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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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125/165

125 偉大な蒼刻の魔術師


 晴天が晴れ渡る昼下がりの午後。

 リビングの窓を開けていると、穏やかな風が部屋の中を通り抜けていった。

 

 そよぐ風が、僕の前髪をサラリと揺らす。

 心地よさに表情を緩ませながらも、僕は目の前の人物を見た。

 彼はロングソファに僕と向かい合って座り、古い書物に目を通している。

 あの蒼刻の魔術師について書かれた本だった。


 僕はさっきから彼にしていた説明を続けた。

「ーーと、言うことなんだ。それで僕はピクシーが見せてくれた、女性の蒼刻の魔術師を探してるんだ」

 一通り話し終えると、心地よい風がフワリと彼の金髪を揺らしていく。

 難しい表情をして顔を上げた彼が、その緑色の瞳を僕に向けた。


「聞いたことないな。でも、分家筋に伝わる言い伝えによると、すごく優秀だった蒼刻の魔術師は女性だったらしい。蒼願の魔法も、蒼い月の夜なら何度でも使えたそうだ」

「ありがとう、ダレン。うーん、その人じゃない気がする。でも女性の蒼刻の魔術師は何故か珍しいのに、僕たちが知ってる偉人はどっちもそうだね」

 

 ダレンと熱心に喋っていると、隣に座るジゼルがキョロキョロと僕たちを交互に見た。

「……仲良くなったのは良いことなんだけどー。ディランが無事に、人からの思い酔いしなくなったのは良いことなんだけどー」

 ジゼルがブツブツと言う。


「どうしたの?」

「別にー。ちょっとだけ、ダレンもタナエル王子化しそうだなーって」

 ジゼルがムッとした。

「??」

 よく分からなくて首を傾げると、彼女はプイッと顔を背けて言う。

「こっちの話ぃー」


 するとダレンがふと手を止めて、本を僕の方に押しやった。

「これを見てくれ。初代から3世代までは女性が続くのに、それ以降はまばらになっている。しかも……」

 彼はパラパラとページをめくりながら、説明を続ける。


「その貴重な女性の魔術師も、あとに名前が続いていない」

「え?? ……言われてみれば……」

 僕は本に目を落とし、女性の名を探して視線を走らせた。

 ダレンが言うように、4世代以降は誰も……子供を成していない。


「たまたまか……4世代目が何かをしたか……みんな若くして亡くなったか…………」

 ダレンの発言を聞いたジゼルが、思わず息を呑んだ。

「えっ……蒼刻の魔術師の女性は早死にするの?」

「まぁ、推測なだけだ。女性の魔術師がみんな無頓着過ぎて、子供の名前を書かなかったのかもしれない。みんな男の兄弟がいたから、血筋はそちらで続いているし」


 ダレンはそう言うと、あらかじめ出していたクッキーに手をつけた。

 小さくかじり取ると、ゆっくりと咀嚼する。

 やがて呆然としている僕に気付き、窺うように見てきた。


「ディラン、どうしたんだ?」

「前に夢の中で会った、リンネアル様に敵意を向けていた青年を思い出して…………」

 

 僕の脳裏にあの青年の顔が浮かぶ。

 一瞬だけ見えた、黒い巻き毛の憎悪に満ちた瞳の青年。


 心配したジゼルが、体を前に屈めて横から僕を覗き込む。

「女神ディスピナ様が見せてくれた世界で、リンネアル様と歩いてたっていう人?」

「うん。ダレンの話を聞いていたら、その青年に夢の中で〝見つけた〟って言われたことを思い出したんだ」

 僕はジゼルとダレンを順に見て続けた。

「リンネアル様の()()()()()()僕を見つけたようだった。今までは、僕がリンネアル様から思いを託されているからだと思ってたんだ。けど、もしかして彼は()()()()()()()()()()()()()いたのかなって……考えすぎかな?」


「…………」

 ジゼルとダレンが押し黙った。


 リビングに張り詰めた空気が流れたその時だった。


「すみませーん」

 聞いたことのある声と共に、ドアノッカーが叩かれる音が、店の方から聞こえてきた。


「「はーい」」

 僕とジゼルは同時に返事をして立ち上がると、店へと向かった。




 店先のドアを開けると、珍しく1人で来たセドリックが立っていた。

「セドリック! 久しぶり。帰ってきたんだ?」

「僕が留守の間に、王太子の護衛をありがとう。比較的穏やかに事が運んだようで、良かったね」

 セドリックがクスリと笑った。

 タナエル王子が、他国に喧嘩を売りに歩いたことを言っているのだろう。


 僕も苦笑して頷いていると、セドリックがジゼルに目を向けた。

 姿が変わった彼女と対面するのは初めてで、目を丸めて驚いている。

「……ジゼルちゃん? 見た目が変わったって聞いてたけど、本当だーー」

「そんなことより! クシュ姫はどうなったの!?」

 ジゼルが食い気味にセドリックに質問した。

 威勢のいい彼女にタジタジになりながらも、セドリックが口を開く。


「……クシュ姫は……」

 言い詰まったセドリックの顔が、ぶわわっと赤くなった。

 頭をかきながら下を向いて、何とか声を絞り出す。

「こっちに来ることになったよ……」


 僕とジゼルは、顔を見合わせてパッと笑顔を浮かべた。

「わぁ! おめでとう!!」

「おめでとう。セドリック」

「…………ありがとう」

 セドリックが照れながらも笑みをこぼした。

 けれど次の瞬間には表情を引き締めた。


「じゃなくって、タナエル王子が今日ならいいけどって言ってるんだ」

「え? 今日?? もしかして、ちょっと前に〝蒼刻の魔術師について調べたい〟って手紙を書いた件?」

「そうそう。〝忙しいから文献を読みにこい〟って言ってるよ。だから迎えに来たんだけど……」

 

 セドリックを出迎えた僕らがそのまま話し込んでいると、ダレンもやって来て声をかけた。

「王族がそんなものを持っているんだ」

 意外そうにしている彼に僕は返事をする。

「そうなんだ。実は蒼刻の魔術師について1番詳しいのは、タナエル王子なんだよ」

「…………」

 僕とダレンは同時に相手を見た。

 そしておそらく同じことを思っていた。


 蒼刻の魔術師は、自分たちに何て関心がないんだろうと。

 その証拠が、僕らより王家に文献が残っていることだった。


 


「俺も見てみたい……」

 ダレンがボソリと言った。

 彼はタナエル王子の専属じゃないから、少し遠慮がちだった。


「うん。タナエル王子の所に行って聞いてみようか。多分良いよって言ってくれると思うし。もちろんジゼルも行くよね?」

「うん! ディランが行くなら私も行くー」

 ジゼルがニッコリと笑う。

 

 こうして僕らは、王宮に向かうことにした。





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