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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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124/165

124:思いを重ねて


 ーー蒼刻の魔術師。

 不思議で不可解なその存在は、世の中の人から距離を置かれがちだ。

 

 そんな寂しさを抱えるからこそ、数少ない蒼刻の魔術師同士は友好的だった。

 ダレンの父親と僕の父親も、仲が良かったと聞く。

 だから僕も、小さい時はダレンと仲良くしたかった。

 それなのに、目の敵のように接してくる彼に、やっぱり僕はどこか傷付いていた。


 けどダレンも、ずっと仲良くしたかったんだね。


 僕は、あの頃の寂しかった自分を撫でるように、優しい気持ちで呪文を唱えた。

 マリアさんの息子に向けた強い思いを掬い取っていく。

 ジゼルの清らかな祈りにも似た思いも、確かに受け取る。


 大丈夫。

 蒼願の魔法は成功する。

 彼をきっと、無事に救える。


 僕は口元に笑みを浮かべた。




 蒼い輝きの中で、マリアさんがダレンに優しく語りかけた。

「……私の願いを、幼いダレンが自分にかけてしまったと聞いて、すごく反省したわ。父親が居ないぶん〝お父さんはこうだった〟と焚き付けていたのも、逆効果だったのね。蒼刻の魔術師と比べることになるから……」

「…………」

 ダレンはうつむいて静かに聞いていた。


「亡くなったしまったあの人は……とても適当だったの」

「……え?」

 ダレンが思わず顔を上げる。

 穏やかに笑ったマリアさんが、彼の眼差しを受け止めた。


「いい加減で……そのぶん自由で……私はそんなあの人が大好きだった」

「…………」


「けれどそれが元で亡くなってしまったわ。ダレンにはそうなって欲しくなかったから……つい願ってしまったの」

 マリアが伏し目がちにほほ笑んで続けた。


「本当にごめんなさい。今からでも……母親らしくしたいの。本当のダレンに戻りますように。その魔法に縛られませんように」

「母さん……」


「〝ダレンがどんな時でも自分らしくいれますように〟」


 彼女のその思いに呼応するかのように、蒼い光がこぼれ出し、辺りを満たしていった。





 魔法をかけ終えた僕は、ゆっくりと瞼を持ち上げた。

 魔法陣の光も消えており、月明かりに優しく照らされている。

 その中心に佇むダレン。

 (はた)から見る彼は、何が変わったのか……魔法が無事に重ねがけ出来たのか、分からなかった。


 マリアさんもそう思っているのか、探るように彼を見る。

「ダレン……?」

 

 呼ばれたダレンがゆっくりと母親を見つめる。

「……うん、気持ちが落ち着いたよ。ありがとう」

 彼は気まずそうに目を逸らしながらも、マリアさんに告げた。


 ーー良かった。


 そう安心した瞬間だった。

 僕はくらりとよろめき、うずくまった。


 視線を感じて顔を上げると、牢屋にいる囚人たちが窓からこちらを見ている。

 大勢から意識を向けられたせいか、僕の中に勝手に思いが入り込んできた。

 (よど)んで息苦しい……あの思いが。


「うぅ……」

「大丈夫!?」

 すぐさまジゼルが駆け寄ってきて、僕のそばに膝をついた。

 僕を心配そうに覗き込む。


「……大丈夫だよ。ありがとう。囚人たちの興味がなくなれば……こっちを見なくなればマシになると思うから……」

 僕はジゼルを安心させるために、弱々しく笑った。


「どうしたんだ?」

 魔法陣の上に立つダレンが声をかけた。

 ジゼルが彼を見て、どう言おうか迷いながらも口を開く。

「……ディランは……何でもかんでも人に向けられた思いを読み取っちゃうの。意識を向けなくても。囚人たちがこっちを見ているから……たくさんの思いを読み取っちゃって、気分が悪くなってるの」


「そうか。ひとまず、動けなくする魔法を解除してくれないか?」

「あ、う、うん! ……やっぱり動けないダレンなんてーー」


 ジゼルが照れ照れしながらも立ち上がり、無彩の魔法を唱えた。

 少し元気になった僕も何とか立つと、恥ずかしがる彼女にぼそりと言った。


「ジゼルの場合は、普通の解除の魔法(アキュロシ)でも大丈夫かもしれないね」

「!? …………本当だ。今度試してみるっ」

 ハッと気付いたジゼルが真っ赤になって僕を見た。


 ふと気付くと、ダレンがすぐそばにいた。

 僕はまだ青ざめている顔を彼に向け、眉を下げて笑う。


「魔法の効き目はどう? 大丈夫?」

「……俺のことより、お前の方が大丈夫じゃないだろ?」

 ダレンがムッとしながらも、僕を真剣に見た。


「……変な思いが乗ってる……」

「え?」

「ディランに、過剰な期待のような思いが向けられてる。メアルフェザー様のような力の源……から?」

 ダレンにそう言われて、僕は改めて自分に向けられている思いを探ってみた。


「!? …………本当だ」

 

 僕も、さっきのジゼルみたいな反応をしてしまった。


「まったく……昔からお前は、自分に向けられた思いには無頓着だな」

 ダレンがむくれながらも続けた。

「さっきいつもの魔法陣の外に、古めかしい魔法陣が現れただろ? それを使うと、勝手にその願いの魔法がお前にかかるんだよ」

「そうなんだ。魔法の発動中は、思いを掬うのに必死で気付かなかった」

 僕が苦笑すると、ダレンが怪訝(けげん)な視線をよこした。


「……そのままかけると、今のお前じゃ抱えきれないんだよ。今度からはそこを意識して調整するんだ。今の自分に合わせて成長するようにって」

「うん。分かった……同じ蒼刻の魔術師のダレンに見てもらえて、助かったよ」

 僕は朗らかに笑って続ける。

「ありがとう」


 ダレンがジッとこちらを見た。

 それから少し気まずそうに目線を下げた。


「…………こっちこそ、ありがとう」


 長い呪縛を越えて、ダレンが初めてくれたお礼だった。

 

 


 

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