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5-6,欲望と願望


「終わったね」

 トラック様は感情のこもってない声で言った。

 

 残されたのはボクとナツキのみ。

 だけどナツキは今能力が使えない状態で王宮の跡地にいる。

 ケイトはどこにいるのかわからないし、ボクはこの部屋から出られない。


「どうするんだい? このままここに隠れているつもりかな。ちょっとわかりにくい場所だしね後宮ここ

「……ケイトはどこにいったの?」

 ボクは教えてくれるわけがないことはわかっていたけど言ってみた。

「教えてもいいけど……」とトラック様はボクの目を横目で見てくる。

 その代わりボクの場所も向こうに教えることになるだろうね。

 トラック様はこれでも一応カミサマみたいな存在だ。

 正確はひん曲がってるけどそれでも不条理なことばかりやるけれど、不公平なことはしない。と言うかできないんだと思う。

 トラック様がその気になればもっとケイトに有利に、それこそボクが考えたみたいに暗殺のような手段を取らせることだってできたはずだから。


「いいよ」

 ボクは決めた。最初からそのつもりだったんだし。

「いいっていうのは、彼に君の場所を教えるということでいいんだね?」

「うん。それでいい」

 そうだ。このままここに居ても何も変わらない。ケイトが王宮を探して回れば、ボクより先に能力の使えないナツキがケイトにみつかってやられてしまう可能性の方が高い。


「じゃ、映すよ」

 トラック様が再び映した画面にはケイトが映った。

 ケイトは王の間から中庭に移動して、座っていた。流石に疲れて休憩していたのかな。

 ケイトが「こちらを見た」。

「向こうにも君が見えるようにした。声も届くよ」と、トラック様は少しだけ愉快そうに言った。


 ケイトと目が合う。向こうはボクの姿は初めて見たのかな。ボクはずっと彼のことを見ていたのでなんだか少し気まずくなって目を逸らしてしまう。

「……ああ、なんだ。あんたか」と、ケイトは特に驚いた様子もなく言った。

 あんた、だって。ずいぶん馴れ馴れしいな。ボクは君とは初対面なんだけど。まあこれからやり合う相手なのだから礼儀なんて求めてはいないけどさ。

「何の用だよ。もうすぐ言われた通り獲物を捕まえられるよ。見てたんだろ」

 ケイトはやはり疲れているようで椅子に座ったまま下を向く。

 

 何の用って、君がいきなり乗り込んできたんじゃないか。

 でもこれ、もしかしなくても勘違いしているな。

「ねえ、トラック様。あなたもしかして、いつもその姿なの?」

「そうだよ。最近はずっとこの格好だね」

 こいつ!

 トラック様はボクと同じ顔、同じ声をしている。

 今までその姿でケイトと話をしていたなんて、ボクの姿を勝手に!

 今はトラック様は髪の色は黒く、長いけど、顔と声はおんなじだ。

 ケイトはそれでボクのことをトラック様だと思ったんだ。

 そりゃいきなりトラック様の使う映像が出てきて、トラック様と同じ顔がいたんだからそう思っても無理もない。そう思うに決まってる。

「あの、ケイト……さんでいいのかな。ボクはタルト。はじめまして」

 なんだろ、すごく間抜けな事しているのかなボクは。今頃自己紹介なんて。

 ケイトはゆっくり顔をあげる。

「何を言ってるんだよもう。疲れてんだから休ませてくれって」

 ケイトはまた下を向く。まるでボクに興味を示さない。

「つーか、また髪の色もどしたの? その青はやべーわーインパクトすげーわ。でもそれ、すげーかわいいんだよなー。でも髪は長かった時の方が好みかなー。今のショートもかわいいけどさー」

 ケイトはこちらも見ずに無気力に答える。

 ケイトはやっぱり勘違いしている。しかもなんか気まずい方向に勘違いが進んでる!


「あの! ケイトさん! ボクはタルト! トラック様じゃないよ!」

「もう。うるさいな。やるって。タルトってやつを見つければいいんだろ。んであんたのとこに連れていけば全部終わり。そうだろ?」

 だめだ。誤解が解けない。

 トラック様なんとかしてよ、とトラック様の方を見る。

 トラックさまは口を両手で抑えて、涙目になりながら、必死に笑いをこらえていた。


 ぶっころす!

 ダガーをトラック様の方に向けて投げつけた。

 一応柄の部分が当たるように投げたけど、その気遣いは不要だった。ダガーはトラック様のカラダをすり抜けて、壁に当たった。

 トラック様はとうとうこらえきれずに笑い出した。

 顔が熱くなる。今多分、隠しきれないくらい顔が赤くなってる。

 くっそう! ほんとにコイツはぜったいにいつか痛い目に遭わせてやる!


