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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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139/165

139:残されたジゼル


 蒼い月の夜。

 店の方からドタンという音がしたと思い、キッチンにいたジゼルはディランの様子を見に行った。


 そこには、あの怪しげな黒猫を抱き上げた彼の姿があった。

 ジゼルに気付き、こちらに振り向いたディランの腕の中で、黒猫が少女姿に変化(へんげ)する。


「ディラン!?」

 ジゼルはとっさに叫んだけれど、その時にはもう遅かった。

 

 ディランは忽然(こつぜん)と姿を消していた。

 あの黒猫と共に。




 ジゼルは2人の居なくなった場所を、呆然と見つめた。

 

 ーーやっぱり私の直感は正しかったんだ!


 黒猫を初めて見た時の胸騒ぎを思い出し、悔しさで唇を噛む。

 さっき仕切りに「見つけたにゃ」と言っていた黒猫は、ディランを探していたのだろう。

 なぜなのかは分からないけれど、何かよくない理由だとはすぐに想像がついた。


 どこに連れ去ったの……かな?


 ジゼルは泣きそうになりながらも、必死に考えた。

 すると、家の外から変な鳴き声が聞こえた。


「しょうねーん! いるかー?」

 よく聞くとその鳴き声は、人の言葉にも聞こえた。

 ジゼルが声の主を探して中庭に出ると、木に止まっているフクロウがいた。


「ココちゃん!」

「あー、ジゼル! 近くを通ったから、久しぶりに魔法をかけて貰おうと思って」

 ディランの昔からの友人の1人、フクロウのココだった。

 たまに蒼い月の日にふらりとやって来ては、人に変身するために、補助魔法をかけてくれとねだる。

 今ではジゼルともすっかり仲良しだった。


「私がかけてあげようか?」

「うん! よろしく、ディランのつがいー」


 本当はそれどころじゃないけれど、優しいジゼルはココの願いに応えてあげた。


 補助魔法の呪文を唱えた途端、ココは木の上で器用に変身し始めた。

 身を小さく丸めたかと思うと、淡い光に閉じ込められるようにココが見えなくなる。

 かと思ったらパッと光が弾け、枝に腰掛けた女性姿のココが現れた。

 どこかの学生のような服に身を包んだ彼女は、背中の羽を音もなく上下に動かし、ふわりと浮いた。


「少年は近くにいないんだな。……この街にも居ないのか。()()でもしているのか?」

 フクロウのココなりに〝旅行でもしているのか?〟と聞いているのだろう。

 居なくなったディランのことを聞かれて、どうしたものかとジゼルはシュンとする。


 どこにいるのか、私が知りたいんだけどな。

 …………

 え?

 ちょっと待って、ココちゃんはさっきーー


 ジゼルがドキドキしながら聞いた。

「……何でこの街に居ないのが分かるの?」

「この姿になると、覚えた音を探す範囲が広がるんだ。ディランの胸の音を覚えているから分かるぞ」

 ココが得意げに胸を張った。


「!?」

 ジゼルが目を見開き、彼女を穴が開くほど見つめた。

 その様子を不思議に思ったココが、木の上からゆっくりと地上に舞い降りる。

 ジゼルは期待に胸を高鳴らせて声を震わせた。


「じゃあ、今どこにいるのかも分かるの?」

「ん? ディランがどこにいるのか、分からないのか??」

 ココが顔を真横に倒した。


 それでジゼルは、ディランが連れ(さら)われたことを説明した。

「お願い。一緒に探して欲しいの」

 ジゼルが必死に平常心を保ちながらお願いすると、ココは翼を羽ばたかせてふわりと舞い上がった。


「それは大変だ。出来る限り探してあげるよ」

 快く答えてくれたココが、ニッと笑いながら言った。

「ありがとう!」

 ジゼルは魔法でホウキを出現させるとさっとまたがり、ココの隣に浮かび上がる。


 ココはそれを見届けると、真っ直ぐ前を見て飛び始めた。

「まったく。ディランは動物に好かれやすいなぁ」

 と苦笑しながら。

 

 ジゼルはココの後ろ姿を追いかけながら、胸の奥が重くなるのを感じていた。


 さっきの黒猫からの扱いが、そんな友好的なものなら良いんだけど……


 気を抜けば瞳が潤んでくるのをグッと堪え、ジゼルは前を向いた。


   


 ココは街の端まで飛んで行っては、耳を澄ませてディランの心音を探ってくれた。

 目を閉じて集中する彼女から、ジゼルは魔法の気配を感じていた。


 元々魔力が高いから、人間の姿へと変身出来るココ。

 それに加えてフクロウの特徴である優れた聴力を生かすために、無意識のうちに〝探査魔法〟の(たぐい)を会得したのかもしれない。


 ジゼルはそんなことを考えながらも〝どうかディランが見つかりますように〟と祈り続けた。


 そうして数箇所目の街の端で、ココがおもむろにある方向を指差した。

「うーん。他の雑音が混じって聴き取りづらいけど、こっちの方から聞こえる……」

 ココが目を薄めながらボソリと付け足す。

「ずっとずっと遠くから」


「……やっぱり」

 ジゼルも彼女が指差す地平線の彼方を見つめて、悲しそうに眉をひそめた。

 

 この先は、イグリスと戦ったシナンシャ地区がある方向で、そのずっと先はーー


 魔物の国だった。

 

 

 

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