表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/80

5-13,光の中


「ナツキくん」

 トラック様がいつのまにかケイトの傍にやってきていった。

「君たちが元いた世界では核兵器というこの世界のどんな魔法よりも強力な兵器があっただろう」

 ボクはナツキの顔を見る。ナツキは頷いていった。

「一撃で国を一つ滅ぼす爆弾だ」

 ボクは信じられない気持ちしかなかったのだけど、冗談を言ったり誇張したりする場面ではないことはよくわかっていた。


 トラック様がこれまでにないほど真剣な顔で話を続けた。

「君たちはまさにこの世界における核兵器だ。しかも厄介なことに対抗手段がない。核兵器ならば核兵器を持てばお互いに使えなくなる抑止力となる。だけど君たちは違う。この世界には核兵器は生まれる予定はないし、気みたいに対抗できるほどの能力者は今後も現れない。君たちだけが無制限に、能力を振るうことができるんだ。世界の運命を君たち二人の気持ちに委ねるというのは怖い話じゃないかな」

 ボクはトラック様を遮って叫んだ。

「それはトラック様が与えた能力じゃないか!」


「そうだね。だから責任を取るためにナツキくんを倒すためにこうしてルール違反を犯してこの世界に過干渉している」

「それが本当の目的だったんだね」

「済まないと思っているよ。これは本当だ。タルトちゃんは完全に巻き込む形になってしまった」

 トラック様と最後に話したときに引っかかっていたことがようやく晴れた気がした。


 トラック様はナツキから能力をなくしたい。

 そのために取れる方法はおそらくボクかナツキをいなくしてしまえばいい。

 まだボクたちが能力者と戦えるレベルにあるうちに。


「じゃあ、ボクが居なくなればトラック様はナツキや他のみんなには手を出さない?」

 ナツキがボクのほうを見る。ボクはトラック様の方を見たまま。

「……君たちが能力を使えない状態になれば、ボクはこれ以上この世界に対して干渉はしない」

 トラック様はゆっくりと答えた。


 なるほどね。

 

 死ねってことか。


「俺も気が進まねーんだけどな。すでにお前らに対抗できる力を持っているのが俺しかいねーんだと」

 ケイトだって悪いやつじゃないのはなんとなくわかってる。


「タルト、俺は認めねえからな。お前が死ぬくらいなら俺が――」

「ナツキ、ボクはいなくならないよ」

 ボクはナツキの言葉を遮った。

 君が死ぬ必要がどこにあるっていうんだ。

 こんな理不尽な話があってたまるかっていうんだ。


「あなた達の言いたいことは分かったし、理解もできるよ」

 ケイトとトラック様が驚いた表情を浮かべた。


「だけど、従えない。だって、ボクは美少女だからね。異世界転生してきた異世界人と一緒に冒険して、戦うのがボクの役目だから」

「タルト」

 ボクはナツキの方を見ていった。

「だから、決めた。トラック様をやっつけよう! ナツキ!」


「は? ボクをやっつける? どうやって?」

「殴りつける! ナツキがね!」

「どうしたんだタルトちゃん。追い詰められておかしくなってしまったのかい? ボクを殴るなんてできるわけが……」

 と言いかけてトラック様はなにかに気づいたようだった。

「できるよ。あなたが言ったんじゃないか。ボクたちは無制限に強くなれるって」

「いくら強くなったところで、バランサーであるボクとは存在する次元が違う。殴るなんてできるわけがないだろう。触れることすらできないよ。ましてやボクを殺す? 生命というものを持たないボクをどうやって殺すっていうんだ」

