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第1話 オラオラ系侯爵とやれやれ系騎士

「クレア=シーフィア。貴様とのパートナー契約を解消する!」


 ヘルメス錬金騎士学園の玄関ホールで、一等貴族レイノルズ家長男のヴィンセントが声高に宣言する。


「……はい?」


 なんとか笑顔を維持しつつ、首を傾げるクレア。


「またお前のせいで昇級試験が不合格だったからな。これで3度目だ、もう我慢ならん」


「いや、それは私の錬成物に問題があったのではなく、ヴィンセント様の剣の腕がまだ銀級(シルバーランク)レベルではなかっただけでは?」


「うるさい、黙れ! お前の作る武器はいつも無骨(ぶこつ)で美しくない。俺様に相応しくないんだよ。お前の作る武器は!」


「そ、そんなことを言われても、ヴィンセント様がいつもくず鉄しかくださらないから仕方ないじゃないですか! 美しい装飾をしてほしいならもっとマシな素材をください!」


「言い訳は聞かん! 錬金術の腕が立つと聞いて六等貴族のお前と組んでいたが限界だ! ブスで、錬金術も(つたな)く、品もない貴様とはもうやってられん! 今日から俺様は二等貴族のエヴァリーと組むことにした。お前は用済みだ」


 ヴィンセントは“パートナー解消契約書”を掲げる。

 この契約書に騎士と錬金術師がそれぞれサインすることで、パートナーは解消となる。すでにヴィンセントのサインは入っていた。


 野次馬たちがクスクスと笑いだす。

 これまで一等貴族のパートナーとして持て(はや)されてきたクレアが落ちる様を笑っているのだ。クレアはこれまで自分が一等貴族のパートナーであることを誇ったり、自慢したことはなく、周囲が勝手におだてていただけである。なのにこの、『ざまぁみろ』という空気……。


 クレアは怒りを抑え、無言で契約書にサインした。


「これで貴様とはお別れだ。せめて六等貴族らしく、どこぞの馬の骨と組むことだな。はーっはっは!!」


 高らかに笑い、ヴィンセントは背を向けて階段の方へ向かう。

 ヴィンセントの笑い声に呼応するように野次馬たちも笑い声の音量を上げていく。

 一方クレアはそんな笑い声など意に介さず、助走をとっていた。


――ドロップキックをかます助走である。


「こっちの方こそ……アンタなんて……!」


 ダダダダダ! と50m6秒台の速度でクレアは走る。


「は?」


 足音に気付き、ヴィンセントが振り向いた時にはもう遅い。

 クレアはすでに靴底をこちらに向けて、飛び込んできている。


「――お断りだこらぁ!!」


「ぼはぁ!!?」


 ヴィンセントの顔面にクレアの右足が突き刺さる。

 こうしてクレアは一週間の謹慎処分をくらった。この一件は“ボンボン玉砕キック事件”としてヘルメス錬金騎士学園中で噂となった……。



 ---  



 ヘルメス錬金騎士学園は騎士と錬金術師を教育する学園である。

 この学園には珍しい校風があった。それは『騎士と錬金術師は二人一組で行動すべし』というものだ。入学した時点で騎士と錬金術師でタッグを組み、課外授業や試験に(のぞ)んでいく。ゆえにこの学園に(かよ)うすべての生徒にはパートナーが居るのだ。


 クレアは兄が高名な錬金術師であり、その妹である彼女も入学前より期待の新入生として注目されていた。噂を聞いたヴィンセントがクレアにパートナー契約を申し込み、クレアはそれを受けた。ヴィンセントは真っ赤な短髪で一見爽やかで、ガタイも良く、最初だけは穏やかな態度だったので断る理由がなかった。そう、申し込んだのはヴィンセントの方なのだ。


 なのにまさかあちらから解消を申し出るとは。クレアはヴィンセントの厚顔無恥さに呆れを通り越して尊敬の念を抱いた。


 謹慎明け。

 クレアは中央塔の契約室に呼び出された。

 契約室はパートナー契約に関する手続きを(おこな)う部屋だ。


「クレア=シーフィア。今日呼び出された理由はわかるね?」


 契約書士の老教師が諫めるような目つきをする。


「……えーっと、パートナーが居ないまま2週間が過ぎると退学だからです」


「そうだ」


 クレアはすでに1週間パートナーが居ない状態で過ごしている。あと1週間で退学処分だ。


「我が学園の生徒は必ず騎士と錬金術師でタッグを組み、行動しなければならない。ゆえに君は今すぐ、新たなパートナーと組まねばならない」


「わかってます。でも私と同じではぐれ者騎士がいらっしゃるでしょうか?」


「この学園の生徒の数は常に偶数! 余り者は出ないようになっている。君の元パートナーであるヴィンセント、彼が組んだエヴァリーには元々組んでいた騎士が居る」


「あ、そっか」


「今日は彼も呼んでいる。入りなさい」


 契約書士は扉に向けて言う。


「失礼します」


 そう言って部屋に入ってきたのは褐色肌の男。

 真っ白な髪をひとまとめにしており、獅子のような目つきをしている。


「彼はロアン=クロックス。君の新たなパートナーだ」


「はじめまして。クレア=シーフィアです。よろしくお願いします」


 丁寧な動作で頭を下げるクレア。

 一方、ロアンは礼を返さず、ため息で返す。


「やれやれ。こんなガキ臭い女が新たなパートナーとはな」


「む」


 クレアは胸が小さく童顔で、16歳でありながら見た目の年齢は13~14歳ほどに見られる。

 動きやすいから、という理由だけで短く整えられた緑髪も子供っぽく見られる要因だろう。


「はじめましてクレアお嬢様。ロアンと申します」


 ロアンは気取った感じで自己紹介する。


「……なんか、むかつく」


 ちなみに2人は同学年だが顔合わせは初めてである。


 ここヘルメス錬金騎士学園では騎士と錬金術師でクラスが分かれており、課外授業や昇級試験はペアで臨むが通常の授業や筆記試験はクラスごとでやる。パートナー以外の騎士・錬金術師と顔を合わせる機会がほとんどないのだ。


 それにまだ入学してから半年しか()っていない。クレアはまだ同じ錬金術専科(アルケミストクラス)の人間すら半分も把握していないだろう。


「双方、異論がなければこの契約書にサインを」


 異論を唱えれば2人で退学の道しかない。

 両者とも迷わずサインする。


「結構。では次の課外授業より2人で臨むように。以上、解散」


 部屋の外に出た2人はそのまま中庭に足を運んだ。


「これを見ろ」


 ロアンが自身の剣をクレアに手渡す。

 クレアは剣を鞘から抜き、その光沢に目を奪われた。


「……良い出来ね」


「俺が錬金術で作った」


「え!? 騎士のあなたが……!? 凄いじゃん! 騎士で錬金術も使えるなんて!」


 クレアは心からの称賛を送る。


「俺は自分で自分の装備を作れる」


 ロアンはクレアから剣を取り上げる。

 その時、クレアはロアンの手のひらを見た。


(凄いタコ……)


 恐らく幾千と剣を振ったのだろう。ロアンの手のひらにはいくつも潰れたタコがあった。


「つまりだ、お前が錬金術で俺をサポートする必要はない。余計なことをせず、俺の影に隠れていろ」


「え?」


「悪くない話だろう? お前はただ錬金術を行使しているフリをするだけで単位を貰えるんだ」


「なにそれ、余計なお世話よ。私たちはパートナーでしょ? 装備は私に任せて」


「……俺はもう錬金術師には頼らない」


 ロアンはそれ以上なにも言わず、その場を去っていった。


「どいつもこいつも~~!!」

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