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5-1,王都正門・城門前

登場人物

・タルト…主人公。青髪青目の見た目は男の子っぽいけど美少女。

・ナツキ…タルトが最初に出会った異世界人の少年。タルトの願いを叶える能力をもつ。

・リント…二番目に出会った異世界人の少年。お札を無限に生み出す能力をもつ。体を金塊に変えることもできる。

・ルイ…三番目に出会った異世界人の男の子。国王。王であることが能力。

・クレア…王国親衛隊長を務める美少女。剣の腕は王国随一。

・アルフォンス…王国の大臣。優秀でルイのサポートを行い実質の国政の運営者。

・カイゼル…王国の将軍。王国で最強の戦士。指揮よりも戦闘が得意。

・トラック様…異世界人をこの世界に送り込んだ。見た目は自由に変えられ、黒い髪と瞳のタルトの姿をして現れる。


 矛盾っていう言葉があるけれど、これって昔どこかの国であった出来事が元になった言葉なんだって。


 最強の矛と無敵の盾。


 戦ったらどっちが強いのか。

 この話の結末をボクは知らない。

 


 最強との戦いを終えたあの日から一ヶ月。

 フィオール王国とトワイローザ王国との友好条約の締結も無事結ばれ、


 ――もしかしてトラック様はボクの排除を諦めた?


 いや、あの性格からしてそんな訳はない事はわかっていた。だけどあまりに平穏な日々が続いて緊張した状態に慣れてしまった頃、よく晴れた風の季節の終わり、王都に異世界人が現れた。


「城壁の外に展開した防衛隊は謎の力で壊滅しました。剣や弓はおろか魔法も通用しないようです」


 憲兵からの報告を広間で受けるボクたち。

 

「いよいよ来たみたいですね。他の兵による報告ではタルトさんの名前を口にしたと言うことです。やはり狙いはタルトさんのようです」


 ルイが落ち着いた様子で皆に言った。

 最後の戦いが始まった。



 ボクは王宮の更に奥。元は後宮として使われていた建物の奥に閉じ込められていた。

 

「ナツキ! ここから出して! ボクも戦うよ!」


 扉を叩きながら扉の向こうにいるのナツキに叫ぶ。


「ダメだ。お前は今回の戦いには参加させない。これは皆で話し合って決めたことなんだ」


 ナツキは扉のすぐ前にいるようだった。

 元後宮という特性のせいか部屋のすべてに鉄格子がついている上に壁も扉も頑丈な造りで中からは逃げられないようになっていたけど、ボクが借りている部屋ほどではないけれど家具や装飾は一級品で揃えられていた。

 ボクは扉と叩き続けながら叫んだ。


「おかしいだろ! ボクを狙って来てるんだからボクが行くべきだ。負けたってボク一人の命で済むんだよ? どうして皆が戦う必要があるんだよ!」


「お前が狙われているからダメなんだよ。わかってくれよ。皆お前のことを守りたいってそう言ってるんだよ」


「皆の気持ちは嬉しいよ。でも、だけど、ボクが戦わないのに皆だけ戦わせる訳にはいかないよ! お願いナツキ、ここから出して!」


「すまん。それだけはできない」


 いくらお願いしてもダメだった。扉を壊そうとしてもボクの力ではびくともしない。

 ボクはベッドに腰掛けて、また立ち上がる。

 今も王都の何処かで誰かがボクのために戦っているのかと思うと落ち着いていられない。

 

「まあ、少し落ち着きなよ」


 扉とは反対の方向から声がした。

 顔をあげると、白い布をまとった美少女が部屋の中にいた。

 ボクと同じ顔、だけど髪と瞳の色は黒。

 トラック様だ。


「こんなやり方……! 卑怯だよっ!」


 ボクはトラック様を睨みつけた。


「おいおい、君を閉じ込めたのはボクじゃないだろう。それはさすがに言いがかりがすぎるというものだよ。ボクとしてはさっさと君と彼が戦ってくれたほうが嬉しいんだけどね」


