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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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120:レシアのその後


 思いがけない再会を果たしてしまったレシアだったけれど、すぐに気持ちを切り替えて僕を見た。


「手紙の話をしよっか」

 何事もなかったかのように、彼女がニコリと笑う。

 僕もそれ以上は踏み込まずに、さっきまで座っていたソファへとレシアを案内した。


 僕らが向かい合って腰を下ろすと、ジゼルがレシアの為に淹れなおした紅茶を振る舞った。

 そうして僕の隣にジゼルも座り、揃うのを待ってからレシアが喋り始める。


「それで、ディランの蒼の魔法……向けられた思いを読み取る能力を抑える方法、だよね?」

「うん。だけど、ちょっと聞いていい?」

 僕は眉間に皺を寄せながら聞いた。


 レシアに……

 すごい()()()思いが向けられている。

 

 彼女が店に来た時から感じていたけれど、そばに寄ると、余計にその強い思いに当てられてしまう……

 思いを向ける相手も、知っているから余計に。


「いいよ。何? ……紅茶いただくね」

 困ったように笑うレシアが、紅茶に手を伸ばした。

 自分が聞く番だと分かったからか、紅茶を味わうことにしたようだ。

 彼女らしい、しなやかな動きでカップを持ち上げる。


「ロジャーとよりを戻したの?」

「…………」

 レシアが、口に近付けようとしたカップをピタリと止めた。

 隣のジゼルも、肩を小さく跳ねさせる。


「あぁ、彼からの思いを読み取ったのね? フフフッ。そうだよ。ディランたちのお陰だよ。ありがとう」

 レシアが紅茶を見ながら、どこまでも穏やかに笑った。


 幸せそうな彼女に……

 僕はあえて釘を刺そうとした。


「それは良かった……けど……今は良いかもしれないけど……その……」

「あははっ。ディランは優しいから、彼の思いに戸惑う気持ちも分かるよ」

 レシアの答えに、彼女はロジャーの思いを理解しているんだと感じ取る。


 …………受け止めてるんだ。

 このロジャーからの重い重い気持ちを。

 もともと〝閉じ込めておきたい〟と思うぐらい相手への束縛が強い彼だ。

 レシアと復縁して開き直ったのか、その気持ちが更にエスカレートして、とんでもないことになっている。


 僕が静かに引いていると、隣に座るジゼルが心配そうに見つめていた。

 彼女を安心させる為に〝後で詳しく話すね〟という思いを込めて、笑いかける。


 そんな僕らのやり取りの間に、レシアは紅茶を一口飲むと、クッキーにも手を伸ばしてパクリとかじった。


「ディランは心配してくれてるんだよね。ありがとう」

 彼女がなんて事ないように、クッキーをモグモグと咀嚼する。

 手に持っていた残りのクッキーもひょいと食べると、美味しそうに笑みを浮かべた。


 そしてニッコリとした笑顔のまま告げる。

「今度は私が主導権を持ってるから、大丈夫だよ」

「…………」


 本人にその気はないのは分かっているけれど、その笑みは、そこはかとない妖艶さを帯びていた。

 

〝何が?〟とか、

〝何の?〟とか……

 詳しく聞きたい気持ちを押しとどめて、言葉を飲み込む。

 

 ーー多分、踏み込んじゃいけない。

 他人には理解できない、ふたりの世界だ。


 固まっている僕を見て、レシアが満足げに「フフッ」と笑う。

 ソファの肘置きにしなだれながら、足を組む様子は、またまた艶っぽくて思わずドキリとした。


 そんなどこかの魔女みたいな彼女が、ゆっくりと語り始める。

「それで、思いを読み取るディランの魔法は……残念だけど、紫の魔法では対応する(すべ)はないの」

「……そっか」

 僕は肩を落としてうつむいた。

 レシアが気の毒そうに僕を見る。


「けど私なりに考えてみたの。私の場合なら、手を合わせなくても勝手に占っちゃうようなものだよね? それなら相手に意識を向けなければ、いいんじゃない?」

「どうやって?」

「うーん……見ないようにするとか? 目を閉じちゃう?」

「!?」

 彼女の提案を聞いた僕の脳裏に、ピクシーが見せてくれた女性の蒼刻の魔術師がすぐさま浮かんだ。

 

 彼女は確かに目を閉じていたけど……

 そんな単純なこと!?

 聖の魔法もだけど、魔術って視覚と深くかかわっているのかな?


 僕はとりあえず目を閉じてみた。

「あー、うん。ちょっと膜が張れた感じになるね。全部防げる訳じゃないけど……」

 喜んだジゼルが両手をパンと合わせる。

「それでも、ましになるから良かったね!」

 

 目を開けた僕は、ジゼルを見つめて眉を下げた。

「ありがとう。でも、人が大勢いる場所が特にきつくって……そこで目を閉じたまま居るのって難しいよね」

「……そうだね」

 

 2人してシュンとしていると、レシアからの声がかかる。

「ジゼルに手を引いて貰ったら?」

「!! 私、頑張れるよ!」

 ジゼルがなぜだか俄然やる気を出し、僕に詰め寄った。


「う、うん……ありがとぅ……」

 勢いに押された僕は、まごつきながらも返事をする。


 …………

 これから一生、外ではジゼルに手を引かれる?

 1人じゃ何もできなくなるな。


 苦笑を浮かべる僕に、レシアが提案した。

「占いで見てみようか?」

「え? そんなことも分かるの?」

「一応ね。今抱えている悩みを解決するヒントってだけで、当てにならないこともあるけど」

 ニッコリと笑うレシアが、左の手のひらを僕に見せるように伸ばしてきた。

 彼女と手を合わせる事で占える、お馴染みのスタイルだ。

 

「じゃあ、せっかくだから見てもらおうかな」

 僕もニコッと笑うと、レシアの手に自分の右手を合わせた。


 その瞬間、僕らの手がバチッと光り、何かが体を駆け巡った。

「うわっ!?」

「きゃっ!」


 思わず僕とレシアは手を引っ込める。


 驚いたジゼルが、すぐさま声をかけた。

「大丈夫!?」

「うん……大丈夫だよ」

 僕は右手を閉じたり開いたりして、調子を確認した。


 レシアは左手の甲を反対の手でさすりながら、呆然と僕を見ている。

「……さっきのは……もしかして、私の夢の世界でも見た……」


 僕はゆっくりと頷いた。


 そして2人で声を揃える。


「「共鳴魔法」」




 部屋がシンと静まり返った。


 張り詰めた空気のなか、レシアが目を細めてうっとりと笑う。


「……へー、面白いね。せっかくだから、何か2人で編み出す? さっきの威力なら、グランディ国中の人にでも、魔法がかかりそうだもの」


 彼女が再び左手を掲げた。


「…………また今度の機会でお願いします」


 あまりに楽しげなレシアにたじろいで、僕は丁寧に彼女の誘いを断った。





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