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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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142/165

142:蒼刻の魔術師ジゼルとセイレーンのラフィナ


 蒼い月が雲から覗く静かな夜。

 今日はディランを助け出すための、作戦決行日だった。

 ジゼルとラフィナは、ある大きな屋敷の前に立っていた。

 

「ラフィナ……寒そうだね」

 ジゼルは、隣に立つラフィナを見ながら言った。

 彼女は背中ががっつり開いた、ロング丈のワンピース姿だった。

 どこかのパーティに歌いに行くかのような格好だ。


「背中に何もない方が、翼を出しやすいからねっ。本気でセイレーン化すると、下半身も羽毛に覆われて足も鳥タイプになるし」

 張り切って説明したラフィナだったけれど「……やっぱり寒いや」と言って、腕にかけていた上着を羽織り始めた。


 そんなやりとりとしていると、屋敷の中からダレンが出てきた。

「久しぶりだな」

「いきなりでごめんね」

「こんばんわ」


 各自が軽く挨拶を交わすと、初対面のダレンとラフィナは互いに会釈を交わした。

 そのあとで、ダレンは〝こんな夜にどうしたんだろう?〟と言うように、きょとんとしながらラフィナとジゼルを順に見る。


「…………ディランは居ないのか?」

 やがて、いつもジゼルの隣にいるはずのディランの姿がないことに気付き、眉をひそめて視線をジゼルに戻した。


「今日はそのディランを助けるために、ダレンに蒼願の魔法をかけて欲しいの」

「ディランを助ける?」

 ダレンがますます困惑した。




 ジゼルたちはひとまず屋敷に通され、奥の部屋へ案内された。


 ジゼルとダレンが並んで歩き、その後ろをラフィナがついて、広い廊下をぞろぞろと進んだ。

 ラフィナは屋敷の中の豪華さに驚いて、キョロキョロしていた。

「すごーい。貴族の立派な家みたい〜」

 少しはしゃいでいる声を背中で聞きながら、ジゼルはダレンに説明した。


 ディランが(さら)われてしまったこと。

 おそらく彼は、魔物の国にいること。

 そこにラフィナと2人で助けに行きたいこと……

 前を真っ直ぐ向いたジゼルが、足早に歩きながら一気に喋った。


 話が終わると、タイミングよく大きな部屋へとついた。

 窓際の床には魔法陣が(えが)かれており、蒼い月明かりを煌々(こうこう)と浴びている。


 格式高い部屋に佇むその魔法陣は、厳かで美しかった。


 ……ディランの魔法陣と、随分雰囲気が違うなぁ。

 

 ジゼルはつい、いつもの店の景色を思い浮かべてしまった。

 優しく笑うディランと一緒に。


「…………」

 

 込み上げてくる感情をグッと抑え込んだところに、ダレンが話しかけてきた。

「事情は分かったけど、蒼願の魔法でどうやって魔物の国に行くんだ?」


 ジゼルは、ダレンにしっかり向き直って返事をする。

「会いたい気持ちを使って、転移魔法をかけて欲しいの」

「……??」

「ほら、ディランが私に向けて何か思ってるでしょ? 『ジゼル助けて』とか『ジゼルに会いたい』とか!」

 ジゼルがじりじりと詰め寄った。

 そんな彼女の勢いに、たじろいだダレンが返す。


「分かった分かった。まずはジゼルに向けられている思いを探ってみるから……」

「キールホルツ国の王子に捕まった時も、私に向けられたディランの思いを使って、ここに帰って来たんだよ。ナフメディさんとっーー」

 ジゼルはそこまで説明すると、静かになった。

 ダレンが目を閉じて集中したからだ。


 けれどすぐに目を開けると、彼は気の毒そうに重い口を開いた。

「…………ディランがジゼルに会いたいとは思っているけど……こんな弱い思いじゃ無理だ」


 ちょっと離れた所で見守っていたラフィナが、思わず声を上げる。

「えー……」

「俺は普通の蒼刻の魔術師だからな。ディランみたいに能力が高くないんだ」

 ラフィナを横目で見たダレンが肩をすくめる。

 ジゼルは伏し目がちに眉を寄せ、ほんの少しだけ、恨めしそうな視線をダレンに向けた。


 ……思いが弱いのかぁ。

 でも、ダレンのあの言いようだと、ディランなら蒼願の魔法に出来る……?

