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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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156/165

156:反撃開始! 


 リヒリト王子たちが国民を集めたのは、式典会場だった。

 年に一度、魔術師たちと王族が一堂に会する、格式高いあの場所だ。

 

 太陽が少し傾きかけた頃、その集会は始まろうとしていた。


 会場前方の壇は半円形で、奥が緩やかなカーブの壁に囲まれていた。

 その壇の手前の(ふち)に、リヒリト王子が立っていた。

 (かたわ)らには、彼を支持する貴族や権力者たちがずらりと並び、壮観な列をつくっている。

 彼らの後ろで、興味なさそうに壁にもたれているヴァシルクの姿も見えた。

 ひとり冷めた様子の彼は、王子たちを静かに眺めている。

 

 壇の手前には少し広めの石畳の空間があり、そこから客席にあたる場所が始まっていた。

 ゆるやかな半円状の階段が幾重にも重なり、すり鉢のように会場を囲む形になっている。


 僕とジゼルは、その階段席の一角に紛れていた。

 灰色の外衣のフードを深く被り、出番が来るまで息をひそめていた。

 



 壇上では、高貴な身なりの男性が一歩前に出ると、集まった国民に向けて演説を始めた。

「いいですか皆さん! このままではグランディ国は魔物に攻め入られてしまいます! ここも(じき)に戦場となるでしょう。けれどリヒリト王子なら、タナエル王子と違って止めることが出来ます!!」


 野心的で勢いのある彼に、見覚えがあった。

 いつもリヒリト王子のすぐそばにいたあの人だ。

 きっと、側近と呼んでいい存在なんだろう。


 彼の熱弁を受けて、リヒリト王子が前に進み出る。

「長引く魔物との戦い。終わりの見えない未来への不安。そんな国の現状に、僕は大変心を痛めている……」

 王子が形の良い眉をひそめて、憂いを帯びた表情を浮かべた。

 聞き入る国民たちも、今にも泣き出しそうな彼の様子に胸を掻き立てられ、ため息をもらす。


「けれど国王である父上は、戦う権限を僕に認めて下さらない! おかしいではないか? 誰よりもこの国の為に戦いたい僕が、何も出来ないなんて……手をこまねいているだけは、もう我慢ならない!!」

 王子が思いの丈をぶつける。

 その熱意に、不思議と嘘が混じっている様子はなかった。


「僕はこの国の人々を守るために、立ち上がることを決意した! 必ずやこの魔物との戦いを終わらせて見せる!!」

 リヒリト王子は胸を張り、堂々と言い切った。

 王子の力強い宣言に、国民たちがざわめき始める。


「……本当だろうか?」

「けど実際、王太子様じゃ魔物を退治できてないし……」

「あれだけハッキリ言い切ったんだ。何か策があるに違いない! オレはリヒリト王子を支持するぞ!」


 この場にいる全ての国民が、リヒリト王子を全面的に支援している訳ではなかった。

 けれど、長く続く戦争が少しでも早く終わるのならと、王子に期待を寄せ始めていた。




「待ちなさい!」

 式典会場に凛とした声が響き渡った。

 壇上の右端には、いつの間にか現れたミルシュ姫が立っていた。


 彼女は赤いドレスを(まと)い、豊かな黒髪は片側に流れるようにセットされていた。

 (あら)わになった耳から首筋、そして肩へと続く肌は、異様に白く(なま)めかしく映った。


「いつの間に!?」

 側近の彼が上擦った声をあげ、隣に立っていた者に鋭い視線を投げた。

 その人は慌てて首を横に振る。


 側近たちだけではなく、しっかり警備していたはずの会場内に……しかも自分たちのそばに突然現れたミルシュ姫に対して、リヒリト陣営は大きく動揺していた。


 その隙にミルシュ姫が大声で告げる。

「私は知っています! 貴方達が魔物と手を組んで、この国に仕向けていることを!」

 彼女の芯の通った声のあとに、国民たちが一斉に息を呑む音がした。


 リヒリト王子を支援する貴族たちが、口々に叫ぶ。

「何を根拠にそんなことを!?」

「苦し紛れの嘘をつかないで頂きたい!」


 外野が騒ぎ立てる中、ミルシュ姫はおもむろに右手を差し出した。

 その指先からは、赤い雫がポタポタと落ちていた。

 よく見ると姫の腕には切り傷があり、そこから細い糸かのように、血がトロトロと流れ出している。


 途端にヴァシルクがうめき始めた。

 ちょうどミルシュ姫とは反対側ーー壇上の後方にある壁際に控えていた彼の様子が、突如として激変した。


「っう、あぁぁ……!」

 ヴァシルクは何かに操られているかのように、フラフラと歩き、ミルシュ姫にゆっくりと近付いていった。


 姫はニヤリと笑うと、国民たちに向けて自信たっぷりに言い渡した。

「私の血は噂通り、魔物を寄せつける効果があります。その力をもってして、リヒリト王子と手を組んだ魔物を炙り出しましょう!」


 リヒリト王子が、ミルシュ姫の目的を理解してハッとした。

 ちょうどその時、ヴァシルクがそばを横切ろうとしたので、腕を掴んで引き止める。

「何をしているんだ!?」

「うるさいっ!!」

 ミルシュ姫の血に当てられたヴァシルクが、王子の手を乱暴に振り払う。


 彼は爛々(らんらん)とした赤い瞳で、ミルシュ姫だけを捉え続けていた。




 

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