怪談会議_学校三十不思議
古今東西、どこの学校にも『七不思議』は存在した。
この辰白学園にも七不思議があり、もの好きな学生が絶えず噂をしていた。
一つ目、登ると一段多くなる『魔の一三階段』。
二つ目、誰も居ない筈のトイレをノックをすると返事が返って来る『トイレの花子さん』。
三つ目
「ちょっと待って。トイレのって三つ目じゃなかった?」
「えぇ?二つ目じゃないの?」
「あれ?私、階段の話が二つ目だって聞いたけど?」
「いやいや、階段は四つ目だった筈。」
「えっ四つ目は音楽室の話じゃなかったっけ?」
「もう順番とかどうでも良くね?」
「三つ目が音楽室で、四つ目は倉庫!」
「倉庫って、何か幽霊が出る噂あった?」
「ってか、倉庫ってどこの倉庫?」
話は延々と続き、決着が着かぬまま結局正確な七不思議を覚えている者は誰もいなかった。
何故この様な状況になったのか。それは人の好奇心故に誰も彼も怖い噂を話して聞いて、中にはデタラメな話まで混ぜられ伝わって広まった為、どれが何番目でどの不思議か覚えられなくなってしまったからだった。
それに私が通う学校には、校舎の中では教室に理科室、音楽室に家庭科室に体育館、保健室に図書室の他に、学校によってはパソコン室もあった筈。細かく分けたら準備室や更衣室だってある。
更に校舎の外も含めたらグラウンドやプールもある。これだけの場所があれば、その分噂の数も増えて当然だろう。
単純に怖い噂が多い、というだけで特に問題なく見えるが、学校側からすれば迷惑な事だった。何せ怖い噂が広まり、興味本位のより無許可で肝試しをする生徒が増えたからである。
教師や保護者らはその問題の対処に勤しんでいたが、現時点で私には別の問題があった。
2
それはある日の夕方、夏が終わり日の沈む時間が早まり、放課後には辺りが暗闇に包まれる時間。私は課題を教室の机に入れたままにした為、先生に注意を受けるのも億劫と思いこっそりと学校に入り込んだ。
そして目的の課題を見つけ、早く帰ろうとしたその時、どこからか話し声が聞こえた。生徒がいる筈がないのはもちろん、教師達が会議をするには奇妙な時間帯にやるなと思い、私は好奇心を抑えられず、見るだけだと言い聞かせて声のする方へと行った。
そこは今はもう使われていない筈の第二会議室で、そこから声と部屋の明かりが漏れていた。私はドアの硝子越しに顔を少し多で出して中をみた。
中には机を円状に並べ、皆部屋の中央を向く様にして椅子に座り、正に会議をする状態となって席についていた。男女半々と、私よりも年下であったり年上であったりと様々なヒトが卓を囲み、そして席の一角であり一番目立ちいわゆる上座と呼ばれる席を立って皆に話し掛けるヒトが目に入った。
そのヒトは私よりも年下らしく、髪は黒いおかっぱ頭で、白いYシャツに少しだけ煤けた赤色のスカートを履いており、どこかで見たことがある様な風貌をしていた。
左腕には腕章らしきものを着け、黒板に何かを書くとまた正面を向いて部屋の中の皆を見渡した。
「それではこれより第九三回、『怪談会議』を始めます!本日の議題は、怪談の舞台となる特別教室の数を絞る、というものです!」
おかっぱの女子の言葉に拍手を送り、続けておかっぱの女子は言った。
「そもそも我々がこうして会議を続けているのは、皆が七不思議が起きるであろう場所を絞り切れていないのが一因であり、いっその事特別教室を先に絞り出すのが良いと判断したからです!」
「確かにね、学校にある特別教室って本当に多くなったよねぇ。」
おかっぱの女子の言葉に反応する様にして、おかっぱの女子から四つ席の離れた場所に座るYシャツに紺色のズボンを履いた前髪の長い男子が声を出した。
「理科室に至ってはさぁ、今じゃ生物室とか実験室、あとは薬品倉庫とか部屋がいくつも分かれてさぁ、ちょっとスペース取り過ぎな気がするんだよねぇ。それじゃあ噂だって分散しちゃうよ。」
「そーお?」
「たしかにおおいかもだけど、うわさじたいそんなにおおきはないとおもうわよぉ?」
男子の言った事に反対する様にして、その男子の向かい側に座る白い髪の女子と黒い髪の女子がゆったりと言った。この二人はまるで双子かと思える程似ていて、実際双子なのかもしれないが、私は分からない。