 トラック様の説明はもう信じない。心に何も響かない。

 ただただボクは信じる。

 こんな理不尽を受け入れる必要なんてない。

 ボクたちが世界のために死ぬ必要なんてあるわけない。


 だったら、世界を変えてやる。


「じゃあ、そこで余裕をかましていたらいいよ。ナツキ、いいよね? トラック様をやっつけてもいいよね?」

 ナツキは最高の笑顔で答えてくれた。

「当たり前じゃん!」


「ケイト!」

「りょーかい」

 トラック様の掛け声に合わせて、ケイトが幾重にも重なる光のバリアを展開した。

「もう手加減は不要だ。どんな方法を使ってもいい。あいつらを倒してくれ」


「ナツキ!」

「まかせろ!」

 ボクの声に合わせてナツキは両手を鎌の形に変化させる。腕を鋼鉄の鎌に変化させるのは一番最初にナツキが手に入れた能力だ。

「ここでやられてやる必要なんてない! トラック様をぶっ倒して、君はやっと異世界生活を始められるんだ!」


 トラック様とケイト、ボクとナツキ。両陣営が相対する。

 これが本当に最後の戦いだ。



 ボクの髪が青白く光り輝く。すでに髪は腰のあたりまで伸びていて、ナツキと最初に出会ったときと同じくらいの長さにまで達しようとしていた。

 これが何を意味するのかはわからないけど、ボクの願いの力は髪の長さに比例してより強くナツキに流れ込んでいくのがわかる。


 ナツキはすでにボクの目では追えないほどのスピードでケイトのバリアを削り取っていく。

「今度はこっちから行くぞ!」

 ケイトはバリアを細かく分け、雨のように降らせてきた。

 初めてのケイトからの『攻撃』だった。攻撃できないわけじゃなかったのか!?

 だけど、この程度の攻撃ではナツキは傷つかない。狙いはボクだ。


 ボクは慌てることもなく、ただ願う。ナツキの力を信じて。

 視界に残像しか映らない速度でナツキがボクの周りを飛び回る。

 ナツキの腕は棍棒に変化して、光の雨を薙ぎ払っていった。

 あの棍棒は森で特訓したときに手に入れた能力だ。


「お前、もう人間じゃねえな」

 ケイトがいった。

「お前、攻撃できること隠してたんだな」

 ナツキがいった。

「俺が転生したときに願ったのは『誰も傷つかない世界』だ。俺の願いに合わせて与えられた能力がこの無敵のバリアだ。攻撃できないんじゃねー。攻撃しなかっただけだ」

 ケイトもまた、他人のことを願ったのだ。

 ナツキは他人の幸せを。

 ケイトは他人が傷つかない世界を。

 似た願い。

 自分のためじゃなくて、他人のために寝返る優しさがこの二人にはある。

 それが異世界人の中でもこの二人の能力を特別なものにしているのかもしれないと思った。



「守るための力で攻撃するってのは俺のやり方には合わねーんだけどな。俺は世界を守りたい。誰も傷つかない世界を作るためにはお前らには消えてもらうしか、ない!」

「俺たちだって、消えてくださいって言われて、はいそうですか、なんていくもんか!」


「じゃあ俺が、お前を殺してやる!」

 ケイトは光のバリアを足場に高く舞い上がった。

 ナツキの攻撃はあの高さには届かない。


 ケイトはすべてのバリアを一点に集中させる。

 バリアは重なり合い、輝きを増していく。

 光のバリアは捻じ曲げられ、光の玉に練り上げられていく。

「これが俺の全力だ。隕石に匹敵する一撃。この世界にこの攻撃を防ぐ手段はない。どんな魔法でも防げない。これがこの世界の最大値。この世界の核だ。これを超える力は存在してはいけないんだ」


「それを防いで、トラック様をぶっ飛ばして、ボクたちは先に進む! お願い! ナツキ!!」

「おおっ!」

 ナツキの腕が元の形に戻り、そして、交差させて守りの体制を取る。


「せめて痛みを感じるまもなく、消えてなくなれ!」

「ま、まて! 何も二人を消しされなくても!」

 ケイトにトラック様がいった。

「うるせー! 見てなかったのか!? 今の本の数分の間ですらも上がり続けているアイツラの力を! ここで止めねーと、取り返しがつかなくなっちまうぞ!」

「くそ。やむを得ないか……やってくれ」


 光の球が膨らみ、そしてボクたちの頭上に落ちてきた。













 膨らみ続けながら落ちてくる光の球。

 どこにも避ける場所はない。

 

 この攻撃を防いでしまえばボクたちはこの世界のいかなる力でも倒せないことになる。

 世界の脅威となってしまうだろう。

 だからなんだっていうんだ。

 ナツキはこの世界に来て、ずっと苦しい思いをして、転生者らしいハーレムもできなくて、美少女にも出会えないまま。

 それでここで終わりだって?

 そんなの絶対に許さない。

 

「ボクが! ナツキをこの世界で幸せにする! 約束したんだから!」

 光に包み込まれる。

 地面がえぐり取られ、ナツキの腕が光の中へと分解されていく。


 ボクの髪は足まで、さらに伸び続け、広がる。

 光は青から白へと輝きを増し、光の球と同化していく。

 世界が光に包まれた。









 視界のすべてが白く染まった。

 風も熱も痛みも感じなくなり、音も聞こえなくなった。

 願いの力で負けたなんて思いたくはないのだけど。


「ボクたち敗けちゃったのかな」


 ボクがそう呟いたとき後ろから声が聞こえた。


「そうだよ」


 振り向くとそこにはボクの姿。

 黒い髪を垂らしたボク。トラック様がいた。


「危ないところだった。なんとか君だけは止めることができた。君の願いは今の君の体には少々大きすぎたみたいだね。願いの力に君の体がついてこれなかったようだ」

「ボクは死んじゃったってことね」

「そうだ。こうしてボクのまえに来てしまっているからね。ここがボクが最初からいる場所だ」

 ここがトラック様のいる場所。

 何もない。

 ただ白い世界だ。


「今ならボクのことを殴ることも出来るよ。ここは君の夢の中ではないし、それに君は……君たちは一瞬だけとは言え神にも匹敵する存在になっていたんだ。だけど君は死んだ。ボクの勝ちだよ、タルトちゃん」

