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4-3,嫌われる運命

○トワイローザ王国

主人公タルトやクレアの所属している国。

世界でも指折りの大国。


○魔導王国フィオール

大きさはとワイローザの半分以下ながらすすんだ魔法技術を有しており国力は高い。

現在トワイローザとの友好条約締結の交渉のため、フィオール王国から使者がやってきた。

プリムことプリムローズは使節団の団長。

他にも大魔導師や大賢者と呼ばれる世界最高レベルの魔法使いがやってきていた。



「実は私たちも少し前まで異世界人とパーティを組んでいたの」


 異世界人の転生先はトワイローザだけではないみたいだった。

 世界のパワーバランスを壊しかねない連中なのでそりゃあ一つの国に集中するということはないだろうし、アルムス王国という小さな国にもいたくらいだから、世界中を探せばもっとたくさんいるんだと思う。トラック様もなかなかどうして働きものだ。


「すっごい嫌なやつだったわ……」


 プリムが嫌な奴というなんてよほどのやつなんだと思った。プリムは仲良くなるとあまりオモテウラのない性格なのだけど、その代わりすごく明るく人懐っこい性格をしているので誰とでもすぐ仲良く慣れる空気を持つ素直で可愛い女の子だ。


「い、いったいどんな事があったの? パーティを組んでいたということはそれなりに近い存在だったと言うことだよね』


「そうね、いろいろあったわ」


 プリムだけじゃなく、ルビアさんや他のメンバーも、なんというか思い出したくもない、と言った表情をしていた。

 これ以上は聞かないほうがいいんだろうか、と不安になっていたところで


「せっかくだし私たちの出会った異世界人の話、聞いてくれない? 異世界人の話って異世界人を知っている人じゃないとなかなか伝わらないと思うし、私たちもこのことはまだ他の誰にも話していないのよ。でも、あんまり楽しいお話ではないと思うけど……」


「ぜ、ぜひ聞かせてほしい!」


 ボクは前のめりになって言った。




「そいつの名前はタツオ。見た目は私たちと変わらないくらいで、まあ、そこそこかっこいい見た目をしてたわ。爽やかな感じで、フィオールには珍しい黒髪に黒い瞳。神秘的な雰囲気だったわね」


 見た目の話だけならナツキやリントには近いものがある。あとシューマもそうだ。ルイだけは見た目がこの国の人間に近いのだけどそれは例外的なものだと思う。


「実力は本物だったの。あらゆる魔法、剣術を一目見るだけで習得してしまうのよ。私の家に伝わる魔法剣術も、ルビアの最上級の炎魔法も全て使いこなしたわ。しかも私たち以上に」


 たぶんまたでたらめな能力を与えられていたんだろうな。異世界人なら有り得る話なのが怖い。でもそんな万能な能力者だったとしたらなぜパーティから外されてしまったんだろう。


「それはね、私たちのパーティにタツオは不要だったからよ」


「不要? どうして? 聞いたところだとそうとうな強さだよねその人。パーティにいれば何でもこなしてくれる万能戦士になるんじゃ?」


「ところがね、彼が使える力っていうのは常に誰かの上位互換なの。私の剣技をみて、私以上の剣技を使う。ルビアの魔法をみてルビア以上の魔法を使う。だけどそれだったら私やルビアはパーティに必要なくない? 彼一人で全部できちゃうじゃない」


 それは……たしかにそうだ。


「結局、私たちパーティの能力はすべてタツオの方が上位互換になってしまったわ。だったら私たちと一緒にいる意味なくない?」


「そ、それはそうだね」


 と肯定しつつも、そんな便利で強い人が一緒なら心強いのでは、と思ってしまっていた。


「でも、それは理由の一つに過ぎないの。私たちがあいつを、タツオを、異世界人をキライな理由はね、単純に性格が合わなかったからなのよ!」


「ええっ!? 合わなかったって、どういうこと?」


 プリムはだんだんヒートアップしつつ続ける。


「だってあいつさ、自分では技を編み出したりしないわけよ。にもかかわらずイブニングハート家に

……って私の本名はプリムローズ・イブニングハートっていうんだけどね、一応代々魔法剣士の家系なのよ。そのイブニングハート家の奥義を見ただけで習得してしまったのよ、あいつ。最初は私も驚いたし、頼もしいとさえ思ったわ。だけどあいつなんて言ったと思う? 「ふうん、これがお前の最高の技か。俺のほうがうまく使えるな」なんて言ったのよ!?」


「そ、それはちょっと……傷つくというか言い方悪いよね」


 それはプリムは怒るだろうな。いや誰だって怒るよそんな言い方されたら。


「それだけじゃねえ」


 ルビアも会話に参戦してきた。


「あたしの使う炎の最強魔法もあいつはひと目見ただけで使いこなした。しかもあたし以上に強力にだ。あいつは「もっと強い魔法は使えないのか? 俺ならもっとうまく使えるようになれるからお前はもっと強力な魔法を習得してこいよ」って言ったんだぜ。あたしが一〇年以上かけて習得した究極の魔法だってのに」


