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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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15/165

15:2人暮らし


 無事に家に帰ってくると、ジゼルは朝に干していた洗濯物を取り込んだ。

 僕が二度寝している間に、洗濯してくれていたらしい。


「ディラン、このタオルはあっちでいい?」

「うん。そこのカゴに1枚置いといてくれる?」

「はーい」


 僕はジゼル用に買ってきた歯ブラシとコップを、洗面所の棚に仕舞う。

 ジゼルはパタパタと足音を立てて、タオルを片付けにいった。


 …………

 一緒にご飯を食べたり、食器の片付けしたり、買い物したり……

 正直言うと、こういうのっていいよね。

 

 僕はジゼルの後ろ姿を見送った後で、2人暮らしの楽しさを噛みしめていた。

 本当にジゼルが、お嫁さんに来たみたいになってしまっている。

 お嫁さんは僕も欲しいから、憧れていた生活が体験出来てちょっと嬉しい。




 買ってきた生活用品の片付けが終わると、僕はリビングへと移動はした。

 するとソファに座ったジゼルが、ぼんやりと前を見つめている様子が目に入った。

 彼女の目線の先を見ると、そこには背の低い棚があり、1番上の目立つ場所に黒いベルベットのチョーカーが飾られている。


「どうしたの? 疲れた?」

 心配した僕は彼女の隣に座った。

「……っあ。ごめんね。ぼーっとしてた」

 ジゼルが眉を下げて笑う。

 そして「なんでもないよっ」と慌ててニコニコと笑った。


 見ていて痛ましいほどの空元気だ。


「何でもなくはないよね? 僕に言いにくいことでもいいから、聞かせてよ」


 ジゼルは猫にしては珍しく……珍しいのかな? 僕に対してすごく気を遣ってくれる性格だった。

 絶対に蒼願の魔法関係について悪く言わない。

 だから頑なに喋ろうとしない時は、僕の魔法関係で悩んでいる証拠だ。


 ジゼルはしばらく僕を見つめて悩んでいたけれど、ぽつりぽつりと喋り始めた。


「…………ふとした時に、ウィリアムが亡くなったことが、たまらなく悲しいの」

 ジゼルの青い瞳に涙が溢れた。


「しかも……〝ジゼルさん〟とウィリアムの思い出も私の中にあるから……〝ジゼルさん〟としても悲しいの」

 彼女の涙がポロポロとこぼれていく。

 

 ジゼルが涙する様子に胸が締め付けられた僕は、思わず眉をひそめてしまった。

 

 それを見て勘違いしたジゼルが、必死に言い訳をする。

「……あ、違うの、私が望んだことだから……望んで〝ジゼルさん〟になったから、仕方ないことだって分かってる。蒼願の魔法をかけてもらったことは、後悔してないんだよ。本当だよ…………ごめんね、ディラン」


 意地らしい彼女を僕は優しく抱きしめた。

 ジゼルが腕の中で懸命に繰り返す。

「本当なんだよ?」

「うん。分かってるよ」


 …………

 やっぱり今回の蒼願の魔法は、ジゼルにとって〝呪い〟だったのかな?

 

 あれだけ彼女を幸せな結末に導くと豪語していたのに、悲しんでいるジゼルを見ると、僕は途端に弱気になってしまった。

 

 ーーどうかジゼルが、ウィリアムとの素敵な思い出に、笑顔を浮かべる日が来ますように。

 

 僕は願いを込めてジゼルを抱きしめ直すと、彼女が泣き止むまで胸を貸してあげていた。




**===========**


 翌日。


 僕はまた、ジゼルにくっつかれてよく眠れなかった。

 だからまた朝に2度寝をしていると……

 また先に起きているジゼルに揺れ起こされた。


「ディランにお客さんが来てるよー」

 ジゼルがゆさゆさと僕を揺らす。

 僕は寝ぼけ(まなこ)を擦りながら起き上がった。


「……おはよぅ…………お客さん?」

「かなぁ? ディランに蒼の魔法で、何かを見てもらいたいって言ってたから、お店のソファで待ってもらってるよ」

「ありがとう……」


 ようやく意識がハッキリとしてきた僕が、改めてジゼルを見ると、彼女は昨日買ったワンピースを着ていた。

 手には大きめなカゴを持っている。


「どこかに行くの?」

 僕が聞くとジゼルがこくりと頷いた。

「食材を買いにマルシェに行ってくるね」

「1人で大丈夫?」

「うん。ここから近いから大丈夫だよ」

 そう言ってジゼルは出掛けて行った。




 ……誰かと暮らすってやっぱりいいよね。

 しかも可愛い女の子となると尚更。


 夜に変な葛藤でよく眠れないのはさておき、僕は今の穏やかで幸せな状況に頬を緩めた。


 そしてささっと身支度を整えると、お店へと向かう。

 日中は店を閉めているけれど、たまに相談したくて訪ねてくるお客様がいた。


 今日もそんな人が来たのかな?

 と思いながら、お店に繋がる扉から顔を出すと、ソファに座っている男性と目が合った。


「ディラン、久しぶり!」

「なんだ。ルークか」

 お客様と思っていた僕は、一気に力を抜いた。

 

 そこには魔法学校からの友人がいた。



 

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