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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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114/165

114:さっそく使ってみたくなるよね


 結婚の登録も無事に終えて、ディスピナ様関連の騒ぎも落ち着き、今日はリミーノの街でゆっくり過ごせる最後の一日だった。

 明日にはもう、馬車でこの街を離れなければならない。

 

 僕はかけがえのない時間を過ごした。

 どこへ行って何をしても、ニコニコと喜んでくれるジゼルと一緒に。


「すごくフワフワしてる! 不思議な食感だけど、甘くて美味しい!」

 

 ーーリミーノの珍しいお菓子を食べたり。


「この鐘を2人で鳴らすといいんだって。ここに説明が書いてある。なになに……〝鳴らした2人は永遠の愛で結ばれる〟だって。へぇ〜。…………鳴らそっか?」

 

 ーー街外れの丘にある鐘を鳴らしに行ったり。


「さっきの夜ご飯も美味しかったねー。あ、あそこの広場にキャンドルがいっぱい並んでる! うわぁ……すごく綺麗……」


 ーー自分たちもキャンドルに火を灯して並べ、しばらくその揺らめきに見とれたりした。



 

 遊び尽くして夜になるころ、僕たちは街が一望出来る高台に足を運んでいた。

 眼下には、家の窓からこぼれる灯りがつくる、ゆらゆらと瞬く光の群れが広がっている。

 昼間は観光客で賑わう場所らしいけれど、今は僕らしかいなかった。

 