「そっか。残念だけどしかたない、かな。やれることはやったし」

「君はもう死んでいる。もう何もすることはできない。だけど安心して良い。今後、ボクは転生者にちょっかいは出さない。約束するよ」

「嘘だね。ボクはあなたを信用してない。だから約束はもういらないよ」

 長くどこまでも伸びて、地面に垂れ広がる青い髪を引きずって、トラック様の元へと歩く。


「じゃあ『お願い』しようかな」

「願い? 君にはもう力は残ってないし、君は死んでいるんだってば」

「わかってるよ。ボクは死んだんでしょ。そして、あなたの前にやってきた」

「君が何を言っているのかわからないんだけど」


「ボクを転生させて」


「な、んだって」






「ボクは死んだんよね。だったらボクを異世界に転生させるのがあなたの役目のはずだ」

「ま、まってくれ。今回は下位世界から上位世界への転生だ。エネルギーはマイナスになる。異世界に転生しても能力は付与できないんだよ?それでも転生するのかい? それどころか、マイナス分のエネルギーをこの世界のどこかから回収しなくちゃいけないんだよ?」

「わかってるよ。だから、異世界人の能力の一部をボクがもらう。ボクが異世界に転生することでそのバランスが取れるんでしょ」

「そ、それは、理屈はそうだが……」

 トラック様の反応を見ればわかる。

 異世界転生はこちらの世界からあちらの世界へ行くこともできるんだ。


「皆能力を持て余している。金持ちも、王様も、最強も、無敵も、そして願望器も。ボクの世界には行き過ぎた能力だよ。そんな能力は要らない。みんな、もっと分相応な能力で十分だ。強すぎる能力なんて手に入れるから制約に苦しめられるんだ。だったら、もっとこの世界にふさわしい能力にすればいい」

「それが異世界転生だ」

「違うよ。それはあなたが押し付けただけの異世界転生だ」

「だが、強力な能力も与えられないのでは今以上につらい思いをするだけだろう。ボクは転生者の願いを叶え、この世界を生きていくのに必要な力を与えたんだよ」

「だから、それはあなたの押し付けなんだって。別にアイツラが能力が弱くて困ったって知らない。強すぎる能力でチートして楽しようって言っても、ボクの世界は異世界人をもてなすためにあるわけじゃないからね。だけど、そんなめちゃくちゃな能力なんてなくったって、この世界で彼らはきっと幸せになれる」


「だって、この世界は異世界人を不幸にするためにあるわけじゃない」

 力を感じる。

 また、私の髪が輝き出す。

 この世界でもまだ私の力は残っている。


「な、何をする気なんだ!?」

「ボクの最後の『願い』はすべての転生者の能力を無くしてしまうこと。そしてその力でボクは異世界へ転生するの!」

「そんな、なぜボクの躰までが転生させられようとしている? まさか、君は本当にボクと同じ存在になったというのか。まさか、ナツキくんの力をすでに奪っていたのか!?」

「ナツキ……ボクを守ろうとしてくれてありがとう。最後にボクにすべての力を託してくれたんだね」

「そんなことまでできたのか。だったら君は、自分の願いをどこまでも自分のために使うことができる……神をも超える存在だ……!」

「でもボクはみんなに幸せになって欲しいんだ。そのために不要な能力はもらっていくね」

「や、やめようタルトちゃん。こんなことしても誰も幸せになんてならないよ。彼らだって能力が失われてしまえば、きっとつらい思いをする。それにボクが世界のバランスを取らなければ世界はいずれ崩壊してしまうんだぞ! ボクまで連れて行くのはやめておくんだ!」

「あなたは、この世界の異世界人たちの幸せにとって不要だから」

「や、やめてくれ。もう邪魔しない。そうだ、タルトちゃんもしばらくここにいるといい。転生者を送る手伝いをしてくれよ。君が全て決めていい。君にはその資格がある!」


 ボクは首を振る。


「さあ、異世界転生を始めよっか!」






次で終わりです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 次で最後なんだよね?がんばれー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