 今度はナツキが扉をたたきながら声をかけてきた。


「タルト? 誰かいるのか?」


 そこで気づいた。いつもなら周りが灰色の世界になって時間が止まっているはずなのに、今回は白い光もなければ世界の色も失われていなかった。

 ナツキにもボクやトラック様の声が聞こえているのか。


「トラック様が出たんだよ!」


「人をお化けかなにかみたいに言わないでくれよ」


「あなたはヒトじゃないでしょ!」


 ボクの声で言い合いをしているとナツキからは頭がおかしくなったように思われてしまうんじゃないだろうか。見た目を変えられるなら声も変えてくれたらいいのに。


「本当にお前とそっくりな見た目なんだな……なんていうか双子みたいだな」


 ナツキが扉を開けて入ってきた。驚きと少しの恐怖を顔に浮かべながらいつも通り空気を読めてない発言をしながら。

 トラック様は緩やかな笑みを浮かべたまま。


「久しぶりだねナツキくん。と言っても君はボクのことはおぼえていないんだったね。ボクがそうしたんだけどね。まあ、安心していいよナツキくん。ボクは君たちに危害は加えられないし、タルトちゃ……タルトくんが望んだからボクは顕現できている。だからタルトちゃ……タルトくんがその気になればいつでもボクを――」


 ボクは枕をトラック様に投げつけてみた。

 枕はトラック様をすり抜けた。

 やっぱりお化けみたいなもんじゃないか。


「消すこともできる。そして、見ての通り君たちもボクに危害は加えられないわけだ」


「ホログラムみたいなものか」


 ナツキは何故かトラック様の言うことを理解したみたいだけどボクにはその仕組すらもわからない。


「ボクはあなたを呼んだ覚えは無いんだけど」


 ボクはふてくされながら言った。


「そんなことはないよ。君が望まないとボクはここには来れないはずだからね。もちろん呼ばれたからってボクだって暇じゃないからいつでも来るわけじゃないんだけどね」


「じゃあ何しに来たの。知ってるでしょ。あなたが送り込んでくれた刺客のせいでボクたちが大変だってこと」


「もちろんわかってるよ。でも君もナツキくんもこんなところにいたら外で何が起きているかわからないだろ? だから外の様子を君たちにも見せてあげようと思ってさ!」






 王都の正門前。

 カイゼル将軍が率いる王都の守備部隊が陣を展開する先に、一人の少年が立っている。

 黒い髪。黒い瞳。異世界人特有の雰囲気。あれがトラック様の刺客だろうね。

 すでに部隊の大半がやられている。

 報告にあった通り兵士の攻撃は見えない光の壁のようなものに遮られ、


「彼の名前はケイキというんだ。能力は一言で言えば「無敵」だね。攻撃が効かないよ」


「なにそれ。いくら異世界人の能力がめちゃくちゃでもそんなテキトーなとってつけたような能力ありなの?」


「そうだね。彼はなんていうか、こういう異世界に転生することを常日頃から想像していたらしくて「無敵の能力を手に入れたい」って言ってきたんだよねぇ」


「とは言ってもなにか代償があるんでしょ。他の異世界人の能力がそうだったみたいに。そんな力が簡単に使えたらそれこそ世界がめちゃくちゃになるじゃないか」


「もちろんあるよ。あれだけの能力だからね。ボクの仕事は前にも言った通り世界のバランスを取ることだからこの世界のバランスを壊すようなことはしない」


「じゃあどんなものなの? 無敵の力の代償は」


「それはボクの口からは言えないよ。向こうだって君たちの力のことは知らないんだから」


 ケチめ。

 だけど、向こうもこちらの能力を知らないというのだという情報は貴重だ。

 そうなれば、先にお互いの能力の欠点を見つけたほうが勝つことになる、と思う。

 これまでのトラック様の話と実際にボクが見てきた異世界人のもつ能力にはバランスがある。

 大きな力には大きな代償や制限がつく。

 例えばナツキの能力は万能で強力だけどボクがそばにいなければ使えないしナツキが経験しなければ能力は拡張されない。それに比べてリントの能力は札束を生成するという限定的な能力の代わりに制限がほとんどない。他にも「絶対に勝つ」とか「最強」だとかいう言葉遊び的な能力にもきっちりとその代償があった。

