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5-4,王宮・大広間


 王都は距離感がつかめなくなるほど巨大な土埃に覆われていた。

 

「お願い、みんな、お願い……」


 気づいたことがあった。

 ボクが今いる建物は無事だった。

 あの隕石の衝突なら王都がまるごと消滅してもおかしくなかった。

 少なくとも元後宮のこの場所が無事だというのなら、王宮も無事な可能性は高い。

 だけど、王都の中は。王都の外の兵たちは。

 ボクのために戦ってくれている皆は無事なのか。


「トラック様。外の様子はどうなってるの? そろそろ見せてくれないかな」

「いいよ」


 トラック様は再び画面を出して外の様子を映し出した。


「あっ」と声が出た。王宮の建物が見える。直撃は防がれたんだ。

 その後、王都の様子が映し出される。

 建物が一部壊れていたりするものの、無事だ。


「ケイキが守ってくれたんだ」

「というか自分の身を守ったってところだと思うけどな」

 ナツキが答えてくれた。

 そうなんだろうけど、結果として街は守られた。


「その代償は大きかったみたいだね」

 トラック様が少し不機嫌そうに言った。

 

 画面ではようやく煙が風に流されて視界が晴れてきた。

 そこにはケイトが立っていた。

 シューマの姿は見えないけど死体も見えない。吹き飛ばされたのか。

 すこしホッとしたけれど、同時に背筋がゾッとした。

 あの隕石の直撃に耐えるなんて、どうやって倒せばいいんだ。


「ごほっ!」

 画面の中のケイトが咳き込んでいる。よく見るとケイトは額から血を流していた。

 他にも右腕が傷だらけになっていた。

「くそ、死ぬとこだった……」

 ケイトは自分で応急処置をしているようだった。

「あれが王宮かな。後少し……」

 そしてゆっくりと再び歩み始めた。その足取りは最初に比べかなり遅くなっていた。


「また動き始めたよ。ここに向かってる。王宮最後の砦の警備兵は無事なのかな。ルイやアルフォンすが心配だよ」

「うん……。ま、実はな。警備兵はもういないんだ」

「ええええ? どいうこと!? じゃあルイは? もう脱出できたの?」

 ナツキはもう答えてくれなかった。

 なにか隠してるなこいつ。


「ナツキ~? どういうことなんだよ。あんまり意味わかんないばかり言ってると無理矢理にでもここを出ていくよ。君はボクの「願い」がなければ力が使えないんだ。ボクと能力無しでやりあって勝てると思っているのかい?」

 これでナツキは怖気づくと思っていた。だけどナツキの口から出てきた言葉に

「思ってるよ。やってみるか?」

 ボクは驚かされた。

 ナツキが、あの村の前で村人に殴られてないていたあのナツキが、こんな自信たっぷりの一端の戦士みたいな目をするようになるなんて。

 

 でも、ちょっと調子に乗りすぎたね。

 そんな半年やそこらでボクのスピードについてこられるとは思えない。

 だってひょろひょろで、戦いのいろはも知らないナツキのことはよく知ってるしね。




「嘘でしょ……」

 ボクは天井を仰ぎ見ていた。

「まだやるか? 俺は何回でもいいぜ」

 ボクを見下ろすように立っているナツキ。

「君、いつの間にそんなに強くなってたんだよ」

「お前、俺がこの世界に来てどんだけ時間が立ったと思ってんだよ。ずっと鍛錬してたし、王宮に来てからはリントと一緒にクレアに稽古付けてもらってたからな」

 

 まさかここまで差がついていたなんて。

 自分が気が抜けていたことを思い知らされた。

 ナツキたちはずっと、それも厳しい鍛錬を続けてきていたんだ。

 ボクはどこかでこの国のことも他人事に感じていたのかもしれないな。

「わかった。降参だよ。君を倒してここを出るというのはひとまず諦めるよ」

 いまのところはね。



「王宮はここか」

 画面にでは王宮入り口にたどり着き、王宮を見上げるケイトの様子が写っていた。

 

「ついに来てしまったんだね。敵が、王宮ここまで」

 王宮の門にはいつも多くの警備兵がついているのだけど、今は無人だった。

 前を向くと、その中へ進んでいく。


 王宮を超えれば、あとはここ、元後宮だ。

 ということは残された戦力はもうボクとナツキしか残っていないってことか。

 覚悟を決めないといけない。

 

