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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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109/165

109:約束の場所


 リミーノの街に到着したその日は、軽く観光をしただけで、移動の疲れを癒すために早めに宿屋で体を休めた。

 そして次の日、また馬車に乗ってする。

 教会で登録するよりも先に、僕たちはリミーノ地区の端に1番近いエアレ村へ向かった。




 ーーーーーーーー


 太陽が夕焼けに変わったころ、僕たちはやっとエアレ村についた。


 馬車を降りたジゼルが、軽く伸びをしながら硬くなった体をほぐす。

「はぁ。こんな遠くに来たのは、ジゼルさんの経験を持ってしても初めてだよ……」

「…………ジゼル、お願いがあるんだけど」

 僕は彼女の横で、血の気の無い顔をしてゆらりと立っていた。


 立て続けに強行した馬車での長距離移動。

 ……きっつい。


「なぁに?」

 ジゼルが屈むようにして、心配そうに僕の顔を覗き込む。

「……僕が『人の転移魔法を使えますように』って強く思ってくれない? それを蒼願の魔法で叶えるから……」

「え? そんな誰も出来てない魔法を? ごめんね。馬車の移動に相当参っちゃってるんだね。でも……願ってはみるけれど、魔法に出来るほどの強さにならないかも」

「…………やっぱり、そうだよね」

 かなり疲弊している僕は、大きなため息をついた。


「『ディランが馬車に酔いませんように』だったら強く思えるよっ」

 落胆した僕を見て、ジゼルが慌てて告げる。

「うーん、それもいいけど、そうやって人として外れていきそうなのは怖い……かな? でも、そんな風に怖がってたら、結局何も変わらないよね」

 僕は苦笑しながら続けた。

「蒼の魔法を磨くためには、もっとたくさん使って……今まで叶えなかった思いも、魔法にした方がいいのかなって迷うんだ」


「そこは無理に変えなくてもいいんじゃない? だって〝この思いが呪いにならないか〟って、相手のことを思いやって(つちか)われた感覚でしょ? そこにはディランの優しさが詰まってるんだから、自信をもって。焦らなくても、ディランはそうやって成長してきたから大丈夫だよっ」

 ジゼルが両手の拳を小さく掲げながら、一生懸命励ましてくれた。

 僕はそんな彼女の頭を撫でた。

「そうだね、ありがとう」


 ジゼルは、僕の些細(ささい)な心の動きにもすぐに気づいてくれる。

 僕以上に僕のことを分かってくれている。

 真っ直ぐで深い愛情を注いでくれる彼女に、僕も同じように返せているかな?と不安になるほど。

 

 だから、ジゼルの不安も取り除いてあげたい。

 そのためにここに来たんだから。

 クロエの記憶の手がかりを探しにーー

 

 僕は改めて、エアレ村を見渡した。

 

「…………これからどうしようか?」

 そこは家が20軒も無いような、本当に小さな村だった。

 僕らよそ者が珍しいのか、近くにいる村人からジロジロと見られている。

 一応、宿屋はあると聞いていたため、僕はまずそこを探すか迷った。

 辺りが薄暗くなってきたからだ。


 するとジゼルが、胸に手を置いて目を閉じた。

「うーん……こっちかな? ついてきてくれる?」

 少し悲しげに笑うと、ジゼルが僕に手を差し出した。


「うん。もちろん」


 ーーなによりもまずは、ジゼルの想いを優先させよう。

 そう思った僕は、彼女の手をしっかりと握った。




 ジゼルがまるで、何かに導かれるようにもくもくと歩く。

 僕は手を引かれるまま、彼女の背中をじっと見つめていた。

 村は小高い丘の上に位置しており、そこを抜けると、眼下にはどこまでも広がる平原が横たわっていた。


「わぁ……」

 思わず立ち止まったジゼルが息を呑む。

 僕も隣に寄り添うように立つと、目の前の美しい光景に見入った。


 川や木も無く、起伏のない広大な大地。

 手入れされているのかと思うほど、たくさんの種類の花が色とりどりに咲き誇り、まるでカラフルな絨毯が敷かれているようだ。

 それが夕日に照らされて、赤みを帯びていく。

 美しくて……どこか懐かしい光景だった。


「…………今見える平原が、クロエが滅ぼした国の首都だったの」

 静かに語り始めたジゼルが、前を向いたまま続ける。

「滅ぼした直後は、砂漠みたいに何も無い地面が広がるだけだったのに……こんなに綺麗になったんだね」

 そう言って悲しそうに目を伏せた彼女が、魔法でホウキを出現させた。


「……クロエの恋人のルカが、亡くなった場所に行っていい?」

 ジゼルにはその場所がすでに分かっているのか、泣きそうな顔をして花畑の一部を眺めていた。




 僕も魔法でホウキを呼び出して、ジゼルの後ろをついて飛んだ。

 僕たち2人が花畑の上を横切ると、花々が空を見上げるように首をもたげる。

 しばらくすると、前を行くジゼルが減速した。


「ここだよ」

 彼女はゆっくりと花畑の中に降り立った。

 僕もジゼルに続いてホウキから降り、静かに彼女を見つめる。


 さわさわと優しい風が吹き、僕らの間を駆け抜けていった。

 歓迎しているかのように、花たちが楽しげに踊っている。


「…………」

 ジゼルが自分の胸に手を置き、じっと遠くを見つめた。

 けれどすぐに目を伏せて、(かぶり)を振る。

「……心の奥がざわつくんだけど……やっぱり、何も分からない」

 唇を噛むジゼルに、僕は柔らかく笑いかけた。


「蒼願の魔法で、どうなったか分かるようにしようか?」

「えっ…………?」

「今日はちょうど蒼い月が昇るようだし」


 僕は夕日とは反対側にある、蒼い月を指差した。




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