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5-10,願いのタイミング


 ボクが気を失ったのは数秒くらいだったと思うけど、ナツキに上半身を起こしてもらっていても全身が痺れてしまっていて動かせない。

 何が起きたんだ。

 寝てる場合じゃない、必死に体を起こす。

 ナツキの顔にようやく焦点が定まった。


「大丈夫か、タルト。今回復薬を出す。お前も力を貸してくれ」

 ナツキは腕をボクの体にかざす。

「うん……」

 願う。自分の体を治したい。早く立たないと。


 ナツキの腕から淡く光る液体がにじみ出てくる。ナツキはその液体をボクの全身に広げていった。

 痛みはあまり取れないけれど、ひとまず全身のしびれは治まった。この回復薬は外傷には強いけど内傷には効きがいまいちだ。

「ありがとナツキ。もう大丈夫だよ。それより、何が起きたの?」

「壁だよ。バリアみたいなやつ。あれが飛んできて、お前を弾き飛ばしたんだ」

 

 そうだったのか。ボクは何が起こったのかさえよく見えなかったのに。

「ナツキは大丈夫だったの?」

「俺はとっさに鎌でぶち破った。一枚くらいなら俺でもどうにか割れるみたいだ」

 でも、ボクはたぶん一枚も割れない。

 それに敵が反撃してくるたびにボクが気を失っていては戦いにならない。ボクが完全に足を引っ張ってしまっている。


 ケイトはやっぱり自分からは仕掛けない。

 自らの周りに光の壁を数枚展開したままこちらの様子をうかがっている。

「タルトは俺の後ろに下がってくれ。俺はとにかくあの光の壁を敗れるだけ破ってみる」

 ナツキが一歩前に出ながら言った。


 ボクが反応できないでいると、ナツキが不思議そうな顔で覗き込んできた。

「どうした? まだどこか痛むのか?」

 ナツキに言われて自分が口を半開きにしたままぼーっとしてしまっていたことに気づいた。

「ごめんごめん。でもなんだかおかしくて」

「なにがおかしいんだ?」

「だって、ついこの間までボクが君を守って前に立って君が後ろで震えていたのに、今は逆なんだもん」

 あの森でナツキと出会ったときのことを思い出してしまった。

「この間って何ヶ月前の話だよ。それに震えてねえし」

「泣いてたじゃないか」

「泣いてねえよ。つーか今そんな話してる場合かよ」

 たった数ヶ月でこんなに成長するなんて男の子はずるいな。


「そうだよー。あんまりよそ見ばっかりしてると大変なことになるよー」

 ケイトがいった。

「俺は人間を攻撃できないけど、攻撃に対して防御は行える。これが俺の能力『無敵の盾』だ。だからといって、こちらから何もできないわけじゃない」

 そういって、ケイトは光の壁を巨大化させて右方へ弾き飛ばす。

 光るバリアが回廊の壁を突き破った。石造りの壁が轟音を立てて、崩れ落ちる。あれが王宮を破壊した技。

「攻撃じゃなければいくらでもこの力は使えるんだよ。そっちから来ないならこの城を更地にしてしまってもいいんだけどね?」


 相手がモノであれば自由に破壊もできるってことか。

 なんだそれ、やっぱりめちゃくちゃな能力じゃないか。

 こっちの攻撃は効かないし、攻撃をすれば「反撃」と同時に攻撃をしてくる。

 まさに「無敵」の能力。

 「最強」よりもやっぱりたちが悪い。


 でも、本当に代償は「自分から攻撃できないこと」だけなんだろうか。

 確かに、自分から攻撃できないのは「代償」として大きすぎるとは思うけど。


「どうする。こっちから仕掛けたらまた反撃を食らうかもしれねえけど」

 ナツキはケイトに視線を合わせたまま言った。

「どうしよう。こちらからの攻撃は向こうの思うつぼだけど、家と言って放っておけばほんとに城どころか街も全部壊されてしまいそうだしね。あのガラスみたいなバリアは壊せるんだ。だったら連続攻撃はどうかな。ナツキ次第任せになるけど」

 ボクの力では残念ながらあのバリアが割れない。

「いいな。たしかにあのバリア、何枚出せるかはまだわからないもんな。バリアが出せなくなるまで攻撃し続けてみるのはアリだな!」

 ナツキは作戦に同意するけど、自分が何もできない作戦というのがとてももどかしい。

「大丈夫そうなの?」とせめて聞いてみる。


「ああ。タルトが近くに居て、そんで俺が攻撃したいときにタルトも同じように『願って』くれてるとものすごい力が使えるんだよ。力が体の中に直接注ぎ込まれてるみたいな感じなんだ。この鎌の攻撃も、これまでとは威力が桁違いだ。それに、反撃をうけたとしても、俺なら防ぐことができるし、タルトは願いの力でフォローしてくれ」

「う、うん? わ、わかった。何もできないけど、とにかくナツキが力をいっぱい使えるように願うから」

「いや、そうじゃなくてさ、なんていうか……変な言い方だけど、俺と心を一つにするというか、心を合わせるというか」

「え?」

 何を言い出すんだこの子は。戦闘中だよ?

「そういう意味じゃなくて! 俺が壁を突き破りたいと思ったときに、お前が同じように壁を突き破りたいと願ってくれたら俺の力は何倍にもなるみたいなんだよ」

 ななるほど、漠然と願うんじゃなくて、具体的に願え、ということね。あと願うタイミングも大切と。


 心をあわせる、か。

 その表現はこの状況にしっくりくるけど妙に照れくさいね。


「わかった。君の動きに合わせて願いのイメージを持ってみる」

「頼む。じゃあ第二ラウンド開始だ!」

 

 ナツキはケイトに向かって駆け出した。

――もっと速く!

 ナツキのスピードがどんどんと増していく。本当にボクの願う力がナツキの力に変わっていくかのように。

 ケイトの生み出した光のバリアが行く手を阻む。

――ぶち破れ!!

 ナツキの一振りでガラスのように砕け散る。すぐに二枚目、さらに三枚目、四枚目と光のバリアが生成されていく。

 ナツキは両腕の鎌を奮って、次々に割っていく。だけど、すぐにバリアが生み出されてくる。

――もっと速く、もっともっともっと!

 

 ナツキの動きはどんどんと速くなっていく。

 

「ちっ」

 ケイトの顔から笑みが消えた。

 片手から両手に変えて、バリアの生成に集中している。

 バリアの展開速度があがり、ナツキが圧されていく。


――もっと速く、もっと強く! もっと!

 

 ナツキのスピードがあがって行くに連れてだんだんとナツキの動きを目で追うことが難しくなってきて、一瞬ナツキの攻撃のタイミングとボクの願うタイミングがズレた気がした。その時、ナツキの攻撃がバリアを破壊できずに、防がれてしまう。

 ケイトはその隙を逃さず更に大量のバリアを生成して、ナツキを弾き飛ばした。

 ボクの目の前にナツキの背中が吹っ飛んできて、ボクもまとめて弾き飛ばされてしまう。


 願うことに集中していたせいで、完全に油断していた。

 もろに後頭部を打ち付け、今度は気を失うまでは行かなかったけど、思いっきり後頭部を地面に打ち付けてしまった。

 「うううううう」

 ボクは頭を抑えて廊下で丸まって動けなくなってしまった。


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