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5-3,王宮へ続く坂道



「どうするんだい? このままここでケイトが来るのを待つのかな?」


 現場の様子を写していた画面を消してトラック様が言った。


「ナツキ、この後の防衛はどうなってるの?」


「あとは王国最強の近衛騎士団が残っているよ」


「でも、カイゼル将軍も、クレアもいないんじゃ誰が指揮を執るの? バラバラに戦っても勝ち目はないよ」


「大丈夫。近衛騎士団の指揮はルイ陛下が直接取る」


「ルイが!?」


 そりゃあ王国の近衛騎士団なのだから国王が指揮を執ってもおかしくはないけどルイはまだ子どもなのに。



「おや。なにか動きがあったみたいだね」


 トラック様が再び現場の様子を映し出した。

 ケイトはまだ街中を歩いており、王宮の入り口へ向かっている途中だったが、そこへまた一人道を塞ぐものが現れた。


「お前に恨みはないがタルトには借りがある。ここで引き換えしてもらう」


 ケイトの前に立ち塞がったのは黒い長い髪。黒い鎧をきた異世界人。シューマだった。



「これはおどろいたな。トライアンフが寝返るとは。あの後消息をくらませてたからどこに行ったのかと思ってたらこの国に潜伏していたのか。意外と国防意識が低いねトワイローザ王国は」


 トラック様の嫌味は無視するとしても、どうしてここに。ボクに借りがある? どういうこと。


「ナツキ! シューマも君たちが呼んだの!?」


「い、いや。少なくとも俺は知らないよ。つか、あいつは国際指名手配食らってるはずだから見つかったら即牢獄いきのはずだ」


 なのにどうして。なんでボクなんかのために。

 

「そんなお尋ね者で人前に出てくることも危険なのに、わざわざケイトの前に出てくるとは。ほんと、ずいぶんと人気者だね、タルトちゃん」


「うるさいっ!」


 トラック様の相手をする余裕はもうボクにはない。

 シューマだって? アルムス王国の将軍で、ボクたちが数ヶ月も戦った相手で、そして最後はたったひとりで数千の軍を相手に戦い、そして勝利し、姿を消した。

 シューマのことはずっと心の奥で気にしていた。どうにかできたんじゃないかとか。他になにか助ける方法はなかったんじゃないかとか。でもあのときは王国を守るためにボクは全力を尽くすしかなかった。それがシューマを追い詰めてしまうことがわかっていながらも。

 

 生きていたんだ。よかった。


 あのシューマならもしかすると勝てるかもしれない。


 だってシューマの能力は「勝つ」能力だから。負けたくても負けららない呪いの能力。

 でも以前トラック様が言っていたことが引っかかった。トラック様は「トライアンフは効かないよ」って言っていたから。





「…………なあ、タルトってやつは一体どんなやつなんだ?」


 ケイトからシューマに話しかけた。これまで会話らしい会話をしていなかったから少し驚いた。それはシューマも同じだったようだったけど、少し考えてからシューマは語りだした。


「そうだな。俺はもともとアイツの敵だったんだ。で、アイツとアイツの仲間に完膚なきまでにやられた。そんときもアイツは俺の心配をしてくれていた。俺が呪われた能力に心が飲まれてしまっていたときにその心に寄り添って、声をかけてくれたのがタルトだったんだ」


「そうだったんだな。……うーん。なんていうかそのタルト? っていうやつは俺が抱いていたイメージとはぜんぜん違うな。世界を滅ぼす存在って言うからてっきりもっと理不尽な性格のやつかと思っていたんだけどな」


「あ、理不尽ってのは合ってるかもしれないな。俺はアイツとナイフ投げの勝負したんだけど、ナイフが絶対届かないところに的を置いてきたんだよな。信じられるか? 百メートルくらいさきの木の上にりんごをおいて当てろっていうんだぜ。そもそもナイフがとどかねえっつーの」


「なんだよそれ。はは。おかしなやつだな。そいつも……お前も」


 い、いやあれは、シューマが絶対勝利の力を持っているっていうの知らなかったし。

 てか、根に持ってたのか、あれ。


「なんか意味解んなくなってきたよ。俺は女神にそのタルトっていうやつがいずれ世界を滅ぼす存在になるって言われて、それを止めるために、世界を救うためにここに来た。だけどさ、ここで戦う奴らは皆が皆「タルトさまのためにー!」って叫んで突っ込んでくるんだ。まいったよほんと。まるで俺のほうが悪役みたいな気分になったよ。まじでどんだけ人気なんだよそのタルト様は」


「わかるよ、なんとなく。おれも転生してきた人間だから、自分が主人公の物語なんだと思ってた。今もそう思うし、もっと言えばだれだって自分の物語の主人公だもんな。そんで特別な能力を手に入れて、自分が世界を変える、とか世界を救うとかそういうことを俺も考えたよ。だけどアイツの前に立つと俺もなんていうか今の自分が間違ってるんじゃないかって気になったよ。このままでいいのかなとかさ。まあ、引き返せる段階は等に過ぎていたし、結局はボコボコに負けちまったんだけどな。でも感謝しているんだタルトには。俺を呪いの力から救ってくれたからな」


