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4-5,花の色は



 中庭には大量の王国紙幣が吐き出され、山積みになった。


「これ全部処分しないといけないのに出し過ぎだよリント」


 ボクたちの元へ戻ってきたリントは満足げな表情だった。久しぶりに能力を開放できてスッキリしたのか、圧倒されて開いた口が塞がらない状態の使節団の皆さんの表情を見たからなのか。

 しかし、これ全部中庭で燃やすわけにもいかないし何日かに分けて小分けに処分するしかないな。

 そんなことを考えていたボクの肩にルビアが手をおいて


「あれの処分あたしにやらせてくれないか。面白いもんを見せてもらった礼に」


 ルビアはそう言って、紙幣の山の前に立つと、魔法で風を起こして紙幣を空中に巻き上げた。

 風の魔法をここまで自由に扱えるのか。


「これがあたしの最大の魔法だ!」


 宙に舞った紙幣は太陽を覆い尽くすほどの量だった。ルビアの両手からはそれをさらに超える大きさの火球が生み出され、空に向けて放たれた。

 全てを焼き尽くした火球が空の彼方へと消え去った。

 今度はボクたちの方が口を開きっぱなしになっていた。


「悪かったよ。お前らはタツオとは違うんだな。リント。お前のさっきの能力、めちゃかっこよかったぞ」


 ルビア照れくさそうに言った。






 それから使節団の皆とボクとナツキ、リント、そしてクレアの三人は少し距離が近づいたと思う。

 会話も少し弾むようになった。


「そうだ、クレア。あなたってきっと魔法の適性があると思うのよ。魔法の訓練をやってみたらどう?」


 プリムが隣りに座っていたクレアにそんな話題を振った。


「魔法、ですか。私は剣士ですので魔法の訓練は全く受けておりませんので、これから魔法を身につけるというのは難しいのでは……」


「そんなことないわよ? 魔法の適正は年齢とは関係ないし、いつ始めても遅いなんてことはないわよ。それにこれを使えばどんな魔法の適性があるのかすぐ解るし」


 そう言ってプリムは大きな青い宝石がついたネックレスを外してボクの前に差し出した。ボクは魔法の話にすごく興味があったのでプリムとクレアの様子をじっと観ていた。


「これは試魔石といって、簡易的だけど魔力を測定できる魔道具なの。見てて」


 プリムが目を閉じて魔力を込めると青い宝石が緑色に輝いた。


「光の強さは魔力の強さ、光の色は魔力の適正を表しているわ。私の場合は緑に変わったから水と地の適性があることがわかるの」


「すごい! こんな便利な道具があるなんて。これがあれば魔法の初等科で適正を調査するのにかかる時間が大幅に短縮されるよ! さすがは魔導王国フィオールだね」


 ついボクは口を挟んでしまった。

 プリムは「ふふっ」と笑った後


「これは魔道具といって特別な技術と特別な材料を使って作る魔導石をつかったものなの。魔導石というのが作るのがとても難しくてね、このネックレスもフィオールにも数個しかない貴重品なの」


 そうなのか。できれば譲ってほしいなとか思っていたのだけど。もしこれを譲ってもらえればトワイローザの魔法形態に革命が起こるのだけど。


「これならボクの魔力と適正を調べることができるんだね! ねえ、ボクにもやらせて!」


「さきにクレアからね? タルトはちょっとお茶でも飲んでなさいな」


 クレアがネックレスと受け取り、力を込めるとさっきと同じように緑色に輝いた。プリムのときよりも強く光っているようにみえる。

 おお、と他のメンバーからも歓声が漏れる。


「やっぱり! クレアにも水と地の適正があるわ。ということは風の魔法が使えるということよ!」


「私が、風の魔法を……?」


「そう。魔力としては私よりも少し強いくらいね。平均より少し高いくらい。でもクレアにはその剣術があるから、魔法と剣を同時に使えるようになればもっともっと強くなれるわよ!」


