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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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108:シュシュリノ教会


 僕とジゼルはすぐに旅行の計画を立てると、早速リミーノ地区に向けて旅立った。

 早くしないと、タナエル王子に呼び出される予定の日を迎えてしまうからだ。


 王子には、しばらく家を空けることを手紙で知らせた。

 その際に、ジゼルを元に戻したことにも触れておく。


 そうして一通り準備を整えた僕らは、馬車に揺られながらリミーノ地区への道を進んでいた。

 4人用の馬車には僕とジゼルしか乗っておらず、隣り合って座ると、とりとめのない話をして笑い合っていた。

 けれど半分ほど道のりを過ぎた頃には、僕の動きは徐々に鈍くなり、ぐったりと顔を伏せる姿に変わる。

 ジゼルは僕に寄り添い、背中に手を添えて静かに介抱してくれていた。

 

 さらにしばらくすると、ジゼルも流石に疲れの色を滲ませて、僕にふにゃりともたれ掛かった。


「……悪路で有名なだけあって、すごく揺れるね」

「…………うん」

 僕はうつむいたまま、か細い声で返事をした。


「大丈夫? また回復魔法かけようか?」

「…………大丈夫。もっと辛くなったらお願いする、かも……」

「うぅぅ……やっぱりごめんね」

 ジゼルが半泣きになってこぼす。

 僕はそっと顔を上げると慌てて伝えた。


「そんなことないよ。ジゼルの回復魔法のお陰で、この前のシナンシャ地区に行く時よりだいぶ楽だし」

「…………」

 彼女は返事をする代わりに、横から僕にぎゅうっと抱きついた。

 僕は彼女の頭を優しく撫でた。

 浮かない顔のまま、大人しく撫でられているジゼルが呟く。


「……そう言えば、ムカレの国を巡る時は酔わなかったの?」

「うん。魔法陣を何箇所も(えが)いたから、ちょっと移動しては降りてたんだ」

「そっか。……何か魔法でパパッと移動出来ればいいのにな」


 宙を見つめて真剣に考えているジゼルが可愛くって、僕は少しだけほほ笑んだ。

 そしてふっと思い出す。


「ムカレの国と言えば……今頃セドリックがクシュ姫に会いに行ってるかも」

「え? どういうこと??」

 不思議そうにジゼルが首をかしげる。

「ピクシーに連れて行かれた時の話なんだけどーー」


 僕はピクシーの世界で起こった出来事を説明した。

 このところ忙しくて、ジゼルに話す暇がなかったなと思いながら。

 そしてセドリックの代わりに、護衛に駆り出されることも……


 タナエル王子に呼ばれていることは伝えていたけれど、その中身を初めて聞いたジゼルは、大きな瞳をさらにまん丸にした。


「え、じゃあ私も一緒に行く!」

「でも、危ないことだと思うから……」

 僕はジゼルの提案に思わず渋った。

 あのタナエル王子の様子だと、絶対危ないことだと思う。

 だって楽しそうだったから。


「私もディランが心配だし、タナエル王子専属の蒼刻の魔術師だもん! この体なら、どんな攻撃でも避けれそうな気がするし!」

 ジゼルがプンプン怒ると胸を張った。

 

 猫のジゼルが人間の姿になった彼女は、信じられないほど身のこなしが良くなった。

 だからか、はしゃいでいるジゼルが僕に抱きついてくると、決まって吹き飛ばされた。

 最近やっと、力加減が分かってきたようだけど。


「……じゃあ僕の近くに出来るだけ居てね」

「!! うん!」

 ジゼルが本当に本当に嬉しそうに頷いた。


 以前の僕なら、彼女を危ない目に合わせたくなくて、断固として拒否するだろう。

 今でも、イグリスとの戦いでうつ伏せに倒れ、血を流していたジゼルの姿が、脳裏にありありと浮かぶ。


 でも……彼女を人間にした時に、心に決めたことだから。

 どんなジゼルでも守り切るって。


 僕は彼女を見つめながら、心の中で固く誓った。




 **===========**


「やっとついたねー!」

 先に馬車から降りた僕の手を取って、ジゼルがピョンと飛び降りた。

 この旅行のために新調したアイボリーのワンピースが、ふわりとはためく。


 僕たちは、シュシュリノ教会のあるリミーノの街についた。

 ちょうどお昼時だからか、街はずいぶん騒がしく人であふれかえっていた。

 華やかな街の賑わいが、すでに疲れ切っている僕に容赦なくのしかかる。


 …………馬車の移動がすごくきつかった。

 もう乗りたくないから、帰りたくないぐらい。


 僕は浮き立つ通りで、ぐったりと立ち尽くしていた。


「…………」

「……ディラン、大丈夫?」

「…………」

「…………〝傷を癒せ(セラピア)〟」


 ジゼルが何度目か分からない回復魔法をかけてくれた。

「…………ありがとう」

「どういたしまして」

 やっと喋れるぐらい元気になった僕は、顔をあげて街を改めて見渡した。


 この街の建物はほとんどが、ベージュの壁に落ち着いたピンクの屋根で統一されていた。

 教会に登録しに来る恋人向けの、街を挙げての観光地になっているようだ。

 お土産用の雑貨を扱った路面店も、所狭しと並んでいる。

 

「わぁ。純愛の女神様の絵が売ってあるね。あ、あっちなんか小さな女神像がある」

 好奇心旺盛なジゼルが、僕の手を引っ張りながら通りを歩き始めた。

 彼女はウキウキしながら、女神様の大きな絵が飾られた店の前で立ち止まった。

 

「ピンクの髪が特徴の純愛の女神……ディスピナ様って言うんだね。どの絵も、ムスッとしながら頬を赤くしてる。何でだろう?」

 彼女がしげしげと店の中を眺めていると、気の良さそうな女性の店員が話しかけてきた。


「リミーノの街へようこそ! ディスピナ様はツンツンしている女神様。常にわがままを言うけれど、恋人ひとすじで、最後まで想いを貫いた女神様なんです」

「それで純愛の女神様なんですか? シュシュリノ教会の女神様でもありますよね?」

 ジゼルがその店員に質問した。


「はいそうです。貴方たちも教会に登録に来たんでしょ? シュシュリノ教会を選んで大正解! ディスピナ様のように、愛し合う2人がいつまでも幸せにいられる〝祝福〟が、ここなら授かれますよ」

 女性がジゼルと僕を見てからニッコリと笑った。


 そのつもりでここに来たんだけれど、面と向かって改めて言われると、こそばゆくなる。

 僕とジゼルはお互いを横目で見ると、頬を赤くして照れながら目を逸らした。





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