「いや、たしかに多くはないかもだけど、せめて骨格標本と人体模型のどっちかって出来ないの?ちょっとややこしいんだよねぇ。」
隣に座る男子が二人の白黒の女子に言った。気だるげで長い髪を後ろで縛っており、だらしなく見えた。
「えー?そんなにややこしい?」
「どっちかなんてきめられないよぉ。どっちもいたっていいでしょお?」
こうして誰かが話すと別の席の誰かが反論し、だんだんと話が広がり話題も徐々に最初のものと変わっていった。
「だったら!音楽室は絶対欠かせないわ!特にピアノと言えば、音楽の授業で使われる必需品と言っても過言ではないわ!」
「確かに!それに音楽室には偉人の肖像画が飾られているから、必然と音楽室としての恐怖は急増するだろう!」
「…何言ってるの?有名なヒトとは言え、今時肖像画を飾る学校だってそんなにないでしょう?むしろ邪魔になるし古臭いじゃないの!」
「ふっ古臭いとはなんだぁー!」
話が全く見えないが、何か大事なものを決めていると言うのは分かった。意味は分からないし自分には関係ないと考えそろそろ学校を出ようとした時、足がドアを蹴る様にしてぶつけてしまい、音を立ててしまった。
音に驚いた私は自分の足元を見て、音が鳴った原因に直ぐに気付くと同時に、音を立てたから中にヒト達にも聞こえてしまっただろうと、ゆっくりと顔を上げて中を見た。
さっきまで喧嘩でも始める寸前かの様に賑やかだった部屋の中は一瞬で静まり返り、中のヒト達全員が瞬き一つせず、私を見ていた。
その光景に息を飲み、心臓が大きく跳ねた。
なんだ?何故そんな感情の抜けた表情でこっちを見る?さっきまで皆表情豊かに話し合っていたのに、何か私は悪い事でもしてしまったか?
いや、現在進行形で学校に忍び込んでいるが、それにしたってあのヒト達の今の姿は、普通のヒトである筈なのに、異常に見えた。
目が、ヒトの目に見えない。こわい、こわい、怖い恐い!
私は思わずその場を逃げる様に駆けだした。実際私は今逃げていた。
今見たものが頭から離れられず、ただただ恐怖により足を動かして逃げる事に考えられなかった。
その時、何かが顔の直ぐ横を遮った様に感じた。見たくないのに思わず目だけで横を見た。そこには大きな影が私を追いかける様にして壁を這っていた。
悲鳴を上げそうになったが、そんな暇は無いと私は声を出す事よりも足を動かす事だけに集中した。
階段を下りようと足を掛けた瞬間、階段から腕が生えて私の足を掴んだ。邪魔だと思いその腕を思い切り蹴って階段を駆け下りた。
階段を下りた先でも、突然床に水浸しになったり、髪の毛がどこかから垂れてきたり、何かがドアや窓を叩いたり、しまいにはどこからか人体模型に骨格標本、更にどこかで見た石像が走ってきたりと、怪談のオンパレードで正直引いた。
一体この怪奇現象の数々は何なんだ!?まさか、これは今の『ヒト達』の仕業か?部屋での会議を見られたから、皆して私を追いかけてきていると、何故かそう直感で理解し、私はそんな『ヒト達』から逃げようと更に走った。
そんな怪奇現象パレードを潜り抜けた先にやっと玄関が目に入り私は安堵したが、玄関の直ぐ横に誰かが立っていた。それはあの部屋の中、皆を仕切る様な言動をしていたおかっぱ頭の女子だった。
彼女も何かしてくる!?走りながらも警戒しても玄関を直ぐに潜ってしまおうとスピードを上げた。そしておかっぱ頭の女子の直ぐ横を通り過ぎようとした瞬間、その女子が足を伸ばして私の足を引っかけた。
スピードを上げていた為に急に止まれず、私はそのまま勢いよく転んで玄関の扉に顔面を強打してしまった。
「そっ…そこは普通に転ばすんかーい。」
そうツッコミを入れる事を忘れず、私はそのまま気絶してしまった。
3
気絶から覚めた時、目にしたのは先程会議をしていた面々だった。私は驚き、先程の光景と追いかけられている最中の会期原初の数々を思い出し、自分の顔が青褪めるのを感じた。
一体私はどうなるのだろうか。あれだけの怪奇現象を起こしたのが本当にこの『ヒト達』だったら、私に対して絶対恐ろしい事をするに決まっている。最悪命を失う事も覚悟した。