「……とっても楽しかったね」

 隣で手を繋ぐジゼルがそっと呟いた。

 夜の静かになった街を、寂しそうに見つめている。


「楽しかったね。たまには旅行しよっか。ジゼルがすごく楽しんでくれると、僕も嬉しいし」

 僕も街を眺めながらジゼルに伝えた。

 繋いでいる手をギュッと握る。

 するとジゼルが、僕の方に振り向いて言った。


「私も初めての旅行が、ディランと来れて良かった。改めて人間にしてくれてありがとう」

 僕もジゼルを見つめ返すと、彼女がゆっくりと続けた。

「それに……ジゼル・オーリックになれたから、とっても嬉しい」

 ジゼルが頬を赤く染めて、はにかみながら笑った。


「ジゼル……」

 僕は彼女と正面から向き合い、まっすぐにジゼルを見つめた。


「僕は蒼刻の魔術師だから……そばにいると、またジゼルが危険な目に遭うかもしれない」

「でもそれはーー」

「うん、分かってる。けどこれからも僕の魔法で、出来るだけ多くの人を幸せにしたいんだ。もちろんジゼルも」

「…………ディラン」

 ジゼルが嬉しそうに目を細めた。


「絶対にジゼルを守るから。もうこの手を離さないから」

「…………」

「だから……ずっと一緒に……いて、下さい……」

 最後の最後で僕は盛大に照れてしまい、その失態を隠すように手繰り寄せた彼女を抱きしめた。


 ジゼルの肩に顔を埋める僕の耳に、彼女の驚いた声が届く。

「……プロポーズ?」

「うん」

「登録した後に?」

「ジゼルから言われるばっかりだから……」


 すると、クスクスと楽しそうに笑う声に変わった。

「ありがとう。きちんとディランからも伝えてもらって嬉しい。そんな所も大好きっ!」

 ジゼルが僕をギュッと抱きしめ返した。


 そしてゆっくりと、優しい声を奏でた。


「人を幸せにする蒼刻の魔術師の1番近くにいるんだから、私は世界一幸せになれるね」


 彼女の言葉に胸が熱くなった。


 僕も。

 何よりも僕を信じてくれる君のことがーー


「ありがとう。僕も大好きだよ。ジゼルがそばにいてくれたから、今の僕がある。だから……全力をかけて幸せにする」

「フフッ。2人で一緒にね」

 ジゼルがクスクスと肩を揺らして笑う。


 真っ直ぐに僕に向けられるジゼルの言葉。

 その言葉は強さと希望……そして未来を分けてくれる。


 僕はそんな彼女が愛しくて、よりいっそう大事にジゼルを抱きしめた。




 **===========**


 次の日、僕たちは来た時と同じように、長い長い馬車での旅に出ていた。

 4人乗りの馬車にはやっぱり僕たちしかおらず、気兼ねなく寄り添って座った。


 そして出発して1時間後ーー

 すでにぐったりしている僕が、青い顔を隣に向けた。

「…………ねぇ、ジゼル?」

「ふわぁ……なぁに? 回復魔法をかけたいの?」

 僕の腕に抱きついて、うとうとしていたジゼルが返事をした。

 手で口を隠し、小さくあくびをする様子は、中庭で日向ぼっこをしている時みたいだ。


「せっかくだから、無彩の魔法をかけてみない?」

「ディランに? 馬車で酔いませんようにって?」

「うん。無彩の魔法なら、効力がずっと続く訳じゃなさそうだし」

「……そうだね。私が受け継いだのは一般魔法ぐらいの強さだと思うし……でもなぁ〜」

 

 ジゼルが口を尖らせて、小さく項垂(うなだ)れる。

 何をそこまで気にしているんだろうと思い、彼女に尋ねてみた。


「どうしたの? 呪文が恥ずかしい?」

「……嘘でも、ディランのことを嫌いとか言いたくないんだけどな」


 ジゼルが可愛らしいことを考えていた。


「ーーあははっ!」

 僕は思わず大笑いした。

 

 むくれた表情で見つめるジゼルを横から抱きしめ、僕は笑顔のまま伝える。

「大丈夫だよ。ジゼルが本気じゃないって分かってるから」

「むぅ。そんなに笑わなくても……」

「それに、どんな魔法なのか使って感覚を掴んでおかないと、いざと言う時にうまく使えないよ」

 

 僕はジゼルに説きながらも〝これって自分にも言えることだな〟と感じた。

 蒼の魔法を磨くって、そう言うことなのかも知れない。


 抱きしめる力を緩めてジゼルの顔を覗き込むと、彼女がおずおずと告げた。

「……そうだね。いざと言う時に、ディランを守れるようにしておきたいな」

「ジゼルのために、力を渡してくれたんじゃない? まずは自分を守らなきゃ」

「そう? ディスピナ様は、恋人を守りたい気持ちに同調して……それで力を授けてくれたように、感じたんだけどなー」

 ジゼルがそっと体を離し、宙を見ながら首をかしげた。


 …………

 言われてみれば、そうかもしれない。

 

 クロエの意識を戻したジゼルに対して、ディスピナ様が感謝したものだと、僕は思っていた。

 けれど、2人は同じような経験をして……同じような強い気持ちを持ったのかもしれない。

 運命が交じり合ったのかもしれない。


 僕が思いを巡らせていると「じゃあ、かけてみようかな」と呟いたジゼルが、両手で握り拳を小さく作り、意気込んでいた。


 彼女はその両手を握り合わせ、祈りの姿勢に入った。

 静かに目を閉じて、女神ディスピナ様に呼びかける。


 そして次第に顔を赤らめたジゼルが、恨めしげに僕を見つめて呪文を唱えた。

「……馬車に酔っちゃうようなディランは……だ、大嫌い……もう体調を崩さないで」

  

 彼女がモゴモゴ言うと、僕の体が一瞬暖かくなったように感じた。

 それがなくなると、胸にたまるような気分の悪さも同時に消える。


「すごい。無彩の魔法だから、意識しないと魔力の流れが見えないな」

「……それはすごいんだけど……やっぱり恥ずかしいな……」

 感動している僕の隣で、のぼせ上がったようにぐったりしたジゼルがブツブツ続ける。


「ディスピナ様も……この気持ちを誰かに味わって欲しかったんじゃ……? もう、そうとしか思えなくなってきた……」


 ジゼルにしては珍しく、祈りの対象である神様にまで小さくふくれてみせた。




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