 トラック様はしばらく笑ったあと、笑いすぎて呼吸困難になって咳き込んで、息を整えてから、ようやく喋りだした。

「あーおっかしい。君の焦り様ったらなかったね! 胸がすっとしたよ。君のそのスカした顔を崩してやりたいってずっと思ってたんだ。今までで一番いい顔見せてもらったよ」

 最低だコイツは。性格ひん曲がってるどころじゃない、ぐるぐる渦巻きになるくらいに曲がってる。

「わかったわかった。ちゃんと紹介しよう。ケイト、こちらがタルトさんだよ。君が倒すべき相手だ」

 映像に黒髪ロングのボクの姿をしたトラック様が一緒に映ってみせた。


「は? どういうこと?」

 やっとケイトがこちらに興味を持ってくれた。

 ケイトとまた目が合う。こんどはケイトはボクを注意深く、鋭い目つきで品定めをするように見る。ケイトはやっぱりこれまでの異世界人とどこか雰囲気が似てて、黒髪で目が隠れるくらいの長い前髪。どこか無気力な瞳。でもなぜかその瞳からは敵意を感じない。

「は、はじめまして。ボクがタルト……だ、よ」

 ボクはもう一度自己紹介した。


「はああ? なんだよそれ。マジで言ってる? その青いショートカットの女の子が今回の獲物だったの? え? カミサマはずっと獲物と同じかっこしてたってこと? うわーないわー。悪趣味だわー。てっきり俺好みの女の子の姿で断りづらい雰囲気出してんのかと思ってたわー」と、ケイトは髪をかきあげながらオーバーに椅子の背もたれに体を反らせた。

 ボクもそれは同感だ。悪趣味にも程がある。

「ていうかさー、いくらカミサマのお願いって言っても、俺そんな女の子相手に戦うの気がひけるんですけどー。絶対にやらなきゃだめですかねー?」

 ケイトの喋り方はのんびりしている。疲れているせいなのかな。

 どうにも空気が緩んで仕方ない。

 だけど、一つだけ訂正しておかないと。


「あの、ボクは男なんだけど」

「なーにいってんの。どっからどう見ても女の子じゃん」

 即答で否定された。なんで!? これまでずっとごまかしてこれたのに。今までルイにバレたのは胸を触られたときだけだったのに!

「ボクっ子美少女をいたぶるとかできませーん」とケイトは冗談なのか本気なのかわからないことを言う。

「いや、だから男なんだって」

「はははは。別にそれでもいいけさー。じゃ、証拠出して、証拠。胸見せてよ。男なら見せられるっしょ」

「はぁぁぁぁっ!? なんでそんなモノ見せなきゃいけないんだよ! へ、変態!」

「あーもうやっぱ女の子じゃん。うっわサイアク。この世界を滅ぼす能力者なんていうから俺はてっきりキモいおっさんが転生してきたいけ好かないヤローだと思ってたのに」

 なんなのコイツ。本当にこいつがさっきまで画面の中で無敵の力を振り回していたアイツなの?

 いやまて。いまなんて言った? 「世界を滅ぼす能力者」だって?


「トラック様、どういうこと? ボクが世界を滅ぼす能力者って、そんなこと言ったの?」

「だって事実だからね」

「そんな力持ってないよ。何めちゃくちゃ言ってるのさ!!」

「正確には君ではなく、君とナツキくんだ。ナツキくんの願望器リアライズの力はハッキリって危険すぎる。まだ君たちは使いこなせていないが、その気になれば世界を滅ぼすこともできる能力だ」

「そんなことするわけないじゃないか」

「ボクは異世界人を信用していない。それに君だってボクを信用していないだろう」

 何を言ってるんだトラック様は。ナツキとボクが世界を滅ぼす? そんな事考えたこともないし、考えることもない。それにそんな事できるわけがない。


「そうかな。人間には魔力には限界がある。身体能力にも、知力にもだ。だが限界のないものが一つだけある。欲望だ。ナツキくんの能力はタルトちゃんの願い、すなわち欲望を際限なく叶えられる能力だ。今はまだそこまでの力はないが、いずれはタルトちゃんのあらゆる欲望を叶える本当の願望器となるだろうね」

「その能力を与えたのは他でもない、トラック様じゃないか。それにそんな能力、ナツキだって望んでないよ!」

「そんな事言われてもね……。ボクはナツキくんの願いを能力に変換しただけ。それしかできないし、それ以上のこともそれ以下の事もできないんだよ。なんとなくわかってただろう?」

 トラック様は悪びれもせず答えた。

 ボクはこの時心のなかで決心した。

 この存在だけは絶対に許しちゃいけない。


 





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