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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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153/165

153:君に無償の愛を。 


「……で、何?」


 僕の目の前には無事に神力が戻り、体を再生させたフォティオスが立っていた。


「フォティオス様ー! 良かった! 良かったですー!!」

 その横には、泣きながらフォティオスの胴に抱きついて離れないエイレーネがいた。


 ーー彼女は見事に『絶対に神力を戻す!』というフォティオスに向けた願いを叶えていた。

 そして再び目覚めたフォティオスと感動の再々会を果たすと、何を言っても引っ付いて離れなくなってしまった。


 フォティオスは慣れているのか、エイレーネをくっつけたまま器用に立ち上がると〝もう用はないから〟みたいな目線を僕らに投げかけた。

 そしてエイレーネを半ば引きずりながら、スタスタと離れていくーー


「ちょ、ちょっと待って!」

 僕とジゼルは大慌てで彼らを引き留めた。

 それですこぶる不機嫌なフォティオスが、僕らの目の前にいるのだ。


 殺気とまではいかないけど〝早く帰れよ〟というような、前とは違った圧を感じる……


「えーっと……」

 僕が言葉に詰まっていると、フォティオスが呆れて先に喋る。

「何? お礼を言って欲しいのか? 面倒だな。……エイレーネのことは感謝してるさ」

「フォティオス様はこんな態度ですが、めちゃくちゃ喜んでますよー。私もまた、こうして抱きしめられるなんて、夢みたいです! 蒼の魔術師さん、ありがとうです!!」

 

 ついさっきまで敵だった2人からの、好意的な態度にひとまずホッとする。


 フォティオスが、喜びで満ち溢れるエイレーネを落ち着かせようと、彼女の肩に手を置いた。

「わわっ!? 復活してからのフォティオス様の態度が激甘です!! 私をこんなに素直に受け入れることなんて、なかったんですよー!?」

 けれど逆効果だったようで、エイレーネが鼻息荒く興奮し始めた。

 彼女は幸せそうに目をギュッと閉じて、更にフォティオスを抱きしめた。

 彼はその勢いに驚いた拍子に肩から手を離し、そのままスンとした表情で手を下げた。

 そして僕をじとりと見つめ返す。


 何となくその表情が〝もっとうるさくしてすまない〟と言っていそうだった。


 2人の案外気兼ねしない様子に後押しされて、僕は本来の目的を相談した。

「……僕らのいるグランディ国が魔物に攻め入られているんだ。その……やめて欲しいんだけど」


 フォティオスは眉をひそめて答える。

「やめて欲しいと言われても……何のことだか分からない」

「フォティオス様は、昔はガンガン攻めていましたが、往年は飽きてほとんど配下に任せてましたよー」

 くっつき虫のエイレーネが続いた。


「最近では、その配下を管理するのも面倒だからしてない」

 仏頂面のまま言い放つフォティオスからは、嘘を言っているようには感じられなかった。


 ジゼルが恐る恐る尋ねた。

「じゃあ、あなたじゃない違う人ですか? 容姿が似てるって聞いて……」

「…………」

 少し考え込んだフォティオスが僕らを一瞥(いちべつ)し、外への扉を開けて出て行った。

 エイレーネは相変わらずズリズリと引きずられている。

 けれど不意にフォティオスが彼女に目をやると、エイレーネの足元がふわりと光った。


「……あ、私の?」

 彼女の視線の先には、ブーツが現れていた。

「裸足のままは傷付くだーー」

「気遣ってくれたんですかー!? 何も履いてない私の足を! フォティオス様が優しすぎるー!!」

 ぶっきらぼうに答えるフォティオスを、エイレーネが食い気味に褒めちぎる。


「…………」

 フォティオスが構わずに歩いたため、エイレーネの声が遠ざかっていった。

 僕とジゼルも少し遅れてからついていくと、彼らは庭にある小さな池の前に立っていた。

 

 フォティオスの手が池の上に差し出されたとたん、水面がやわらかく光を帯びた。

 水鏡のように(またた)くと、どこかの風景を映し出す。

 それを見たエイレーネが歓声を上げた。


「神力が戻って、それも出来るようになったんですねっ!」

「あぁ、エイレーネが戻してくれたから…………ありが……と……」

 フォティオスが消え入るような声でお礼を伝えると、エイレーネは息を呑んだ。


「っ!? キャー!!!! あのフォティオス様がこんなに素直なんてー!?」

「うるさい」

「私もっ!! 私も未来永劫愛しています!! フォティオス様ー!!」

 感極まったエイレーネが、彼の正面に回ってギュウギュウ抱きついた。

 フォティオスは鬱陶(うっとう)しそうに彼女の頭を横に押しのけると、池に映し出された光景を覗き込む。


「……グランディ国のそばにいる高位の魔物を調べたら、こいつっぽいけど。しかも国内に入り込んでるな」

 フォティオスが指をさした先には、暗い部屋で数名の大人たちと話す、背の高い少年がいた。

 大きなテーブルの席につき、みな薄笑いを浮かべて何かを喋っているようだ。

 音は聞こえないのだけれど、少年はニヤニヤと笑いながら何かを得意げに答えている。

 肩が揺れるたび、黒い巻き毛から覗く赤い瞳がちらりと見えた。


 その時、話すのをやめてみんなが一斉に同じ方向を見た。

 誰かが部屋に入ってきたようで、少年以外の大人たちは揃って席を立ち、(うやうや)しく頭を下げた。


 少年は頭の後ろで手を組み、来た人に何かを言っていた。

 遅れて来たことにでも文句を言ったのか、鼻で笑った少年の隣に座ったのはーー


 リヒリト王子だった。




 

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