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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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115/165

115:さぁ、報復しに行こう


 旅行から帰ってきてから数日後。

 僕とジゼルは予定通り、タナエル王子に駆り出されていた。


 式典用の正装を着込んだ僕は、太陽の下でぼんやりと突っ立っていた。

 風にたなびく蒼いローブの背中には、この国の紋章が入っている。

 

 ……このローブを着るのは嫌だったけれど、だいぶ慣れてきた。

 けれど……腰に剣をさすのは全然慣れないな。

 

 困り顔で苦笑する僕に、隣で仁王立ちしているタナエル王子から喝が飛んできた。

「私の護衛だろ? もっと堂々としろ」

 彼の目はさっきから変わらず、遠くの一点をとらえている。

 その先には、キールホルツ国の領地があった。


「……僕は戦うにしても魔法専門なんで……剣だとか脚当てだとかの、騎士みたいな装備はいらないんですけど……」

 僕は思わず自分の姿を見下ろした。

 何故かいつもの魔術師の服に、腕当て、脚当ての防具も付与されていた。

 まるで魔法騎士だ。

 見せかけの。


「そのぐらい格好つけとかないと、全然強そうに見えないからな、ディランは。護衛される側として恥ずかしい」

 タナエル王子がやっと目線を動かして、僕をしげしげと見ながらフッと笑った。

 彼が真実という名の酷いことを言うのは、今に始まったことではない。

 

 僕らはグランディ国とキールホルツ国の国境に来ていた。

 見渡す限りの平原が広がり、遠くには相手国の街並みが見えた。


タナエル王子は、自分が不在の間にアレックス王子が無許可で国に入り、自国民であるジゼルを連れ去ったことに(いきどお)っていた。

 クリスティーナ姫の時も含め、好き勝手するアレックス王子に、ついに怒りが爆発したのだ。

 

 それでタナエル王子は、今からまさに隣国を攻め入ろうと、自らの軍勢を率いてここまでやって来ていた。

 事前にその動きを察知していたのか、平原の向こうにはキールホルツ国の軍隊が待機している。


 僕の隣で、か細い声が上がった。

「……緊張するね」

 蒼いローブのフードを、目深に被ったジゼルだった。


 彼女はタナエル王子の指示で顔を隠していた。

 あらかじめ兵士たちには説明をしたけれど、顔が変わったジゼルに彼らが混乱しないように、との配慮らしい。

 僕らはイグリスの件で、兵士たちとは顔見知りだったからだ。


 それは分かる、分かるんだけど……


 説明を受けた時に、タナエル王子が妙に含んだ笑みを浮かべていたことが、少しだけ引っかかっていた。



「大丈夫よ」

 ジゼルに声をかけながら、馬に乗ったミルシュ姫が背後から近付いてきた。

 彼女はムカレの国の戦闘服に身を包んでおり、腰にはあの退魔の剣を携えていた。


「私もエルもすごく怒ってるから、一瞬で片をつける」

 ミルシュ姫がジゼルに向かって力強く頷く。

 ジゼルも頷き返したのを見届けると、姫は静かに馬を歩かせ、タナエル王子の背後へと進んだ。

 相変わらず仁王立ちで腕ぐみをする王子の後ろに、戦いの女神のようなミルシュ姫が佇む。


 姫が言うように、怒りをたぎらせている2人が発する凄まじい気迫に、このあと暴れまくる想像が容易にできた。

 彼らのその様子に、兵士たちも殺気立つ。


 本当に一瞬で片をつけそうだ。

 

 ……味方だと、とっても頼もしい王太子様と王太子妃様だな。

 

 僕はちょっとだけ、相手の国が気の毒になった。


 そしていざ攻め入ろうとした時だった。

「タナエル王子! キールホルツの国王から言付(ことづ)けです!」

 伝令役の兵士が、人の波を分け入りながらやってきた。

 タナエル王子の真横に立つと、何かを彼に伝える。

 

 緊縛した空気の中、この場にいる全員が静かに見守った。


「フフッ……分かった。その要求に応じよう」

 予想していた出来事だったのか、タナエル王子が余裕たっぷりに黒い笑みを浮かべた。




 しばらくその場で待機していると、数名の集団がこちらに向かってくるのが見えた。

 彼らは真っ直ぐにタナエル王子の方へ向かってくる。

 

 頃合いをみて、タナエル王子も数歩、前へ出た。

 護衛である僕も、慌てて彼の左側に並んだ。

 

 ミルシュ姫は馬から素早く降りると、剣のグリップを握りしめて、王子の右側に立った。

 片足を引き、いつでも斬りかかれる体勢をとる。


 僕らが迎撃態勢を取っていた陣地に入り込んできたのは、縄で上半身をグルグル巻きにされたアレックス王子と……彼の首根っこを掴んで引きずっている高貴そうな男性だった。

 それと彼らを警護するための兵士数名。


 状況が分からず緊張している僕に、前を向いたままのタナエル王子が喋りかけてきた。

「あれはキールホルツ国の第一王子、テオドールだ。彼と私は旧知の仲だから安心しろ」

「…………」

 僕はテオドール王子だという人物を見つめて、(まばた)きした。


 旧知の中……

 友達?


 少し距離を取った場所で、テオドール王子は立ち止まり、不機嫌な顔を隠しもせずに言い放った。

「この度は我々の要求を受け入れて下さり、誠に感謝しております。タナエル王太子様」


 テオドール王子のその物言いに、タナエル王子が思わず吹き出す。


「似合わない喋り方だな。いつもの通りでいいぞ」

「……じゃあ遠慮なく。てかまじでごめん、また弟が迷惑かけて……」

 いきなり砕けた態度になったテオドール王子が、パンと両手を合わせて謝罪する。

 その拍子に首根っこを掴まれていたアレックス王子が、バランスを崩して地面に倒れ込んだ。


「いたっ! ……ボ、ボクは何も悪いことなんかしてないっ! こんな扱いは酷いじゃないか!?」

 思うように動けない彼は、どうにか逃げようと身をくねらせながら抗議した。


 テオドール王子が弟を冷ややかに見下ろしながら、タナエル王子に告げる。

「……こいつをタナエルにやるから、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

 兄の発言に「ひぃぃ」とアレックス王子が悲鳴をあげた。


 するとタナエル王子が、僕の方に振り向いた。

「どうする? こいつを引き取ることで、ディランが受けた仕打ちを清算できるか?」


「え? 僕が判断していいんですか?」

 

 驚いた僕がタナエル王子を見返すと、彼が一気に呆れた表情に変わった。


 ……これまでの付き合いから〝何て間の抜けた奴なんだ〟という彼の気持ちを、勝手に感じ取ることが出来た。



 

 

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