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4-9,不便な万能②



「全て一人でできるのなら仲間なんて必要ないってことだよ」


 自分で言っておいてなんて残酷なことだと思った。


「は、ははは! ははははははははは!! だから追放したのか。俺が強すぎるから。俺の能力が万能だから!」


 タツオの自虐的な笑いが虚しく響いた。


「だからって、追放はねえだろう。結局は用済みになったから捨てただけじゃねえか。パーティに誘ったのはコイツラの方だったんだぞ?」


「そうだったんだね……。それは、つらかったね……。…………でも、アコに手を出そうとしたっていうのはホントなの?」


「は!? そんなこと言ったのかアイツラ。手を出そうとしたって、人聞きが悪いな。長い間旅をして苦楽をともにしたんだ。恋愛関係に発展することだってあるだろうが」


「うわ、それはさすがにどうなのかな。相手はまだ一三歳だよ?」


 一瞬にしてこの場の全員――タツオの連れてきたごろつきまで――が引いたのがわかった。


「お、おいおいおい、ここは異世界だろうが! それに俺は一九歳だぞ? そんなドン引きされるほどの年の差でもないし、それに愛があれば問題ないだろうが!」


 ルビアが割って入った。


「嘘つけ。お前は見た目はそうかもしれねえけど、中身は三十九歳なんだろ? 自分で言ってたじゃねえか」


 ざわ…ざわ…とギャラリーがどよめきだつ。

 ナツキとリントもドン引きしているところを見るにあちらの世界でもこれはよろしくないことらしい。ちょっと安心した。


「外野がなんと言おうと関係ねえ! 俺とアコナは愛し合っていたんだ。文句あるか!」


「ある」


 アコがいつの間にかボクの隣に立っていた。

 ボクの服の袖を握って、細かく震えながら。


「アコナ! お前は俺のことがすきだっただろう? 俺が怪我した時、風引いた時も! いつも治療してくれたじゃねえか!」


「……だってわたしは治癒が役目だったから……」


 アコは震えながら、でもハッキリと答えた。


「う、嘘をつくなよアコナ! お前は、お前だけは、俺に毎日挨拶してくれたじゃないか?」


「……だって、あいさつはちゃんとしろってお母さんに言われてたから……」


 ボクはちょっと気になって小声でプリムに聞いた。


「ねえ、もしかして他のみんなはあいさつもしてなかったの?」


 だとしたら結構残酷というか、ほとんどいじめじゃないか?


「してたわよ! それにアイツが病気になった時はみんなで看病していたわ。たぶん、記憶が都合のいいように変換されてるんじゃないかしら」


 プリムは怒り気味の早口で返してきた。

 どっちが本当のことを言っているのか、ボクにはわからないけれど、タツオの認識と他のメンバーとの認識はずいぶんと食い違っているようだった。

 とにかく今は、アコとタツオの関係についてをはっきりさせておかないといけない。


「それに、アコナは俺に『前の世界では彼女はいなかったの?』と聞いたんだよ! なあ、これは決定的だろう!?」


 タツオがボクの方を向いて叫んだ。いきなりで驚いて一瞬『ひゅっ』と変な声がでたけど、取り繕って返した。


「な、なにがなのかな?」


「なにがって、これって俺のことが好きってことだろ?」


 ――どういう意味なのだろうか


 実はボクは恋愛経験というものがない。

 なので彼女がいるのかどうかを聞いたことが『好きだ』という意味になるかどうかということを知らない。

 ど、どうしよう。本当に何を言っているのかわからない。

 もしかすると、ナツキたちの世界ではそういう「決め事」のようなものがあるとか?