 これまでの戦い、こちらの戦力はほとんどがケイトに簡単にあしらわれてしまった用に見えた。

 だけど、気になることが三つある。


 一つは今のケイトの様子だ。

 あの隕石を受けた傷は治っている様子はないし、ケイトの歩みもずいぶん遅くなっている。

 彼にはおそらく治療スキルがない。


 二つ目はバリアの強度だ。

 本気を出せば隕石すらも防ぐバリアだけど、あれは複数枚のバリアを重ねることによって強化されている。一枚くらいならクレアやカイゼル将軍は砕くことができていた。

 多重に張り巡らされたバリアを突破することは不可能に近いけれど、一瞬で出せるバリアの枚数はそこまで多くはないようだ。


 三つ目は時間。

 アレだけの力を持ちながらもここにたどり着くまでにかなりの時間を要している。

 移動手段がないのか、もしかすると……。


 考えろ。

 まともに戦って勝てる相手じゃない。

 だけど、アレだけの能力にはかならずそれに見合う代償がある。

 それを見つければ勝機はあるはずなんだ。


 だけどまだ足りない。

 もう少し考える時間、あと少し相手の手の内を見ることができれば。

 

 ボクが考えを巡らせている間にもケイトはどんどんと王宮の奥へと進んでいく。

 あのルイと初めて出会った広間にたどり着いた。

 明かりもなく暗く、そしてだだっ広い広間。

 一番奥にはルイが座っていた玉座が置いてある。


「え……、誰か座ってる」

 玉座には人が座っている。暗くて見えないけど、体格が小さい。

 玉座に座っていた人物が口を開いた。


「そこまでだ。侵入者よ」と幼い声が響いた。

「余はトワイローザ王国現国王ルイである。控えろ」


「ルイ!? 逃げたんじゃなかったの!? 守りも付けずに、どうして!」

 ボクは画面に映る王様モードのルイを見ながらナツキに駆け寄る。

「正直に言えば、ここに来るまでに倒しておきたかった。だけどルイはこうなることも予想していたんだ」

 ナツキもさすがにルイがケイトの前に立っている状況に緊張を隠せない。

「ちょっと、それはありえないでしょうが。ルイが殺されたら終わりなんだよ!?」

「ルイの命令には誰も逆らえないからな。ルイがさ、自分は名ばかりの国王でただ国王になっただけだけど、国王が先に逃げ出すのはありえないって言って聞かなかったんだ」

「そんなバカな! どう考えても釣り合わないよ!」

「俺もそう思うよ。だが俺はルイも大切に思っている。だが! 俺にとってはお前を守ることが最優先なんだ。俺にとってはお前が一番大切だ。そして、それはルイも同じだ」

 それはうれしいよナツキ、でも納得がいかない。できない。

 国王とただの平民とじゃなにをどうひっくり返しても釣り合わない。

 ボクなんかを後ろにおいて国王が前に出るなんてありえないでしょう!

 

 これだから異世界人は……!!

 ほんとにめちゃくちゃだ!


 ケイトはルイの前で立ち止まる。

「あんたが国王か。聞いては居たけどやっぱりずいぶん小さいんだな」

「控えろといったはずだ」

「あんた、今の状況、わかっていってるのか?」


「控えろ!」


 ルイがこれまでに聞いたことがない迫力で、静かに、でも強く言った。

 ケイトの足がガクンと力がぬけたようになって方膝をつく。つくというかつかされたといった感じだった。

「な、なんだ。魔法か、いや魔法なら俺の盾が防ぐはず。何だこの力は」


「ここをどこだと思っている。余の国、余の城だぞ。余は王である。王の命令に従うのは当然だ」

 ルイは玉座から立ち上がる。

「さあ、余の前に跪け」

 ケイトのもう片方の膝も崩れ落ち、両膝をつかされた形になった。


「お前、能力者か。だけど、聞いてたのとはずいぶん違うな。確かただ王様になっただけだって聞いていたのに」

 やっぱりトラック様はこちらの能力をケイトに教えていた。

 トラック様をにらみつける。

「なんだよ。ボクはナツキくんの能力は教えていないとは言ったけど、他のメンバーまで教えていないとはいってないだろ?」

 こういうやつなんだ。

 でも今トラック様と言い合いをしている暇はない。

 ボクは画面から目を離せなかった。


「王の勅令インペリアル・オーダー。この国で余に命令に逆らうことなどできない。タルトさんは余の大切な人だ。お前には渡さない。ひれ伏せ。」


「あぐっ!」

 ケイトはさらに上半身も床に叩きつけられ、這いつくばるような形になった。


「え、ルイってばいつの間にこんな能力を手に入れていたの?

 もしかして、これならいけるかもしれない。












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