しかし、そんな私に言い渡されたのは、全く予想していなかった事だった。
「是非、会議の仲介役になってほしい!」
会議を行っていた『ヒト達』全員に言われ、何を言われたのか最初は理解出来ずにいた。
いわく、彼らは察している通り人間ではなく、辰白学園に語られる怪談や噂が具現化した存在なのだとか。そしてそんな彼らが会議をしていたのは、『辰白学園の七不思議』を決める為だとか。
いわく、この学園には七つどころか三十もの不思議があり、学園の誰も彼も、七不思議を正しく認識出来ずにいるのだとか。確かに七不思議に関する噂私も聞くし、七不思議どころか何十不思議あると言われるほど噂が溢れているのも聞いた。
更にいわく、正しく七不思議を認識されないのは、皆真剣に自分らの話を認識していない為だ。正しく認識されないと、怪談や噂としての存在意義が薄まり、人間を怖がらせる事が出来なくなるという。それは彼らの怪談としてのプライドが許さず、こうして自分らで誰が七不思議の座に座るかを決めているのだと言う。
だが、会議の結果はさっき私が見ての通り、会議は終わるどころか混沌を極め、決着が付かないままもう九三回も会議を続行する羽目になっているとか。
確かに、皆各々の主張が激しく、とても協調性がとれる雰囲気では無い。故に誰か一番か、自分が一番だと主張するだけでとても七不思議が決まる兆しが見えない。
そんな時、私に白羽に矢が立ってしまった。
人間であるわたしが、どの怪談が怖いかを決めてもらい、一番怖いと思った怪談を順に決めて七不思議にしようという事になったらしい。
仲介とは言うが、実態は第三者として誰が七不思議に相応しいかを私に決めさせようという事だ。何と勝手な事か。こんな調子だからなかなか会議が終わらないだろうに。
しかし、ここは引き受けなくてはいけない。と言うか、断れば全員総出で呪うと彼らが放つ雰囲気が言っていた。断る隙が無い!
結果として、私は彼ら怪談の会議において仲介役を担う事となった。
そんな私はその後、結局家に帰り着くのが遅くなり、両親に怒られる結果になったが、そんなものがまだやさしいものだと後になって痛感した。
放課後、皆が部活へと勤しむ様に私も使われずヒトが近寄らなくなった会議へと足を運び、そしてその日の会議が始まった。
九四回目となる会議では、各々がどんな怪談かを私に紹介していった。
「俺は校庭の怪談だ!グラウンドで走る幽霊は大体俺の事だぞ!」
「おれは石像の怪談。ヒトの後を着いて走る、有名な石像を動かすんだ。」
「だから!走るって所で俺と被ってるんだって!走るんじゃなくて踊ってろっての!」
「それやってこの前人間に笑われたんじゃないか!お前も走る以外の運動しろよ!」
男子二人が怱々に言い争うを始めてしまった。だが他のヒトはそんな二人など見向きもせず、自身の紹介を続けた。あぁ、何時もの事なのか。
「私は鏡の怪談よ。鏡が掛けてある場所ならどこでも移動出来るし、鏡の中に引きずり込む事も出来るのよ。」
「鏡ならなんでも良いって、それずるくない?ただでさえ階段の踊り場を占拠してさ、止めてよぼくの領域なのに。」
「黙りなさい。あんたの怪談、ただでさえループさせるってだけで地味なんだから。」
「ひどい。」
片方の怪談に言い負かされ、落ち込む男子を横目に自身を鏡と名乗ったその女子は、穏やかそうな雰囲気に反して結構言葉に棘がある。
「わたしは骨格標本の怪談。」
「あたしは人体模型の怪談。」
「よろしくね?」
「よろしくぅ。」
こちらは一瞬双子かと思える程よく似た女子二人だ。見た目は小柄で喋り方も緩慢として正しくお人形のような二人だが、二人の自己紹介を聞いてちょっと引いてしまった。
どれも理科室で見かける、ちょっと近寄り難いあの道具だよな?今の二人の姿とイメージが合わない。
「私は音楽室の怪談。思うに楽器を鳴らして人々を驚かせるわ!」
「私は音楽室の怪談。主に壁に掛けられた肖像画を操り人々を驚かせます!」
こっちは二人一緒に自己紹介をし、最初仲が良いのかと思ったら直ぐににらみ合いを初めて、違うなと見て分かった。
鏡や階段の幽霊に、音楽室のピアノと肖像画。理科室の標本と、他にも多種多様に怪談が存在するとありありと見せられ、私は恐怖よりも呆れを感じた。
