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5-12,一撃


 ダガーでいくら突こうが石壁には傷が少し付く程度だ。

「どうしよう。これじゃナツキの攻撃に合わせて祈りを送れない。ナツキがやられちゃうよ。ねえ、トラック様! どうにかして!」

「お、おいおい。それをボクにいうかね。現世への干渉はルール違反だしできないよ。できたとしてもやらない」

「だろうね! 言ってみただけだよ!」

 くそ。どうしよ。このままじゃナツキがやられてしまう。

 

「いや、ナツキなら」

 ボクは目を閉じて耳をすませる。

 かすかに聞こえる足音。

「お願い、ナツキ! 『この壁をぶち壊して!』」

 ボクが言い終わるのと同時にボクのすぐとなりで壁が轟音を立てて崩れ落ちた。

「大丈夫か、タルト」

 ナツキがどう動くか、なんだかわかってきた。

 ナツキなら絶対にここでボクのことを助けに来てくれるって思った。

 見えていなくても、ナツキの行動がわかる。


「ナツキ、もっと自由に動いていいよ」

「気づいてたのか」

「少し遠慮してたよね。でも、もう大丈夫。ナツキの動きに合わせて祈るんじゃなくて、ナツキの意思に合わせて祈ればいいんだ。ナツキと一緒にボクも戦う!」

「分かった。俺も全力で動くから、サポート頼む。次の攻撃で決めるつもりだ」

「ボクもそのつもりだよ」

 ナツキはきっと一足飛びでケイトのところまで飛ぶ。そして、左、右、左の順番で攻撃する。

 次は、その次は!

 頭じゃなくって感覚で。

 これまでたった数ヶ月だけど、命がけの戦場を共に駆け巡った。生死の境は何度さまよったかわからない。心が通じあってる、なんてそんなちんけな関係じゃない。そんな色濃いじみた言葉では言い表せない。

 戦友。

 ボクとナツキはすでに運命共同体だ。

 ナツキの行動をトレースする。

 ボクが目に頼らなくなってからはナツキの動きは見違えた。

 ナツキが思いっきり自由に動けているのがわかる。

 ボクも後頭部の痛みを忘れるほどにナツキの動きに集中する。手に取るようにナツキが次に取る行動がわかる。

 ケイトにはすでに余裕はなく、両手を忙しく動かしてナツキの動きに合わせてバリアを張りなおす。

 ナツキはバリアの薄い部分を砕きながら、ジリジリと距離を詰めていく。

 

 そして、ついに。

 ナツキの拳がケイトを捕らえた。

 