「もっと強くなれる、のですか」


 クレアは自分の手元で緑に光る宝石を見つめていた。これはすごく喜んでいる顔だ。


「じゃあ次俺にもやらせてほしいっす!」


 リントがいつの間にかクレアの横にやってきて割って入ってきた。


「ちょっと次はボクだってば!」


「いいじゃないっすか、大将は最後にやるもんすよ!」


 そういってリントが宝石を握った。

 リントに順番を抜かされてふくれっ面になりながらも、実際はリントの魔力には興味もあった。


 異世界人の魔力ってどうなっているんだろう。


 あの異世界人の能力は魔力と関係はあるんだろうか。無から有を生み出す異世界人の能力は魔法とは根本的な仕組みが違うと思う。

 もしかしたらリントたちは魔力というものを持たないかもしれない。だって魔法のない世界から来たんだから。


 リントの手のひらの上の宝石はすぐに光を発し始めた。

 宝石の光の強さはプリムのときとあまり変わらなかったけど色は全く違い、金色に輝いていた。


「な、なにこの色。初めて見たわ。ゼルコバ、見てこれ。あなたならなにかわかる?」


 ゼルコバが宝石をまじまじと見つめてなにかの本を取り出して調べだした。

 そんなに珍しいのだろうか。


「これ、地属性の一種だ」


 ゼルコバはこれまでも口数も少なく反応も鈍かったのだけど、一番の反応を見せた。


「おい、リント。お前魔法の適性まであんのかよ。すげえじゃねえか!」


 すっかりリントのことを気に入った様子のルビアさんがリントの肩を組みながら言った。リントはさっきまでの威勢はどこへやったのか顔を真っ赤にして小さくなっていた。

 女の子に耐性がないだろうなとは思っていたけどここまでだったとは。面白いのでそのままにしておこう。


「じゃあ次はナツキだな!」


 顔を赤くしたままリントが言った。


「ええ!? ボクは!?」


「だから、タルトっちは最後に決まってるじゃないっすか! 俺らのリーダーなんだから!」


 リーダーになった覚えもそれを認めた覚えもないんだけどな。

 ナツキにネックレスが渡され、ナツキがその宝石に触れた。

 宝石は光った。白く、淡く。

 これまでで一番小さく優しい光だった。

 ゼルコバがそのまま解説してくれた。


「白い光はすべての魔法に適正があるということ。だけどこの光量だと魔法を使うのは難しい」


「まあナツキつったか? お前も訓練すればお茶を沸かすくらいの火なら出せるようになるから気にすんな。火なんてな、マッチを使えば誰だって起こせるし、風なんて扇げば誰だって起こせるんだ」


 ルビアはもしかするとナツキを慰めようとしているのか?

 ナツキは引きつった顔で「ありがとう」と言っていたが、やっぱり残念そうだった。


 そうか。ナツキの使う能力は魔法とはやっぱり仕組みが違うのか。

 ナツキは魔法は使えなくとも体を炎に変えたり、回復薬を作り出したり、魔法よりもすごいことができるはずだから。

 ん、待てよ。

 今ナツキは能力を使っていない。ナツキの能力は願望器。ボクの願いを現実にする力だったはずだ。だったら……。


 ボクは「願って」みた。


「うおぉぉぉぉぉ!? なんっだこれ急に!?」


 ナツキの手のひらの宝石から直視できないほどの激しい光が発せられた。光はまるで暴れ狂う雷のように白く白く光り輝く。


「す、すごい。大賢者と同等かそれ以上の魔力。しかも色がついていない。これならどんな魔法でも最高クラスのものを使うことができるはず」


 他でもない大賢者のゼルコバがそう言うのだからすごいのだろう。言われなくてもこの太陽が落ちてきたのかってくらいに光り輝く様子を見ればすごいのはわかった。

 大歓声のうちにナツキの魔力測定は終わった。


 これで一つわかったことがある。異世界人の能力は魔力と関係があるということ。

 魔法は自然にあるものの形を変えるものだ。異世界人の起こす奇跡はナツキのように無から有を生み出したりするものもあれば、ルイやシューマのように世界に働きかけるようなものまである。それらは今の魔法系統では説明がつかないものだから魔法と関係ないと思っていた。

 だけど今、ナツキの使う能力に魔力が反応した。

 ナツキの能力はボクの願いに比例する。ボクが願い、魔力が高まったのなら、それは魔法なのかもしれない。

 それの何が問題かといえば、魔法は必ずなにかを代償にして特異現象を起こすものだから、ナツキが炎をだすのならナツキの躰から炎を作り出していることになる。

 それならまだいいけど、回復薬や棍棒などの物質を生成したときの説明がつかない。

 あれらも魔法で作られたものだとしたら、一体何を素材にして作っていたのだろうか。

 

