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いやいや出会いは必然でしょ

経験不足の私でも分かる。今この上なくピンチを迎えてると。


どうにか婚約までこぎつけようと勇んで仮面舞踏会に参加したけれど、ここまでの覚悟していない。すでにこの謎の男は私の上に馬乗りだし、逆光で表情はよくわからないけど瞳の奥に見える金色の何かだけがランランと輝いている。頭には何だか獣の耳のような影も見える。 

 

(もしかして獣人?息が上がっていたのって…まさか、まさかの発情…期!?)


ぞわっとして体が緊張でこわばる。左右に広げた二の腕は、力強くがっちり抑え込まれ、びくともしない。あれこれ考えたところで抜け出すすべも見当たらないが、黙ってされるがままになるのも違う気がする。何かを探るようにじっと目だけを見つめてくる。


「…魔物…。」


(え?今なんて言った?魔獣?私に向かって?聞き捨てならないわね!)


「その顔は魔物だろ…お前から甘い香りが漂ってくる…。これも幻影の類なのか…頭の中がなんだかボワっと…。」


なぜか声がどことなく甘く切ない。目もとろんとして…。


ゆっくりと顔が近づいてくる。


(魔物に見えているのに?もしかして、もしかする?ダメだから!本当にダメだって!あ~~~私の純潔サヨウナラ!!)


エリゼは心の中で大絶叫をして、目を思い切りつぶる。つぶって…つぶってって…あれ来ない。


(今のはキスのタイミングではなかったのかしら?)


それになんだか右頬がサワサワしてくすぐったい。耳元から首にかけて息がかかる。しかも体に圧し掛かる重さはもしかして…。


(寝たの?)


一定のリズムで静かに呼吸しているのがわかる。


(ここで寝たの?この状況で?本当に?)


肩透かしとはこのことだけど、安心感からか体から力が抜ける。頭の中もだんだんと冷静さを取り戻してきた。この男の寝息以外の音は何も聞こえないし、廊下に人の気配すら感じない。


(このままじっと助けを待つしかないのかしら?誰かが探してくれていれば良いんだけど…。それにこの男、私のことを魔物と言ったわね。助けてあげたのに失礼だわ。)


少しの怒りを感じたが先ほどのことを思い出すと顔が火照る。


(もう…キスなんて…。よくよく考えたら私はお面を被ったままだった。勘違いをして心の中でダメと叫んだ自分が恥ずかしい。)


自由になった左手で頭の後ろの蝶結びをほどき、お面を外して顔の横に置く。ぴったりとくっついてすやすや寝ているこの男の体温が高いせいか私まで眠くなってくる。顔にかさる髪の毛も柔らかくて気持ちがいい。


(この頭を撫でたいわぁ。きっとふわふわなんでしょうね。)


一緒にベッドに横になっているとはいえ、まったくの他人だ。だけど好奇心だけはむくむくと盛り上がってくる。少しだけ、少しだけ、そう思いながら左の手のひらを頭にのせてみる。


(ふわふわだ。。。)


そっと撫でると耳がピクピクする。


(可愛すぎる。起きているときはあんなに横暴だったのにこの可愛い生き物はなに?)


今度は耳を突いてみる。するとぶるっと震える。


(くーーツ可愛いじゃない。天国なの!ここは天国なの!!)


一人悶絶していると、扉を静かにノックする音が聞こえる。それと同時にランプを持った人影が入ってくる。


「失礼いたします。どなたかいらっしゃいませんか…。」


女性の声だ。ランプを頭上にかざして辺りを照らす。


「います。ここにいます!」


するとその女性の後ろからもう一人。リサだ。


「ああ…エリゼお嬢様、ここにいらしたんですね。何故こんなところに!なかなかお戻りにならないので係の方に探して頂いたところ見当たらないと…。」


リサは駆け寄って手を握る。


「それよりもこの男、私から引き剝がしてくれないかしら。」


エリゼしか目に入ってはいなかったが、あらためてその光景を目にして驚愕し息を飲んだ。


「まさかお嬢様がそこまでなさるなんて…。」


リサは今でも泣き出しそうな顔で私を見る。リサが考えるようなことはないから安心してと言い聞かせ、とにかくこの状態をどうにかして欲しいと訴える。2人がかりでなんとか引き剥がし、やっとベッドから離れることができた。リサと一緒に手伝ってくれた女性にもお礼を言う。


「私のメイドが大変お世話になりました。そして私も助かりました。ありがとう。」


すると女性はにこりと笑う。


「こちらこそありがとうございます。私のご主人様がご令嬢に大変ご迷惑をおかけ致しました。」


こちらの女性も姿が見えなくなった主人を探していたところ、血相をかいたリサに遭遇したそう。

先ほどまでこの男呼ばわりしていたけれど、エリゼは男の身分の高さを察してしらっと呼び方を変えてみる。


「そちらのご主人、お酒の飲みすぎかしら。ここまで運んできたけれど、体調が思わしくなさそうで。できればお薬を飲ませて差し上げた方がよろしいかと。」


女性はにこりと笑う。


「ご心配頂き誠にありがとうございます。こちらの駄犬は私にお任せください。」


(ん?今なんと!)


聞き返す間もなくリサに手を引かれながら部屋を後にする。


(そういえばお互い名乗らなかったけど仮面舞踏会なんだから良いわよね。)





























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