 ナツキの渾身の一撃がケイトの顎をとらえ、ケイトをのけぞらせた。


「まだまだあ!」

 ナツキはさらに追撃する。ここを逃せば、また多重のバリアの削り直しだ。

 いっきに勝負を決めたかったが、ボクとナツキが『二人揃って』焦ってしまった。

 大ぶりになった一撃を思いの外タフだったケイトは交わすと細く束ねたバリアでナツキ腹部に一撃を放ち、吹き飛ばした。

 ボクが受けた痛みではないのに、あまりにナツキにシンクロしていたせいか、自分のお腹をつい抑えてしまう。


「後少しだったのに!」

 ナツキは吹き飛ばされた後にすぐに起き上がる。戦意は全く衰えてないどころか最高に上がりきった状態のままだ。

「いけるぞ。あの能力の穴がやっとわかった」

「だね。連続攻撃だ」

「あとはケイトの反応を超える速度だな。攻撃される方向がわかっている時はあのバリアはまさに無敵だけど、あくまでバリアは面でしか出せない」

「だから、方向を変えつつ連続攻撃でバリアを割ればやつに近づける」

 とボクとナツキが興奮気味に話していると

「うーるせえ! 交互にしゃべんな気持ち悪い。卒業式かよ」

 ケイトが苛立ちながら割り込んできた。


「お前らのゆーとおりだ。便利な能力ではあるんだけどなー。バリアを曲げられないのが欠点なんだ」

「認めたね。いいの?」

「だって、もーバレてるし。俺もわかったよ。お前らは二人で一つの能力ということだな。そっちの男の行動に合わせてタルトちゃんが力を送ってるってわけだろ」

 バレてた。

「そりゃバレるよ。だって攻撃が強く、速くなるたびにタルちゃんの髪の毛がどんどん伸びて、光ってるんだもん」

 タルちゃんって。

「え? 髪が伸びてるって……」

 慌てて確認してみると胸のあたりまでボクの髪は伸びていた。

「いつの間に……」

 なにがボクのカラダに起きているんだろう。

 願いの力を使うたびに伸びてしまったんだろうか。

 それより、こんな伸びてたら美少女ってことがバレてしまう!!

「いや、もう隠さなくてもバレてるからな」

 そうだった。もうバレてたんだった。いや、随分前からバレてたんだった。

 ナツキの方もボクの考えのトレースがそれなりにできるようになっているのだろうか。

 恥ずかしい……。

 ボクはなぜか全員から注目されながら頭を隠していた手をおろした。


「どうするケイト。まだ続けるの? ボクたちは君の能力を破る術を見つけた」

「いーや。それはどーかな。なにか気づかないかな?」

 ケイトは久しぶりに余裕の顔を見せた。

「なにがだよ。強がってるのかい?」

 と言いつつ、ボクはケイトの様子を観察した。

 だけど特に変わったところはない。

「傷が、ない」

 ナツキがかすれた声で言った。

 傷。そうだ。さっき顎に一撃を入れてやったはずなのに、その傷がない!

 ナツキの一撃は矢も魔法も通さないバリアを一撃で砕くほどの一撃だ。そんな一撃をまともに受けてかすり傷もないなんて。

「そーゆーこと。バリアはとっぱできていないってこと。俺のバリアは自分の近くなるほど速く、強くバリアを出すことができる。さっきのはわざと殴らせてあげたんだよ。狙いやすかっただろ?」

「だけど、それだっていずれは破る。ボクたちはまだまだ強くなれるんだから」

「どーかな。そーなる前に俺はお前らを倒すよ」

 ケイトにはまだ余裕を感じられた。

 本当にできると思っているんだろう。


「ねえ、どうしてケイトはトラック様の言うことなんて聞いているの?」

 ボクはこの戦いの中でもどうしてもケイトが悪いやつだとは思えなかった。

「まだボクたちが世界を滅ぼすとかいうデタラメを信じているの?」

 ケイトは一呼吸考えてから、少しだけ語気を強めて答えた。

「信じている。いや、今は確信しているよ」

「どうして。ボクたちがそんなことをしてなんの得があるっていうんだよ」

「そーじゃないよ。俺だって最初は信じていなかったよ。だけど君たちの力は君たちが思っている以上にめちゃくちゃだよ。戦っている俺が一番良くわかる」

「どういう、こと?」

「一撃ごとに強まる打撃。ただ願うだけでナツキくんは異常な速度で成長しているよ。あのね、俺のバリアで弾き飛ばされたのに傷ひとつないナツキくんに、俺は正直心の底から恐れを感じているよ」

 それはナツキが回復薬を使えるから……いや、回復薬を自在に出せていることだけでも異常とも言えるけど。

 それでも、確かにナツキは異常な強さを身に着けたと言えるかもしれない。

 石壁を安安と打ち砕き、王の間を一瞬で破壊し尽くしたあのバリアの攻撃を受けても倒れることすらもなかったのだから。


「わかったか? 君たちの能力はこのままいけば誰求められないものとなる。さっきタルちゃんが言ったとおりだ。まだまだ成長する。いずれ、俺のバリアなんて薄いガラス板のようにしか感じなくなるだろうさ」

「だけど。それは君と戦っているからであって、敵がいなければボクたちはこの力をむやみに使ったりしないよ」

 ボクが言い終わる前にケイトが被せていった。

「本当にそー言えるのか?」



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