 そんな事を考えていると、いよいよボクの番が回ってきた。

 正直、ナツキのあんな光の後にやるのはかなり恥ずかしい。

 ボクは自分でも魔力適性が低いことは重々知っている。

 ここで物語のようにボクに眠る力が目覚めるなんて展開も期待しないわけではないけど……。


 手のひらに置かれた宝石を見つめているボク。その様子を見守る皆。


「あの、これどうやったら光るの?」


 プリムに聞いてみる。


「魔力を込めてみて」


 プリムが答える。


「どうやって?」


 ボクは再度聞いてみる。


「どうやってってこう、精神を集中する感じで」


 正直意味がわからない。

 魔法を一度も使ったことがないのだから魔力を込めろと言われてもまったくわからない。


「プリム、みて。試魔石がまったく光ってない」


 ゼルコバがすごく驚いた表情で言った。


「ほ、本当だ。これって、まさか!」


 プリムも目を見開いて言った。


「嘘だろおいマジか!?」


 ルビアはさっきよりも驚いた表情だ。

 

「も、もしかしてこれ、すごいことなの?」


 なにやらただならぬ雰囲気に、まさかの眠れる力が存在したのかもしれないと期待してプリムに聞いた。


「ええ、すごいわ。私初めて見た。タルト、これはすごく珍しいわ」


 ちょっとちょっとちょっと。嘘でしょ。来たよ。きたじゃん。ボクにもまさか、特別な力があったなんて! 


「タルトの魔力はゼロよ」


 プリムが言った。


「ゼロって何? どんな適性があるの!?」


「適正なんてないわ。だって魔力が無いんだもの。魔法が使えないのも当然ね」


「ゼロって……ゼロ!? 魔力が全くないって言う意味!?」


「そうよ。これはフィオールでは見たことがないわ。普通なら試魔石に触れるだけで魔力を検知して薄っすらと光るものなのだけど、見て。タルトの手のひらの上の試魔石、まったく光ってないでしょ」


 ボクは両手で試魔石をつつみこんで暗くしてわずかでもいいから光っていないかチェックするけど、手のひらの中の宝石は全く光っていなかった。


「……ねえプリム? ボクも魔法を使えるようになりたいんだけど、どうすれば君たちみたいに魔法を使えるようになるのかな?」


 ボクはプリムに聞いた。答えはわかっていたけど聞かずにいられなかった。

 プリムは「あ、その」と言葉を言いよどみつつも一息ついて


「そうね、扱える魔力量は本人の資質によるところが多いのだけれど、魔法の力は魔力だけでは決まらないわ。魔力が少なくても使い方次第でいくらでも活用することができるの。それにはまず自分の魔力がどんな適性を持っているのか知ることが大切ね」


「うん」


「でもね、タルトはその魔力そのものがないから、応用も活用もできないの」


 ――うん


 もう言葉が出なかった。


「それって、足し算も引き算も出来ないんだから、方程式の計算なんてできるようになるわけない、みたいなことか?」


 ナツキがありがたくないけどとてもわかり易い例えをいってくれた。


「いや、むしろ数字が書けないから足し算も引き算もできないってレベルじゃないっすか? ブフっ!」


 リントのふざけた声をする方をバッと振り向くとサっと顔をそらされた。顔を隠してやがるけど、肩が震えてる。


 ――笑ったな……絶対許さないからな! くそ!


「じゃあボクはどんなに練習しても魔法は……」


「使えないわね」


 うわああああああああああああああああああああああああああっ!

 いつか、頑張って、いつか、努力して、いつか、いつの日か魔法を使うのは夢だったのに!

 ちょっと野営するときに火を起こすときにサっと火の魔法を使うのが夢だったのに!


「ま、まあタルト。そんな凹むなって。火なんてマッチを使えば誰だって起こせるんだからよ?」


 ルビアはやっぱり慰めてくれようとしているようだった。

 ボクの肩にぽんと手をおいてきたのはゼルコバだった。


「タルト。君に興味が湧いた。ぜひその躰をフィオールの魔導研究室で研究させてほしい」


 キラキラした目でボクを見つめる大賢者ゼルコバ。

 全然嬉しくなかった。


 今日はたぶん、寝れそうにない。






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