 ボクはナツキに聞いてみた。


「う、うーん。全然ないというわけじゃないんだけど、うーん。この場合は前後の流れとかそういうのがないとなんとも言えないんじゃないかな」


 そういうものなのか。


「いや、つーかたぶんこれ、勘違いっすよ」


 リントが寄ってきていった。


「勘違い?」


「そっすよ。アコちゃんはたぶん、興味本位で聞いただけじゃないっすかね。まあ、それもこれもアコちゃんに聞いちゃえば解決じゃないっすか?」


 そうだ。結局、こういうことは本人に聞くしか無い。

 アコはまだ一三歳なのでアコに発言の責任を持たせるというのは酷だと思うんだけど、一応アコの気持ちを聞いておかないと。


 アコはずっとボクの袖をつかんだまま震える子猫のように縮まっている。


「ね、アコ。ほんとのところはどうなのかな。タツオのことなんだけどさ……」


 アコはさらに力を込めてボクの袖を握りしめて、ようやく小さな口を開いた。


「……勘違いさせたなら謝る。わたしはタツオのことは好きではない」


「嘘だろ……。じゃあなんで彼女がいたのか聞いたんだ? それって普通は「気がある」ってサインじゃねえか」


 そうかなあ。そういうときもあるってだけでいつもそうとは限らないんじゃないかな。


「……タツオがあまりにもみんなにひどいことばかり言うから、元の世界ではどうだったのか聞こうと思っただけ。好きとかそんなつもりは一切、ない」


 言った。ハッキリ言った。

 タツオには気の毒だけども、これは完全にタツオの勘違いということでいいんじゃないだろうか。

 少なくとも今アコにその気がないのだから今更いくらタツオが言い寄ったところでもうだめだろうし、なによりアコは一三歳。清いお付き合いならまだしも、オイタをするにはまだ早いしこの国では違法行為だ。


 タツオはアコの拒絶を受けて、しばらく唇を震わせていた。


「ね、ねえ、タツオさん。アコはこう言っているからさ、ここはもう諦めたほうがいいんじゃないかな?」


「……わかったよ」


 わかってくれた。よかった!


「でもせめてパーティには戻らせてくれないか?」


 わかってくれてなかった!

 

「どうしてプリムたちのところにもどりたいの? 君はプリムたちよりも強いんだから他のパーティに入った方がいいというか、いっそ自分でパーティを立ち上げたほうがいいんじゃないかな」


「もうやったよ。パーティにも入れてもらったし、自分でも作った。だけど、誰も俺には付いてこれなかったんだ。俺についてこれたのはコイツラのパーティだけだったんだよ」


 どうしよう。これ以上はボクには相手できないぞ。プリムに助けを求める視線を送る。

 プリムは力強く頷くとボクの前にやってきて言った。


「あのねタツオ。あなたには仲間を思いやる気持ちが足りないのよ。私たちがあなたを追放した本当の理由はそこよ。もちろんアコに手を出そうとしたは決定的な理由なんだけど、その前からあなたを追放することは決めていたの」


「なぜだ!?」


「本当に分からないの? 魔王と戦った時にあなたがしたこと覚えてる?」


「俺が魔王を必殺技で倒した」


「そうね、だけどその必殺技を編み出したのは私。そして私が必殺剣で魔王を倒そうとしたところを横からあなたが「私の技を使って」攻撃して魔王を倒したのよね。その後私になんて言ったかは覚えてる? 覚えてないようね。こういったのよ『もっと早く編み出しておけよ』って」


 あらら。それはさすがにひどいかも、とボクは思った。

 プリムは悔しかったのか少し涙を浮かべているように見えた。

 そのプリムの肩に手を置いたルビアが今度は話しだした。


「それだけじゃないぜ。氷竜との戦いの時。あのときはプリムもアコもゼルコバもやられちまって、あたしとお前だけが最後に残ったよな。あの時お前はずっとあたしの後ろに隠れていたから無事だったんだよな。ま、それは別にいい。追い詰められたときにあたしに言った言葉を覚えてるか? 覚えてねえよな。『早く倒せる魔法を作れ、お前の仕事だろ』って。そうさ、氷竜を倒すのは炎の大魔導師であるあたしの仕事だよ。だからあたしは究極の火炎魔法を使って氷竜を倒した。それであんたはあたしの魔法を使えるようになった後にこう言ったんだよ『お前はもう最強の炎使いじゃない。おれが最高の炎の魔法使いだから、お前の称号を俺によこせ』って」


 ダメだ。妙にリアルなエピソードで作り話に思えない。これが本当だとしたら絶対にパーティにはもどれないよタツオ。


「あたしたちはね、別にあんたがすごい力をもっているからパーティに誘ったんじゃないのよ。あんたが異世界から来たっていって、一人でさみしいって言ってたから、あなたの力になろうと思って誘ったのよ。でもあなたは私たちのことを利用しようとするばかりだった。だから追放したのよ!」


 タツオはもう返す言葉を持たない。

 返せるわけもない。

 ここまでひどいとは思っていなかった。タツオの自業自得とは言え、ここにいる数十人から冷たい視線を浴びせられているタツオに同情してしまうボクは多分甘すぎるんだと思う。


「どうせ、あたらしいパーティでもこれまでみたいに仲間を自分を強くするための道具程度におもってたんじゃねえのか。そんなんじゃどこ行ったってうまくいくわけねえからな」


 ルビアのとどめが入って、小さなうめき声をあげながらタツオはその場に両膝を付いてうずくまってしまった。

 

 完全に動かなくなってしまったタツオ。

 これで一件落着ということでいいのかな。何か声をかけたほうがいいのかな?

 ナツキのほうを見たら首を横に振った。リントも首を振った。

 そっとしておけということだろう。

 


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