表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

126/165

126:偉大な蒼刻の魔術師


 城についた僕達は、早速タナエル王子の執務室に通された。


 セドリックが言うように忙しいらしく、机に向かって書類を睨んでいるタナエル王子がそこに居た。

 僕らは机を挟んで王子の前に立った。

 僕の左右にダレンとジゼルが並ぶ形で横並びになり、自然と姿勢を正す。

 

 ……普通の王子らしいことをしているタナエル王子は、初めて見るかもしれない。


 僕がぼんやり眺めていると、こちらを一切見ていない王子から、鋭いセリフが飛んできた。

「ディラン、何か失礼なことを考えているだろう?」


 ……怖い。


「いいえ。滅相もございません」

「…………」

 タナエル王子が、書類から僕に視線を移して無言の圧力を目に込める。

 僕はその眼光の直撃を避けるために、顔ごと横に向けた。


「……で、特別に王族が所持する文献を見せてやるのはいいが……その者は?」

 タナエル王子がダレンをジッと疑うように見た。

 半ば睨まれたのだけれど、ダレンは怯むことなくハキハキと答える。

「ダレンと申します。俺も蒼刻の魔術師です」

「ほぅ。名前は聞いていたが…………」

 タナエル王子が手を止めて、仏頂面のまま僕とダレンを見比べた。

「随分系統が違うな」


 絶対、ダレンの華やかな容姿と比べられた。

 僕は〝タナエル王子も僕に対して、失礼なこと考えているじゃないですかー〟という気持ちを込めて、思わずジト目になる。

 けれど僕の視線になんか気付くことなく、彼は書類に再び目を向けて喋った。

「まぁ良いだろう。そこに関係する文献を出しておいてやったから」


 タナエル王子がそう言うと、セドリックが執務室の一角に案内してくれた。

 そこには古い書物が積み重ねられた四角いテーブルと、その周囲に椅子が置かれていた。


「え? ここで見る感じ?」

 僕は思わずセドリックに聞いた。

 少し遠くになったタナエル王子と、書物を交互に見ながら訴える。

〝王子と同じ空間で調べ物するなんて、恐れ多いんですけど!?〟と。

 けれどセドリックは〝タナエル王子の命には逆らえないよね〟といったように苦笑する。


「うん。一応、王家の秘蔵書だからね。タナエル王子の目の届く範囲で、管理しとかなきゃいけないんだ」

 僕を安心させるように言ったセドリックは、そのままジゼルに向かって話しかけた。

「クシュ姫がジゼルちゃんに会いたがっているよ。ミルシュ姫も交えてのお茶会に行かない?」

「え? 行きたいですけど……」

 ジゼルが素直な反応を示しながら、僕を見た。


「いいよ。行っておいで」

「!! ありがとう、ディラン。お手伝い出来なくてごめんね」

「そんなことないよ。楽しんで来てね」


 ニコニコと嬉しそうに頷いたジゼルは、セドリックの案内のもと、姫たちの所に旅立っていった。




 残された僕とダレンは、テーブルにうずたかく積まれた書物に目を向ける。


「僕らが書き記した書物は1冊なのに……」

「本当だな」

 僕らは王族所有の書物の多さに、改めて自分たちの無頓着さに呆れつつ席についた。


「僕が女性の蒼刻の魔術師について知っているのは、目を常に閉じていたこと。それと、蒼願の魔法で大規模な荒地を、一瞬にして自然豊かな森に変えたこと……ぐらいかな」

「……分かった。まずはその女性が誰なのかを突き止めよう」

 僕らは頷き合うと、目についた本を手に取った。


 そこに、書類を見つめたままのタナエル王子から、唐突なひと言が飛んできた。

「その女性なら、はるか昔の魔王と呼ばれる存在がいた頃に、討伐隊の1人だった魔術師だ」


「!? 何でそんなこと分かるんですか??」

 僕が驚いてつい大声を上げると、呆れた声がまた飛んできた。

「私はそこの本を全て読んだからな。大体の内容が頭に入っている。それにピクシーの所で見た時に、その人だと直感した。魔王討伐隊についての記録本から見てみろ。詳細までは覚えてないからな」


「「…………」」

 僕とダレンは、タナエル王子の方を向きながら固まった。

 

 さすがと言っていいのか、何ていうか……

 やっぱり蒼刻の魔術師について、1番詳しいのはタナエル王子だと実感した。

 そして王子が前に言っていた〝過去にも広範囲の魔法をかけた例はある〟という蒼刻の魔術師は、目を閉じた女性で間違いないようだ。


 それから僕らはゆるゆる動き出すと、言われた通りに魔王討伐隊の記録本を探し始めた。


「これかぁ……」

 僕は目当ての本を見つけて、中を読み進めた。

 ダレンも小ぶりの本を手に取り、熱心に読んでいる。


 僕らは無言になって本に集中した。




 ーーーーーー


 僕が読んだ本には、魔王討伐隊の作戦の概要が書かれていた。

 魔物たちがあまりにも人間を襲うため、大規模な討伐作戦が行われたらしい。


 大勢の人間で部隊を成し、魔物の国へと攻め入ったそうだ。

 本には魔王の特徴、魔王の配下の特徴、魔物の国の進軍の仕方……と説明が書かれていた。


 ……うーん。

 当時の魔王ってイグリスとは違うんだよね?

 そもそもイグリスは〝魔物の国の王〟って呼ばれていたから、魔王とは違うのか。

 魔物ってどのぐらい生きるんだろう?

 と、僕は疑問に思いながらページをめくる。


 最後に精鋭部隊について書かれていた。

 そこには女性の蒼の魔術師も、1人参加していたと書かれていた。


「……昔は()()()()()だったんだ」

 僕は思わずボソリと呟いた。

 そして再び本の文字を目で追った。


 読み進めると、作戦の結末が書かれていた。

 魔物の国への進軍は当初上手くいっていたけれど、長期戦になってしまい敗北したそうだ。

 けれど形勢が傾いた時に、精鋭部隊だけでもと密かに魔王に近付き、戦いを挑んだ。

 結果は返り討ちに合い惨敗。


 その時に生き残ったのが、蒼の魔術師、黒の魔術師、聖の魔術師の3名だった。

 生きているのが不思議なぐらい負傷が激しかったという記述から、命からがら逃げ帰ったのだろう。

 女性の蒼の魔術師は禁忌を犯したらしく、その代償に目が見えなくなったと締めくくられている。

 

「この人だ。名前は……アルテア」


 僕は絶対この人物だと確信した。

 目をずっと閉じてたのは、見えてなかったんだ。


 蒼刻の魔術師の最大の禁忌(タブー)

 それは、生死に関する願いを叶えること。

 

 アルテアは……

 魔王との死闘の中、切羽詰まって禁忌(タブー)を犯したのかもしれない。

 だってピクシーがみせてくれたアルテアは……とても崇高な様子だったから。

 

 けれどそれで視力を失うなんて……

 あまりにも可哀想だ。


 僕はどうしようもない気持ちを抑えるように、本をギュッと握りしめた。



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