 それならーー

 

 閃いたジゼルが叫んだ。

「蒼の魔法の能力が低いダレンは、大っ嫌い! 今だけ最上位の蒼刻の魔術師になって!!」

 

「「…………」」

 ダレンとラフィナが固まった。

 

 ジゼルが無彩の魔法を発動したのだけれど、魔法がかかる様子や変化が目に見えない。

 けれど能力が高まったことを肌で感じたダレンが、呆れた目でジゼルを見た。


「あのさぁ、魔法をかけるなら事前に言ってくれよ。本気ぎみの〝大嫌い〟だったよな?」

「あはは。ディランを助けに行きたくて必死なの」

 ジゼルがニコリと笑みを浮かべた。


 笑っては見せたけど、彼女の心の中は穏やかではなかった。

 早くディランのそばに行きたくて、気持ちだけが先走る。

 フクロウのココには、ディランの心音に変化があれば教えてくれるように頼んでいた。


 まだ何も知らせがないし、私に会いたいって思ってくれてるから、ディランは()()()()はずだけど……


 目の奥がツンとして、ジゼルの瞳にじわりと涙が浮かぶ。

 彼女は常に泣きたいのを我慢して、今も必死に立っていた。


 ジゼルの硬い表情を見て、何かを察したダレンが優しく声をかける。

「これなら蒼願の魔法をかけれるよ。魔法陣の上に立ってくれるか?」


 ジゼルはゆっくり頷くと、まだ呆然としているラフィナの手を引っ張って移動した。

 ラフィナは素直について来ながらも、消え入りそうな小さな声で聞いた。


「ジゼルが魔法をかけたんだよね?」

「うん。無彩の魔法っていって、目に見えないの。〝嫌い〟とか〝嫌〟とかの言葉がトリガーだから。魔物の国でも使うと思うし……慣れてね」

「…………」

 ラフィナが驚いた目で訴えかけるも、言葉は飲み込まれた。


「……ね?」

 ジゼルが、今度はわざとらしくほほ笑んで念を押した。

 



 魔法陣のそばに来たジゼルは、その中央に足を踏み入れた。

 手を繋いだまま、ラフィナも横に寄り添ってもらう。

 今回、蒼願の魔法をかける主体はジゼル自身だ。


 足元の魔法陣をひとしきり眺めると、彼女はゆっくりとダレンに視線を向けた。


「準備出来たよ」

「…………本当は俺も行きたい所なんだけど」

「分かってる。私の無彩の魔法は一般魔法レベルだから……言葉を盛ってはみたけれど、蒼願の魔法だけでも、ダレンに無理をさせてしまうし」

 ジゼルは気の毒そうに笑った。

 

 蒼願の魔法は1日に1回。

 しかも無彩の魔法で無理やり能力を引き上げて行うため、ダレンの魔力は残らないだろう。

 元々蒼刻の魔術師は蒼の魔法以外が苦手だし、魔力がなくなった彼がついてくると、足手まといになる。


 それが分かっているダレンとジゼルは、静かに頷き合った。


「じゃあ、蒼願の魔法を始めるぞ。ディランを頼む」

「うん。必ず助けてくるから」

 ジゼルは自分に言い聞かせるように、強く言い切った。


 ダレンが穏やかに笑ってから目を閉じ、呪文を唱え始めた。

 ディランとは違って、力強い芯のある声。

 静かに研ぎ澄まされた空気の中、魔法陣も蒼く美しく光り輝く。


 その強い光に包まれながらもーー

 ジゼルはやっぱり、ディランのあの優しい(うた)が恋しくなった。




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