表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/80

5-2,王都城内・南区画



 ケイトは王都内へと侵入した。ゆっくり、歩いて。散歩でもするかのように。

 すでに王都の警備隊は壊滅。指揮を行っていたカイゼル将軍の安否も不明な状態。

 王都内の市民はすでに退避を行っているので無人の大通りを悠々と侵入者は歩いていく。


「ここまでだね。そこを通してナツキ」


「ダメだって言ってるだろ」


「もうボクが行くしかないじゃないか」


「そんなことはねえよ。お前、いつからそんなに自信過剰になったんだ」


 初めてだった。ボクは言葉に詰まってしまった。

 ナツキがボクにここまで積極的に反論したのは。

 いつも、なんだかんだいってボクの言うことを聞いてくれたナツキが今は別人のように見える。


「少しくらい仲間のことも信用してくれ」


 ナツキの決意はわかったけどだけどこのままだと王宮までめちゃくちゃになってしまう。


「ほら、よそ見してる暇はないよ。タルトちゃ……タルトくん」


「ねえ、それわざとやってるの?」


 トラック様はボクを無視したまま外の様子が映し出された画面を見ていた。


 いつも大勢の人で賑わっていたはずの大通りには今ケイトが一人歩いているだけだ。

 その前方に二人の人影が現れた。





「あんたと一緒に戦うっていうのは俺的にかなり意外だったっすね」


「そうですね。私もです」


 クレアとリントの二人だった。クレアは剣を。リントはなぜか札束を両手に持っている。あの能力を使うことは禁止していたんだけどな。流石にこの緊急時に文句を言う気にはなれないけどね。


「トライローザ王国王宮親衛隊隊長クレア=エクレシア。ここは通しません」


「同じく親衛隊応援団長イマガワリント。タルトっちに手は出させねえっすよ!」


 王都正門内南区角にてケイトに戦闘を挑んだ。





 クレアはいつの間にか魔法を使いながら戦う技を身に着けていた。ボクが知らないところで相当な鍛錬を積んだんだと思う。プリムたちに魔法適正があることを教わってからまだひと月程度なのに、クレアは驚くほど自在に風の魔法を使いこなし、剣技を操った。

 リントはクレアの動きをサポートすべく大量の紙幣を生み出し、視界を遮りつつ、敵の攻撃は自身の体を金塊に変えることで防いでいた。

 

「クレア! リント!」


 声が届かないことはわかっていても出てしまう。

 すごい。

 二人は初めてとは思えない連携を取って、敵の光の壁による攻撃を交わしながら、剣撃を行う。だけどそれもすべて、二枚目、三枚目の光の壁に遮られてしまう。


 まさに無敵。

 強力な攻撃だと壁を砕くことはできるものの、壁の強度が高い上に幾重にも重なっているせいで攻撃が届かない。


 だけど、少しずつ敵の攻撃の穴も見えてきた。


 敵の攻撃は光の壁による吹き飛ばしがメインであること。刃物は爆発物などとは違うのでよほど当たりどころが悪くない限りは即死攻撃にはならない。

 それを相手が手を抜いているだけの可能性も捨てきれないけれど。


 よく見ていると壁の大きさにはある程度の限界があることにも気づいた。

 だって、無限に壁を広げられるのだったら避けることもできない大きさの壁で攻撃すればいい。

 だけど、クレアがその身体能力を使って、大きく左右に動くことで壁の攻撃を避けることもできていた。視界にかなり左右されているようで、クレアの速度ならケイトの視界の外まで一気に移動することもできる。攻撃時に使われる壁は一枚なので当たる前にクレアの剣なら壁を割ってしまうことも可能だ。

 

 クレアも動き続けることはできないので停止するときはリントの裏に隠れる。

 リントは自身が動けなくなるもののカラダを金塊に変えている間は相当な重量になるようで光の壁による攻撃でもびくともしなかった。

 ただの金の塊ではなくあれもまた特別な重さを持った金なんだと思う。


 

「すごいよふたりとも。いくら相手が攻撃を受け付けなくても、あれならこちらも相手の攻撃を交わし続けられてる!」


「……そうかな」


 ナツキが険しい顔付きで言った。

 よく見てみる。

 クレアはすでに体力の限界が近そうに肩で激しく息をしていた。

 リントは石膏像のように動かないのでよくわからないけど、いつまでも金塊化してられるかはわからない。

 それに比べケイトの方は休みなく新しい光の壁を作り続けている。

 互角とまでは行けていないのかもしれない。

 

「このままだとクレアの体力が先に尽きるかもしれない……」


 ナツキの言う通りだと思う。だったら!


「そんな……じゃあいったん引き下がろう。ボクとナツキも一緒に戦えば倒せるかもしれないよ!」


「いや、ここから王都の南区画まで今から行っても間に合わない。それに敵の能力はまだわからないことが多い。お前を活かせる訳にはいかない」


「じゃあせめてナツキが助けに……ってわけにもいかないか」


「俺の力はお前が近くにいて初めて発揮できるからな。俺はお前を守る最後の盾になる。そういう約束になっているんだ」


「勝手なことばっかり言って!」


「あっ!」


 ナツキが声を上げた時、画面から強い光が放たれた。


 ボクが見たときにはリントとクレアは壁にめり込んだ状態で気を失っていた。


「な、何があったの!?」


「光の壁だ。あいつ、まだ全力じゃなかったんだ。壁というか、自分を包むような光の泡みたいなのをつくってそれを急速に膨らませた。しかも同時に何枚も。クレアも避けきれなかったしリントは金になれる時間切れだったみたいだ」

 

 そんな、二人は無事なの?


 ケイトは壁に大きく開いた穴の中で気を失っている二人を一瞥した後、またゆっくりと王宮へ向けて歩くのを再開した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