息をつきながら笑う。


 そんな僕らの所に、ルークとホリー、そしてレシアも駆けつけてくれた。

「わぁー! 良かったぁ!」

「やるじゃん、ディラン!」

「瓶が割れた時は、どうなるかと思ったねー」


 無事にグランディ国を守ることができ、みんなで嬉しさを噛みしめている時だったーー


 壇上に意外な人が現れ、再び場内が水を打ったように静まり返った。




 

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