「なるほどね。ま、正直良くわからないけど色々あったってことなんだな。それで、どうして今あんたは俺の前に立つことにしたんだ? 俺が何者なのか知らないってわけでもないんだろ」


「俺はタルトのことが好きなんだよ。好きなやつのために戦う。シンプルだろ?」


 いたずら層に笑うシューマに、ケイトも同じように笑って返す。


「確かに。それはわかりやすいな!」


 シューマの爆弾発言に顔が火傷しそうなくらい熱くなるのを感じた。あんなイケメンにそんな事言われてときめかない女子がこの世にいるのだろうか。

 だけど今ボクは男の子のはずだしシューマにはそれはバレていないはず。

 ってことはシューマってば、そういう好みってことなのね。


「じゃあ、やるか」


「おう」


 二人は構える。

 シューマはすごくかっこよかった。

 だけど、シューマは基本的には攻撃手段は通常の人間のそれと同じだからケイトの光の壁は一枚だって割ることはできなかった。

 だけどシューマは「絶対に負けないはずだ」。

 絶対に勝つ「最強の矛」と絶対に攻撃を受けない「最強の盾」の戦い。

 

 ケイトの前に生成される盾が分厚くなる。これを弾き飛ばして当てることで皆がやられてきた。

 シューマにそれを防ぐ能力はないはずだけど。


「俺は最強の盾をもつ。能力名はなんかかっこいいのがあったけど覚えてない。俺はただバリアって呼んでる。わかりやすくていいだろ?」


「ああ、めっちゃわかりやすいな。俺の能力は絶対に勝つ力だ。じゃんけんだろうが、喧嘩だろうが、戦争だろうが、一対千だろうが、最後に勝つ力だ。だからこの戦いも俺が勝つことになる」


「すっげえな。じゃあいくぞ!」


 盾がシューマをおそうとした時。空が白く光りだした。


「な、なんだ? お前まさか! あれって隕石かよ! そんなのありか!? これがお前の力なのか?」


「お、おう。俺もビビってる。たぶん俺の│絶対勝利のトライアンフがお前を倒すにはこれほどのちからが必要ってなったんだろうな。さすがにこんなのは俺も初めてだ」


「くっそ、攻撃している暇がねえ。隕石ってあれだろ。たぶんこの世界の魔法とかとは比べ物にならない出力だよな。爆弾何発分だ? もっと物理の勉強とかしときゃよかった。いや、地学か? くそ、何枚の盾だったら防げるってんだこれ」


 空を割くように近づいてくる輝く隕石はまっすぐにケイトの方へと流れてきている。


「つーかこれ、お前も危ないんじゃねえのか」


「たぶんな。というか……この王都ごと消し飛ぶんじゃねえのかこれ」


「お前の能力使えねえな!! いいから俺の後ろに下がってろ。俺は無敵だ。隕石も止めて見せる。できりゃついでにこの街も守りたいところなんだがそこまでは自信がねえぞ」


 おかしな展開になってきた。

 シューマの力によって災害が引き起こされるのはボクも何度も見てきたけどさすがにこの規模の隕石はまずい。たぶんあれを止められるのはケイトしかいない。


 ケイトはこれまでで最も大きく、熱く、都市を覆うように多重の「バリア」をはる。

 

「まだまだ!!」


 何枚も何枚も、次々とケイトのカラダからバリアが放出されていく。

 その一枚一枚が強力な防御力を誇るのはこれまでも見てきた。

 だけど今回の相手は魔法でも剣撃でもなく規格外の隕石だ。

 

 そして熱と衝撃によって白く白く光が放たれ、画面が消えてしまった。

 そして凄まじいい地響きで建物全体がシェイカーで振られているかのように揺れ動く。

 ここまで大きな揺れも、衝撃音も聞いたことがない。

 空が白く染まり、建物全体が揺れ続ける。

 立っていられない。


「トラック様! ちゃんと映してよ!」


「い、いや、ボクも消したつもりはないんだが凄まじいエネルギーのぶつかり合いで強烈なノイズが発生していてモニタできないんだ! どちらにしろケイトが防ぎきれなければこの都市ごと蒸発してしまうんだ。今はとにかく自分達の身を守っておきたまえ!」


 建物が揺れと衝撃に耐えられず、天井や壁が崩壊しだした。

 そこから強烈な爆風、さらには熱が漏れてくる。

 ボクにナツキが覆いかぶさってきた。


「俺の躰なら少々傷ついてもすぐに再生できる。今は俺の下で小さくなっててくれタルト!」


 守られてばかりで気が狂いそうになる。

 でも今この大惨事の中でナツキと言い合いしている暇はないし、ナツキに頼るしかない。


 ――お願い! 皆無事でいて!!


 ボクは目を閉じて願うことしかできなかった。




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