 なるほど。なんとなくわかってきた。タツオという異世界人は相手の技を盗み、さらに強力な技を使えるようにできる能力者だと予想できる。

 これまで地のにじむような鍛錬や努力、さらには数百年という一族が紡いだ先に手に入れた技をあっさりと手に入れてしまう。だからその技の価値がわからないんだ。だからそんな発言をしてしまうんだろう。


「まあ、いいのよ。簡単に技を真似されたのは私たちが不甲斐ないわけだから。そこじゃないの。いえ、そこもムカつくんだけど! 一番最悪だったのは、あいつ、アコに手を出そうとしたのよ」


 プリムが言うアコというのは大魔導師アコナさんのこと。薬と毒の造詣が深く魔法を応用して治療や強化、時には毒で敵を攻撃するなどを得意とするこの国には一人もいない薬魔法を使う大魔導師。

 とてもおとなしく、ボクの見た目年齢は一五歳前後なんだけど身長も体格もボクとほとんど同じくらい。でもよく笑う子で、クスクスと小さく笑う姿は女のボクでも胸がキュンとする。


「アコはまだ一三歳よ!? そんなアコにあいつ手を出そうとしてたのよ! しかもよ、あいつの話が本当かどうかはわからないんだけど転生する前は三九歳だったってのよ? それで一三歳のアコに手を出すなんて、信じられる? いいえ、愛に年齢は関係ないかもしれないわ。だけどね、パーティの女子全員に言い寄って振られた挙げ句、一番気の小さいアコに無理やり言い寄ってたのはさすがに許せなかったのよ!」


 うわぁ……最悪。

 見た目と中身の年齢が違うパターンもあるんだ。ナツキやリントたちって見た目も年齢も転生前のままだったらしいけど、ルイなんかは見た目は変わってしまっている。転生のときに年齢を変えてもらうことなんかも出来たのかもしれない。

 トラック様が復讐に燃える前の転生だからそんなサービスもしていたということかもね。


「それはちょっと一緒にいるのは難しいね。ボクだってそれはお断りすると思う」


「そうでしょ?! タルトだってタツオに気に入られちゃうかもしれないわよ。あいつ超ロリコンなんだから」


「あの、一応ボクは男ということになっているんで……」


 それにボクは実際は一八歳だ。一三歳のアコさんと同じくらいに見えるというのは少々ショックではある。すこしは成長したと思っていたのにな。

 ボクが自分の胸とにらめっこしているとプリムは慌てて


「そ、そうだったわね。ごめんなさい。でも思い出しただけでも腹がたつわ。なんていうか常識が私たちと違いすぎるのよ異世界人は!」


 常識が違う、か。それは言えてる。だって異世界から来たんだもの。仕方ないところではある。

 だけどナツキたちは「そういう意味」での常識はずれているとは思えない。

 異世界人だからおかしいのではなく、そのタツオさんがオカシイんじゃないかとボクは思った。

 だからボクは思い切って提案した。


「うちにいる異世界人の連中は確かにおかしな奴らばかりだけど、そんな嫌なやつは一人もいないよ。ねえプリム。一度うちの連中にも会ってみない?」


「え、えええ……」


 プリムは上品な顔がおかしく歪ませて露骨に嫌がった。よほどトラウマになっているらしい。


「あたしはいいぜ。まあ異世界人はタツオしか見たことがなかったし、他の異世界人を見られるってのも貴重な機会だ」


 ルビアは賛成してくれた。プリムは「でも……」と言ってアコの方を見た。

 そうかアコにとってはプリムたち以上のトラウマかもしれない。


「あ、でも無理はしなくていいよ! ただボクの知ってる異世界人とはぜんぜん違うみたいだったから」


「わ、わ、私も大丈夫ですっ! 会わせてください。この国の異世界人にっ!」


 アコさんは振り絞るように言った。


「アコ……あなたがいいって言うなら私はかまわないけど。でもそうね、最初はなるべく短い時間で、ティータイムを一緒に過ごすくらいでどうかしら?」


「それでいこう。ルイは忙しいみたいで来れないけれどナツキとリントは暇してるから明日のお茶会に呼んでおくね!」


「ルイ陛下? ルイ陛下も呼ぶつもりだったの? っていうかタルトって陛下のこと呼び捨てにするのってなにげに不敬じゃない? 大丈夫なの??」


 あ、そうか。ルイが異世界人だということは内緒にしておいたんだった。さすがにこれは国家機密クラスの情報だもんね。危ない!


「あ、いや、ルイ陛下のことじゃなくってその、同じ名前の人がいるんだよ。うん、とにかく明日は二人の異世界人を紹介するから。何か問題が会ったときはボクかクレアに言ってくれれば絶対に悪いことはさせないから、遠慮なく言ってね」


「わかったわ! じゃあ明日ね!」


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