5-11,二回戦
「大丈夫か、タルト!」
「だ、大丈夫! 前を向いて。ボクの事はいいから!」
油断していたさっきとは違って気を失わずには済んだけど、後頭部はズキズキと痛む。
「あいつの防御は崩せないのか」
ナツキは構えたまま言った。
「いや、そんなことはなかったと思う。強い力で攻撃するっていうより、手数が重要なんじゃないかな。その証拠に余裕が消えたし」
「たしかにな。今後ろ向きなこと考えても仕方ないしな」
だけどボクは後ろ向きなことを考えてしまっていた。
あのバリアを突破するのには何か攻略法があるのかと思った。あまりに強すぎる能力だったから。
だけど、攻撃で打ち破れることがわかった。
だとしたら、あの能力は正面から打ち破るしかないのかもしれない。
できるのか、ボクたちに。
「タルト。お前が信じてくれないと、お前が願ってくれないと俺はたぶん負ける」
顔に出ていたのか。申し訳ない。
「そうだよね。ちょっと怖気づいちゃって」
「俺もだよ。超ビビってるよ」
「そうなの? なんか脳内麻薬でも出てるのかってくらいいつもよりテンション高そうだったから」
「いや、そうでもない。俺は見た目はぜんぜん傷つかないのはいつもどおりだけど、痛みだけは消えないのもいつも通りだ。めちゃくちゃ痛いし、正直もう逃げたいくらいには怖いよ」
そうだった。ナツキの能力は痛みは普通に感じるんだった。
ボクだけ痛いとか言ってられなかった。
「そうだよね、ごめん。さっきはボクの願いのタイミングがずれた隙を狙われちゃったんだ。ボクの目がナツキの動きにおいつかなくなっちゃって」
「最後の攻撃な。いきなり力抜けた感じになったけど、そういうことだったのか」
「次はもっとうまくやる。瞬きもせずに君の攻撃を見るから!」
「それは難しそうだけど、そうしてもらうしかないかな。じゃあ二回戦。やってみるか。さっきよりもっと早く、もっと強く殴る。俺は殴るだけで蹴りとか使わないようにするから、タルトは俺の腕の動きだけ注意してみてみてくれ」
「わかった。それならなんとかなるかも!」
そういってナツキは再びケイトに飛びかかっていった。
ナツキは分厚くなっている部分を避けながら、バリアを打ち破っていく。
ケイトがバリアを厚くしたらすぐさま移動して、薄い部分から攻撃していく。
少しずつだけど、確実にケイトに近づいていく。
「そーいうことか。お前の力はタルトちゃんからもらってるってわけだな。卑怯じゃん。二体一ってさ」
ケイトがボクの方を見ながら言った。
「それを言われると、男としてはもうわけない気持ちになるが、すでに国を上げてお前と戦ってるから今更だな!」
ナツキは攻撃の手を休めることなく返していたので、ボクはそこから目を離さないように、タイミングがずれないように必死で会話が頭に入らない。
「ひとってこえーわ」
あと数枚、あと二枚、あと、一枚!
ついにナツキのがむしゃらに打ち込んだ拳の速度がバリアの生成を追い越した。
「いけっ! ナツキ!」
ナツキの拳がケイトにふれる寸前に一瞬ナツキの拳の速度が落ちた。
ずっと目で追いかけていたのでそれはすぐに気づいた。
どうして!?
その隙を逃さず、ケイトは新たな光の板をだして、ナツキを横へと弾き飛ばした。
ナツキの体は回廊を突き破り、中庭の方に放り出された。
「ナツキ! いたッ!」
ボクが慌ててナツキのほうへと近づこうとして、見えない壁にぶつかった。
ケイトがこちらに向けて手をかざしており、光の壁をこちらに一枚展開している。
「タルトちゃんはそこで待機だ」
ボクとナツキを引き離す気だ。
ケイトはそのまま中庭へ移動した。
しまった。ここじゃナツキの姿が見えないからタイミングが合わせられない。
前は光の壁、横は石造りの回廊。後ろは後宮へとつながる一本道で中庭に出るには前に進むしかない。完全に閉じ込められてしまった。
外から声だけが聞こえる。
「三回戦開始だ」
ケイトの声とバリアを展開する音だけが聞こえた。