4-7,アルムス王国路地裏
アルムス王国は活気に満ちていた。
一部に海はあるものの、四方を山に囲まれた縦長の国で、東はトワイローザ王国、西は魔導王国フィオール、南は帝国と国境を接している。山が多い地形なので交通の便はあまり良いわけでもなく、他国からはあまり魅力的には取られていなかった。
トワイローザとフィオールはこれまで積極的な交流がなかったのもアルムス王国が間に挟まっているのが大きく、フィオールとは海上貿易において少しだけ交易はあるものの陸路による交流は皆無だった。
でも、アルムス王国がトワイローザ王国の管理下になり、今後とワイローザとフィオールが交流を行っていく上ではアルムス王国は中継地として重要になってくる。
そのことを聞きつけた各国の商人や復興で仕事を得ようとする人々が多く集まってきていた。
先の戦争によって経済は大打撃受けたはずだったのだけど、現在は急速に復興が進んでいるのだそうだ。もともと戦地となったのはトワイローザ領内であり侵略戦争だった上に、兵士はほとんどが傭兵であることやシューマの能力によってほぼすべての戦闘で勝利してきたこともあって国内の被害は経済面だけに限定されていた。
そこへ経済力だけなら世界最強レベルのトワイローザの支援が入ったことで復興はすぐに行われていったのだった。逆に、経済面はトワイローザが完全に掌握することになったのでトワイローザ王国のコントロール下に置きつつ、政治面などはアルムス王国の自治に任せるというバランスの取れた政策が行われている。のだそうだ。クレアは賢いね。
アルフォンスやルイたちが「戦いでは役に立てなかったのでここからは私たちの仕事です」と張り切った成果なんだそうだ。
多くの人で賑わっているということは、当然いろんな人間が集まるということでもある。
戦後の復興のドサクサに紛れて悪事を働こうなんていう輩も。
「ごめんね、こんなこと言い訳にしかならないけど、まだアルムス王国は完全に統制が取れているわけじゃなくて……」
ボクたちは顔を隠した数十名の集団に囲まれていた。街を離れてすぐの出来事だった。おそらく街にいるときからマークされていたのだと思う。
ボクたちトワイローザの代表は国賓を護衛しているわけで青を貴重としたシンプルな正装。ただし兵士たちの装備は軽装。フィオールの皆さんは白を貴重とした気品のある正装。
どう頑張っても戦後復興中のアルムスでは浮いてしまうし、かといって返送してコソコソとするわけにも行かないし、少数で動くわけにもいかないし、大軍隊を連れて動けば他国を刺激することにもなりかねないのでそれも無理なわけで。
「いいえ、私たちが王宮へ行くときにもこういった事はあったし気にしないで。だけど数がやたらと多いわね」
プリムは落ち着いたものだった。こちらは少数とは言え、プリムやルビアは一騎当千の実力をもっているし、軍隊が相手ならまだしも数十人の野盗程度では相手にすらならないだろう。
それに、ボクは戦力外としても今回はクレアもいるし、ナツキもいる。今となってはナツキの能力がボクの願いに呼応して発揮されるものとわかっているので、ナツキはボクと連携することで、これまで以上に能力を使えるようになっている。
他にも精鋭部隊を連れてきているし、おまけでリントもいるので、はっきり言って負ける気がしない。
とはいえ、ここでなにかあっては護衛を務めるクレアの責任になる。
万が一があってはならないので油断は禁物だ。
「私達は王宮の関係者です。本来ならば全員処罰するところですが、今なら見逃してあげます。速やかに立ち去りなさい!」
クレアが大声で言い放った。
盗賊団なのか山賊なのかまだよくわからないけど、相手は誰も驚いた様子もたじろぐ様子も見せなかった。
「そんなことは知ってんだよ」
一人の男が前に出てきて言った。フードをとり、顔を見せてきた。
黒く長い髪。薄汚れた服に、無精髭でナツキやリントには全然似ていないのだけど、異世界人特有の雰囲気が今のボクにはすぐにわかった。
「タツオ……」
プリムがそうつぶやく前に、そうじゃないかとは思っていた。
確かに見た目は十代後半かそこらに見える。とても三十代には見えない。
「なんのつもり? こんなことをしておいてただじゃ済まないことくらいわかるでしょ」
プリムの言葉を聞いてタツオは下卑た笑いを浮かべた。
「お前こそ誰に向かって口を利いているのかわかってんのか?」
プリムの体がビクッと動いた。
――プリムが、震えてる
王宮でプリムの力は少し見せてもらっていた。この国にはプリムに敵う戦士なんていないんじゃないかというほどの実力者。そのプリムを怯えさせるほどの存在なのかタツオは。
ぼーっと眺めている場合じゃない。
ボクたちは護衛が仕事なのだから。
「使節の皆さんをお護りします! 任意に反撃も許可します!」
クレアの号令で小隊が武器を構えてプリムたちを囲むように展開する。
「まあ、待てって。いきなり喧嘩腰とは野蛮な連中だな。別にお前ら全員ぶっ殺してもいいんだけどさ、まずは話を聞けよ。それとも本当に殺されたいのか?」
話をしたい?
殺す?
脅迫しているのか交渉したいのかなんなのかわからない。
「あなたの目的は一体何?」
ボクが問うと、タツオは目を見開いて、
「うるせえぞ! ガキは黙ってろ! ぶっ殺すぞ!」
と怒鳴りつけてきた。
クレアが剣を抜いてタツオに突きつける。
「この方はトワイローザ王国の王の目です。この方への侮辱は我が王への侮辱とみなします」
「はあ? こんなガキが? ああ、そういやお前らの国は国王もガキなんだっけか? 変わった国だな」
「陛下を愚弄するとは。お前こそ殺される覚悟があるのですね」
「そんなもんあるわけねーだろ。お前が俺を殺せるわけがねーだろ。雑魚はすっこんでろよ」
タツオはクレアを軽くいなしてボクの前に立つ。ボクはそれを見上げる。
「もう一度聞くけど、あなたの目的は何?」
「お前が実質的な全権ってところか。じゃあお前に教えてやるよ。こいつらがどれだけ残虐で非道な奴らかをな」