確かに皆怖いもの見たさで肝試しをしたり、あれやこれやと話に尾ひれを付けて恐さを引き立たせる事はあるが、その結果がこの三十にも及ぶ数が存在すると考えると、頭を抱える。
きっといくつかの怪談は、この学校では無い他所の学校の者も混ざっているだろうし、とてもこの学校内で収まるものではない。
そう考えられるのに、皆前の会議と同様に自身の怪談について強く主張し出し、ふたたび収拾つかない状況になっていた。
「皆やっぱり自分が一番怖いって思ってもらいたいんだろうね。でなきゃ本当に存在があやふやになっちゃうから。」
まるで他人事でも話す様に、おかっぱ頭の女子は他の怪談に対して達観した物言いをした。それはあなたの同じではないのか?と聞くと、どうやら彼女は他とは事情が違うらしい。
彼女は実は既に七不思議の一つ目と確定した存在らしい。と言うのも、彼女の正体は『トイレの花子さん』だとか。確かにその名前はどこの学校でも聞く超有名な怪談話だ。少なくとも学校の怖い話と言えば何かと聞かれたら真っ先に思い浮かぶ名前だ。
「ほら、この腕章!これが七不思議確定の証なのよ!」
そう言って私に見える様見せてきたその腕章には『壱』と縫われていた。それを見た私は、決める七不思議が六つである事に負担が一つ分減った気がして少し安心した。
「でもトイレの怪談って、どこか臭う気がするよね。」
「学校によっては花子さんが便器から出てくるって話もあるよね。」
「あぁ、そりゃあ臭いな。」
「…トイレ臭い女子。」
「お前ら黙れ!」
トイレの花子さんという風評被害と言うよりも、既に七不思議入りが確定している怪談に対しての嫉妬や妬みから怪談達は皆花子へと集中砲火をしていた。なんとも醜い争いだ。
こうして会議に参加して分かった。いや、参加せずとも最初に覗き見た時から分かっていたが、皆自己主張が強すぎて、とても七不思議の残りの枠が埋まる気がしない。
もしこのまま決まらないと、必然的に私はまた会議に出席させられ、寝不足やら何やらでこれからの生活に思い切り支障を来す事になる。そんなものはお断りだ!
「もう、そんなに皆目立ちたいになら順番とか数の制限何てしないで皆で不思議しちゃえば良いでしょうが!」
机を思い切り叩き、音で皆こちらを見た瞬間大きな声で叫んだ。怪談達は酢での取っ組み合いをして話も碌に出来ていない状態だった為、寝耳に水の状態で私の話を聞いた。
「確かに学校の七不思議って言えば有名だし、皆自分がそうありたいって気持ちは分かるけど、これだけの怪談があるならもう数にこだわる必要なんてないじゃん!
それに別に七不思議って名乗らなくたって、あんた達は十分怖いんだからそれで良いでしょ!?」
最初の時、私が勝手に会議を覗き見た事に気付いて怪談達が私を捕まえようと追いかけて来た時、本当に怖いと思った。下手したら命が奪われるんじゃないかって思える程だった。
夜の校舎の中であったからこそ怖さに拍車を掛けたかもしれないが、あんなのを見て怖いと思わない人間はいないと思う。実際に私はそこまで怖がりではないと自負しているし、思い出すだけでも肩が震えだす位だ。他のヒトだってあの光景は見れば一生忘れらえない心の傷になるだろう。
「それにさ、あんたらだって喧嘩してても解決しないってのは分かってるんじゃないの?それなら、皆一緒に学校にヒト達を怖がらせて、皆一緒に記憶に残した方が良いに決まってるんじゃん。」
言われ、怪談達は黙って互いを見合って落ち込んだ様子を見せた。ちょっと自分の言った事を思い返し、人間として怪談を助長させるのはちょっと駄目かとも思ったが、私の言葉で随分と反省したらしく、そうだよなと誰かが言った。
「なんだかんだ言ってさ、俺もだけど他の奴だって十分怖いだろうさ。なのに、何時の間にか誰が一番か、何て数字ばかり気にしてさ。そりゃ何にも決まる訳ないさ。」
「所詮、うちらは人間から生まれた噂話が元に実体化した存在さ。結局は怖がる人間がいて初めて成り立つんだ。こんな人間のいない所で騒いだって、それこそ怪談としての存在意義が無いよ。」
