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くようばこ ひとつめ  作者: 狩人タヌキ
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第37話

 ……何と言うか、どの辺りが『普通に弔意や哀悼の持ち合わせもある』人間なのか分からなくなるような血に飢えt――好戦的思考だが、一応彼にも言い分はあるらしい。


(村一つの戦力を纏めて潰しに来る規模の襲撃なんかやるよぉな連中だ。今ココで標的の俺が逃げたら確実に追って来る。もし、それを撒いたとしても、俺が最終的にドコへ向かうかなんて考えるまでもねぇ。となれば、今度は王都に侵入(はい)って来るなんて事もあり得る)


 確かにハンスの『逃走』が成功したとして、そこで襲撃者達が手を引く保証など無い。


 それどころか、一国家としてエルレンブルク王国が所有する権力の象徴とも言える王国騎士への襲撃――つまり、王国を敵に回す事も厭わない集団が相手なのだ。


 もう、この時点で四大勢力の一角である所の『連合の実質的支配者サマ』が真っ黒に感じられるが、そんな大敵を相手に守勢に回った時点で圧し潰されるのは目に見えている。


 だから、旅人時代は勿論、王国騎士となってからも一対多勢の戦場を幾度も生き残ってきたハンスの思考としては、この選択は当たり前の帰結だった。


 それに、夢の中での追体験だったとは言え、家族を殺されて故郷まで滅ぼされた上に、改めて王女殿下への恋慕忠誠を確認したばかりのハンスが、自分の所為でセフィーが居る王都に敵を招き入れるなど――いや、それ以前に、何よりも大切な女性へ刃を向けかねない輩を国内にのさばらせておく事など許容できる筈が無い。


(烏共はココで始末する――それは決定だ。となれば、後の問題はそれをどぉ実行するかと聖騎士達をどぉするか、か……一先ず詰め所の連中は館のヤツを一匹捕まえて詳しい話を聞き出してから考えるとして、残るは聖騎士達の方だな……)


 ハンスの手元には、聖騎士達が完全に敵であるという確固たる証拠は無い。


 この状態で勝手に敵認定して問答無用に斬り捨てたとして、万が一にも勘が外れて襲撃と聖騎士が無関係だった場合、当然教団は王国にこの件の責を追及するだろう。


(まぁ、一人も討ち洩らさなけりゃ、幾らでも誤魔化せるが……)


 ……ハンスの倫理観や道徳観念は脇に置いておくとして、確かに教団が王国を責めるには教団関係者がハンスの非で殺されたのだという()()が必要ではある。


 だが、今は草木も眠るような時間帯で、当然道行く人々などという都合の良い目撃者は皆無。


 そもそも、王国の民には『救国の賢者エアレーズング・クルーガー』を迫害した教団に対する強烈な反発意識がある上に、対するは『闘技場の英雄(ドゥエル・ズィーガー)』として民からの信望の厚いハンス・ヴィントシュトースなのだ。


 仮に、今回の襲撃の一部始終を目撃する村人が居たとして、その者がどちらの味方に付くかなど態々明言する必要も無いだろう。


 そして、教団側の証言者が存在しないのであれば、王国騎士であるハンスの証言こそがこの村で起きた流血の真実と()()()()


 つまり、今夜の真実はどの勢力が生き残るかによって簡単に塗り替えられるという事なのだ。


(烏共みてぇに寝込みを襲うってのが一番安全で確実なんだろうが、この状況で無関係だなんて前提で動くのは、眼も開き切ってねぇ仔犬並に危機感が薄いってもんだろぉし……でもまぁ、俺が行く前に連中が動いてれば、この襲撃は九割九分九厘教団の差し金だって考えられるワケだから、下手に迷わずに済むって思えばいいか。建物に動きも視界も阻害される村ん中なら、甲冑っつぅバカ高い足枷纏ってる連中なんぞ敵じゃねぇし)


 完璧に襲撃者側の思考回路で考えている『血塗れ狼(ブルート・ヴォルフ)』は、此処までの思考時間が一秒にも満たなかった事にも気付かないまま、考え込んで無駄にした――と本人は感じている――時間を取り戻す為に高速の忍び足で館の扉へと迫る。


 途中、街道を吹き抜ける風に混じった鉄錆の臭いが強くなっていたが、それを一切意識に上げないまま、ハンスは扉越しに館の様子を窺った。


 と言っても、さっきハンスが行った個室での待ち伏せと違い、出入口が限定されていない館内で暗殺者が態々一番目立つ正面玄関を使う利点が無い事は明白なので、彼もその場で黒衣の動向が把握できるとは思っていなかったが。


(…………………………ン、取り敢えず、広間に人の気配は無し、か……んじゃ、失礼させて貰おうかねぇ……)


 ハンスが突き出したのは鍵……なわけが無く、剣先の峰部分に付いた土を払い落とした黒剣だった。


 黒い片刃剣は仰々しい装飾の鍵穴を素通りし、両開きの正中線へと滑るように入り込んで行くが、刺し込まれた刃の厚みで扉は悲鳴を上げるように軋んだ。


 ギリギリと不快な音と共に反りのある刃が中腹まで扉に沈み込んだ所で、ハンスが自身の胸辺りの高さに刺した剣を一直線に振り下ろすと、氷が鳴るような澄んだ音と共に二つの扉を繋ぎ合わせていた金具が断たれた。


 そのまま間髪入れずに扉を蹴り開けたハンスは、ベルトのナイフに手を添えながら改めて周囲の状況を精査する。


(………………大丈夫そうだな。さっき見た感じだと、通路沿いに出入口の類は無かった。となれば、連中は厩舎に行ってから()()を見るワケだ。今の内に歓迎の準備でも始めるかねぇ)


 通路と同じく闇に覆われた広間を研ぎ澄まされた目と耳と鼻でざっと洗って安全確認を終えると、ハンスは右手に握る黒剣を鞘に戻しながら館内に踏み込んだ。


 その時だった。



 ――――カタッ…………



 突然、広間の奥から微かな物音が聞こえてきたのだ。


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