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『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル  作者: 雪月花


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100/165

100:ピクシー(Reprise)


 その頃元気になったジゼルは、1階から人の気配が消えたことに気付いていた。

 喋り声だけでなく、物音さえしなくなったことを不思議に思い、彼女はゆっくりと階段を降りていく。


「……ディラン?」

 生活スペースからお店に続く扉から、ひょこっと顔を覗かせてみても、そこには誰もいなかった。

「…………?」

 小さな違和感を感じ、店の中を見回していると、カウンターに何かが置かれているのに気が付いた。


 そこには丸い缶があり、折り畳まれた蒼いメッセージカードも添えられていた。

 ジゼルはそのカードを手に取って、書かれている文字を読んだ。


「なになに〝この前はクッキーありがとう〟……いつかのピクシーだ!」

 驚いてジゼルが目を丸くする。

 けれどクッキーが喜んでもらえたと分かり、カードに向かってニッコリほほ笑んだ。

 最後まで読み進めると〝お礼にキャンディをどうぞ〟と締めくくられている。


 ジゼルはカードをいったんカウンターに置いて、ワクワクしながら缶を開けた。

 中には色とりどりの楕円形のキャンディが、ぎっしり詰まっていた。


「わぁ! 美味しそう」

 ジゼルはどれにしようか少しだけ迷うと、ピンク色のキャンディを摘み上げて口に入れた。


「…………ディランたち、ピクシーの世界に行ったのかな?」

 ジゼルはキラキラ輝く宝石のようなキャンディを見つめながら、名残惜しそうに缶の蓋を閉めた。


「時間かかるだろうから、お風呂に入ってこようかなー。ホリーが拭いてくれてたけど、寝込んでて入れてなかったし……」

 彼女は独り言を続けながら、生活スペースへと移動する。

 キャンディを口の中でコロコロ転がすたびに、甘い味が広がった。


「うん。このキャンディを食べ終えたらそうしよう!」


 ディランたちがピクシーの所にいると分かり、ジゼルは心配することなく、さっそくいつもの日常へと戻っていった。




 **===========**

 

 ピクシーの世界に連れ込まれた僕は、目を開けると自分の顔が間近に見えて驚いた。


「うわっ! って鏡か」

 目の前の大きな鏡を、思わずペタペタ触る。

 その時、視界の端で何かが動いた。

 慌てて振り向くと、そこにも大きな鏡があった。


「……なんだ、僕が動いたからか」

 ホッと息をつき、あらためて辺りを見回す。

 どうやらここは、鏡に囲まれた空間のようだ。


 ……鏡の迷宮?


 薄っすら蒼い光の中、鏡の中にたくさんの僕がいた。

 ちょうど合わせ鏡になっており、鏡の奥へ奥へと世界が広がっている。

 見上げると天井までも鏡に覆われていて、酔いそうな感覚に襲われる。


 それから、ここに来たはずの王子たちを探してキョロキョロしていると、鏡の中に老紳士姿のピクシーが現れた。

 どういうわけか、鏡の中の僕の背後に彼が立っていた。


 ……ここはピクシーの魔法の世界だから、不思議なことしか起きない。


 僕はそう改めて自分に言い聞かし、老紳士をしっかり見据えた。

 彼は、僕の気持ちを見透かすかのように目を細める。


「ようこそ。ここは鏡の迷路。彷徨える魂の救済。そしてーー貴方たちが真に求めるもの。それが分かれば(わたくし)はおのずと捕まるでしょう」

 ピクシーが(うやうや)しくカテーシーをした。

 

「……真に求めるもの?」

 僕が戸惑っていると、目の前の鏡から僕もピクシーも消えて、クロエ姿のジゼルが映った。

 鏡の中でほほ笑む彼女が、胸の前で両方の手のひらを並べ、鏡にペタリとくっつける。


「…………」

 偽物だと分かっていたけれど、僕はその位置に合わせて、自分の両手を鏡越しに重ねた。


 求めるもの?

 それは……


「大切な人たちが、幸せに暮らせることだけど……」

 鏡の中のジゼルが(かぶり)を振った。

 ダークブラウンの長い髪がふわりと揺れる。


 その光景をぼんやり眺めていると、不意に鏡の中が真っ黒になった。

 両手を合わせていたジゼルも消えてしまう。


 すると目の前の鏡に、タナエル王子が映り込み、彼が喋った。

「やっと見つけた」

「タナエル王子! ……お怪我はありませんか?」

 本物だと気付いた僕は、すぐさま振り向いた。

 彼の様子が気になって、全身をさっと見渡す。

 

 魔術師じゃない人とピクシーの世界に来たのは、初めてだった。

 蒼の魔力が強いこの世界で、タナエル王子たちの体に影響がなければいいのだけど。

 

「あぁ。……ここは何だ? 今しがた鏡の中にあの老人が現れて、寝ぼけたことを言われたのだが」

 タナエル王子が眉間にシワを寄せた。

 よく分からない所に連れてこられて、すこぶる機嫌が悪い。

 けれどいつもと変わらないその様子に、元気そうだと安堵する。


「彼はピクシーです。日によって姿を変えるイタズラ好きの妖精で……蒼い月の日に、僕たち蒼刻の魔術師の魔力に惹かれて、遊ぼうと寄ってくることがあるんです。そして勝手に彼らの作り出した世界に連れて来られます」


「ふーん……なるほど。以前にピクシーが子供の姿で現れて、ジゼルと共に来た……と」

「なんで分かるんですか!?」

 目を見張る僕に、タナエル王子が背後を指し示した。


「ディランの後ろの鏡に映っている」

「え?」

 急いで振り向くと、王子に言われたその鏡に、以前来た時の光景が映っていた。

 ちょうど猫耳尻尾の子供の僕たちが、長い階段を登っている場面だ。


「でも何故、猫で子供なんだ?」

「……ピクシーのいたずら?」

 僕は質問を質問で返した。

 王子はさらに眉をひそめる。


「…………戻る方法は?」

「いつもはピクシーを捕まえたら戻れます。けれど今回は僕たちの〝真に求めるもの〟が分かれば、元の世界へ返してくれるそうです」

「……そうか……」

 タナエル王子が「ふむ」と納得すると、僕に背中を向けた。


「行くぞ」

「……っどこへ?」

 スタスタと歩き始めたタナエル王子を、僕は慌てて追いかけた。


「セドリックを探す。あいつも〝真に求めるもの〟を聞かれているのだろう? 1番やっかいだ」


 タナエル王子が何故か難しい顔をして言った。




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