互いに同意しあい、中には互いに謝罪し合う怪談もいて徐々に穏やかな雰囲気が部屋の中を包んだ。恐怖の対象としてその雰囲気は如何なものかと思ったが、今は黙って見守る事にした。
「人間。あんたのおかげで、今回の会議はこれで終わりだ。
私も、自分が七不思議に決まって嬉しいあまり、仲間の事を蔑ろにしていた事を反省するよ。」
花子さんが頭を下げ謝罪して来た事に私は驚きつつも、無事に会議が終わったという言葉に安堵し、怪談達と共にこれからも人間達を驚かせる存在としてしかり励む事を決意し、皆と歓声を上げた。
…やっぱり人間として、怪談の中に紛れて人間を怖がらせようと盛り上がるのは駄目かもしれない。そう思いつつも、今この瞬間の感情は、もう忘れないだろうと思いつつ帰宅した。
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怪談会議から後日、辰白学園では異様な雰囲気が包まれていた。
とある部活帰りの生徒がプールから音がするのを聞いて、見てみると誰かが泳いでいるのを見つけた。誰か悪戯でもしているのか、それとも幽霊が出たのかと思い、不用意にプールに近づいた。すると何かに足を引っ張られプールに引きずり込まれ溺れかけたのだとか。
更にある夕暮れ時、怪談を下りていると全く下の階に行き着かず、すると踊り場に飾られた鏡に自分以外の影が映り込み、鏡の中から腕が伸びて来て腕を掴まれたという。
別の日には、理科室へ資料を取りに来た生徒が理科室に入ると、置いてある骨格標本や人体模型が踊り出したと思えば、ホルマリン漬けの瓶が転がり落ちそれらに囲まれたとか。
体育館で戸締りをしていた教師が、体育館の中からボールの音がするのを聞き、中を覗くとボールがひとりでに跳ね上がり、体育館の証明が点滅してステージに立つ血まみれのヒトが立つのを見て卒倒したと聞いた。
そうして教室、音楽室にトイレなど他の場所でも恐ろしい目に遭ったヒトが続々と現れ、噂は広まっていった。
直接恐ろしいものに遭遇していないヒト達も噂を聞いて、生徒だけでなく教師や保護者達も恐怖に震え、学園の中は騒然とした。そんな中、私は思った。
やってしまった。
それもそうだ。怪談が七つどころか三十もあるのだから、学校に踏み入れれば何かしらの怪談に一つは接触し、恐怖させられるのだから、むしろ何も出くわさない方が珍しい。
数なんて気にせず、全員で人間を驚かせればよい。
確かにそう言った自分の不用意な発言に、私自身思い切り後悔している。夜にしか活動しないからと思って怪談達を侮っていた。このまま行けば学級閉鎖どころか、学校が閉鎖になってしまう。
どうしようかと思っていた矢先、どこからか小さなメモ書きが現れた。これ怪談会議を報せる紙で、これが自分の手元に来たと言う事は、今晩の会議に出席しろ、という合図だ。
嫌な予感がする。怪談側からも思う事があるという安堵感を感じつつも、これからの自分自身の雲行きの怪しさを告げる紙を私は無意識に強く握りつぶしていた。
「えー結果を申しまして、人間達は確かに怖がってくれてはいるものの、怖がり過ぎて皆学校に来たく無さそうな雰囲気になってしまっています。実際不登校になったという生徒もいる様です。」
「あーわたしがうしろからだきついたこかなぁ?すっごいおどろいて、そのままそのこきぜつしちゃったのよねぇ。」
「つまりっえー。このままでは学校に人間が寄り付かなくなり、驚かす人間がそもそも居ない状態となってしまう恐れがありますので、急遽予定を変更し、会議を再開する事にしました!
っという訳で、これから第九五回怪談会議を始めます!」
怪談達が意気揚々と声を上げる中、私は机に突っ伏していた。
「…もういーかげんにしてくれぇ。」
結局、私は怪談会議に出席させられる羽目になり、再び何時までも終わらない会議が始まる事となった。そしてきっと今回の会議でもまともに話し合いは出来ずに次回に持ち越されることになるだろう。
最早今の私の状況が七不思議になるのではないだろうか?
七不思議○つ目、どこからともなく意味不明な会議に参加させられ、理不尽な騒動に巻き込まれる噺。
他にも怪談を書きたかったのですが、話の都合により思う様に書く事が出来ませんでした。
続きは書きません。