 だから今回の「無敵」にも必ず「代償じゃくてん」があるはずなんだ。


「ほら、よそ見していると見逃すよ」


 トラック様の声ではっと顔を上げると兵士たちが一斉に異世界人ケイトに飛びかかるところだった。


「タルト様のために!」

「タルト様は絶対に渡さないぞ!」


 兵士たちの攻撃はやはり見えない壁に阻まれる。

 そして反撃。見えない壁で掃かれるように兵士たちが束で吹き飛ばされていく。

 

「み、皆逃げて!」


「そんな大きな声を出しても聞こえないよ。これ双方向通信じゃないからね。それにしてもタルトちゃ……タルトくんは人気者だね。兵士たちが皆君のために自発的に戦っているね」


「ボクが行けば皆が戦う必要なんて無いのに、ボクなんかのために無理やり戦わされるなんてひどいよ。ナツキ、ボクは行くよ。これ以上見てられない」


「ダメだ」


「なんで!」


「約束したからだ」


「誰と!!」


「全員だ」


 全員って、そんなわけないじゃないか。全員って言っても将軍や大臣の話でしょ。今戦っているのは兵士たちた。兵士たちはいつも命令されて戦っているだけだ。

 それだっていつもなら王国のために戦うのだから自分たちのためと言えなくもない。

 でも今回の戦いは違う。

 ボクのためだけに戦わされているんだ。そんなことに兵士たちを参加させる訳にはいかない。

 

「全員ってあの兵士一人ひとりに聞いたとでも言うのか君は!」


「そうだ」


「そうだ……ってそんなことできるわけ……」


「全員って言っただろ。今戦っている兵士は俺とリントとカイゼル将軍でこの戦いに参加する兵士を先に選定しておいたんだ。お前の言う通りこの戦いは国が強制するものじゃないからな。だから今戦っている兵士は全員自分たちの意思で戦っているんだ」


「いつの間にそんな事……」


 ナツキは少し笑って言った。


「お前を連れて行って聞く訳にはいかないからな」


「そんなこと言ったって、将軍や君たちが聞いたんじゃ皆が断れるわけないじゃないか」


 戦場では吹き飛ばされた兵士たちが次々に起き上がる。敵の攻撃は今のところは弾き飛ばすだけで殺傷能力が高いわけではなさそう。起き上がった兵士たちはまた戦う。だけど光る壁が攻撃を遮り、再び兵士たちは弾き飛ばされていき、そのうちだんだんと立ち上がれなくなる兵士が多くなっていった。


「もうやめて……もういいよ、なんでそんな必死に戦うんだ。ねえ、やめさせて」


「俺たちはこの戦いに参加する兵士を集めたわけじゃない。兵士の皆の方から戦いたいって言ってきたんだよ。




「タルト様は渡さない。あの方はこの国に必要なお方なんだ!」


 一人の兵士が叫んだ。

 あれは、いつもピカピカの鎧の衛兵さんだ。あの人も戦ってくれていたんだ。

 ケイトは困ったような顔をした。正直、意外だった。


「俺は女神に世界を救うように頼まれた。それを邪魔するというのなら――」


 ケイトは光の壁で衛兵さんを吹き飛ばそうとしたが、ガラスが割れるような音がして、光の壁が砕け散った。

 カイゼル将軍だった。

 カイゼル将軍の大太刀による攻撃で光の壁を破壊したんだ。

 あの光の壁は破壊できるんだ! さすがカイゼル将軍。

 将軍はこの国の最高戦力だ。出来れば将軍が戦う前に決着をつけたかったはずだ。でもそうはいかなかったんだ。カイゼル将軍が戦うところまで追い詰められたんだ。


「たった一人でここまでやるとは大したものだ。だが、ここまでだ」


 カイゼル将軍が大太刀を振りかぶる。

 ケイトは逃げるでも防ごうとするでもなく、カイゼル将軍の太刀が振り下ろされた。

 またガラスが割れるような音。


「やったか!?」


 ナツキが拳を握りながら言った。


 カイゼル将軍の攻撃は光の壁に防がれてしまっていた。

 あの光の壁、何枚も出せるんだ。

 

「俺は無敵なんだ。悪いな」


 ケイトの壁がひときわ強く輝き更に厚みを増した壁がカイゼル将軍とその他大勢を薙ぎ払った。

 もう起き上がってくる兵士はおらず、無人となった王都正門をケイトはそのまま歩いて王都の中へと侵入していった。

 





最終章です。

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