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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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134/165

134:蒼刻の魔術師ディランと紫の魔術師レシア


 その日の夜。

 僕とジゼルはレシアと話し合った通りに、タナエル王子の寝室へと再び足を運んでいた。


 レシアも遅れて到着し、ミルシュ姫の立ち会いのもと、タナエル王子と対面する。

 王子は昼間と変わらず、目を閉じて微動だにしないままベッドに横たわっていた。

 ミルシュ姫も、まるで時間が止まっているかのように、王子のそばの椅子に静かに座っていた。

 そんな姫に断りを入れてから、レシアはベッドの傍らに膝をつき、静かにタナエル王子の手を握る。


 部屋にいる一同が、目を閉じて動かなくなったレシアを、物音ひとつ立てずに見守った。


 ーー重い沈黙が流れる。


 やがて彼女は目を開き、タナエル王子から手を離した。


「……王太子様は、深い深い意識の底に閉じ込められています。そこで〝悪夢を見せられている〟……ということぐらいしか分かりません」


 紫の魔術師としての見解を聞いたミルシュ姫が、深いため息をついた。


「そうなのね。……その悪夢から目覚めさせることは、貴女に出来るのですか?」

「…………」

 ミルシュ姫の問いかけに、レシアはただ黙っていた。

 それを〝出来ない〟という返事だと受け取った姫が、目を伏せる。


 レシアはすかさず告げた。

「星読みをさせて下さい」

 そう言った彼女はさっと立ち上がると、部屋から繋がるバルコニーへと出て行った。

 僕とジゼルは頷き合ってから、彼女の後を追った。

 



 バルコニーには、星空を睨むようにジッと見つめているレシアがいた。

 僕らが息をひそめて彼女の背中を見守っていると、柔らかい詠唱が聞こえ始めた。


 それは不思議な呪文だった。

 異国に祈りのように聞き慣れない旋律なのに、胸を締め付ける哀しみを帯びた(うた)のよう。


 彼女がそのしらべを響かせると、夜空にすうっと紫の光が走った。

 次の瞬間、いくつもの魔法陣が現れ、レシアを中心に半ドーム状に浮かび上がった。

 大小さまざまな円形の魔法陣が、時計の歯車のように縁を重ね、不規則に配置されている。


 それぞれの魔法陣は円の縁に文字が並び、その中には緻密(ちみつ)な星図が描かれていた。

 丸い点とそれらを結ぶ線が幾重にも交差している模様は、魔法陣として見たことがなく、並ぶ様子は圧巻だった。


 レシアの詠唱が止んだころ、中心にある魔法陣の星図の点が1つだけ光った。

 瞬く間に、他の魔法陣も1つだけ光を灯していく。

 

 彼女はその光点をじっくりと見ていった。

 魔法陣越しに夜空を見ると、図の中で光る点と星がピッタリと重なり、彼女の目には星の導きとして見えているのだ。


 僕とジゼルが初めて見るその光景に息を呑んでいると、突然レシアがクスリと笑った。


 深刻な状態のタナエル王子の未来。

 何が笑えるんだろうと、僕は思わず眉をひそめてレシアに尋ねた。

「何がおかしいの?」


「フフフッ。こんなに揺るぎない未来を読むのは初めてで、さすが王太子様って改めて感心したの」

 レシアが吹き出しながら、僕の方へと振り返って続ける。

「タナエル王子の待ち人と会えるって未来が……確約してるわ。ディラン、呼ばれてるよ」

「呼ばれてるって……?」

 

 僕は状況が飲み込めずに、思わず隣のジゼルを見た。

 ジゼルもきょとんとしており、僕を見つめ返す。


 すると夜空の魔法陣を消し去ったレシアが、くるりと体ごと僕らに向けた。

「私の時に状況が似てるの」

 上目遣いに蠱惑(こわく)的な笑みを浮かべながら、手のひらを僕に見せるように掲げる。

「それに綺麗な群青色が見えたよ」


 ピンときた僕が彼女の謎かけに答えた。

「その人の意識の中に入る……共鳴魔法!?」

「当たり」

 レシアは得意げに唇をゆるめ、白い歯をのぞかせた。



 室内から様子を見守っていたミルシュ姫が、バルコニー越しに顔をのぞかせ、口を開いた。

「エルの……魔物にとらわれている意識の中に、入れるのですか?」

「はい。私とディランが力を合わせれば」

 レシアが自信たっぷりに頷くと、ミルシュ姫はパァッと表情を明るくさせて身を乗り出す。

「私も行きたいわ! エルを助けるために!」


 するとレシアが僕に目を向けた。

「だそうよ。ディランどうする??」

「もちろん……」

 僕は思わず息を吸った。


「タナエル王子が救えるのなら、何だって試したい!」


 僕の答えに満足したのか、レシアがゆったりと笑い返した。


 


 ーーーーーー


 相談し合った僕とレシアは、次の蒼い月の夜に共鳴魔法を試してみることにした。


 けれど共鳴魔法はまだ2回目で、成功するとは限らなかった。

 それをミルシュ姫に伝えると、彼女はそれでもいいと必死に頷いてくれた。


 レシアが言うには、王子は深層意識の中で僕が来るのを待っているらしい。

 それがどう言うことかは分からない。

 レシアも感覚的に未来を読むので、上手く言葉では説明出来ないそうだ。

 



 タナエル王子の意識の中に入るだなんて、レシアが星読みをしてくれないと、思いつきもしなかった。

 ジゼルが呪いの魔法で生死を彷徨った時もそうだったけれど、誰かのささやかな導きが、僕を窮地から救ってくれる。

 みんなが手を貸してくれるから、僕はいつも前を向くことが出来る。


 ……蒼の魔法で人を幸せにしたい僕の思いが、こうして返ってきているのかもしれない。

 人と支え合える、この巡り合わせに感謝しながら、僕は蒼い月が空に昇るのを待ち侘びた。




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