表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/80

4-2,花の国の使い

○トワイローザ王国

主人公のタルトやクレアの属する国。

世界有数の広さと豊かさを持っている。国王ルイは異世界人。


○魔導王国フィオール

アルムス戦争のあとトワイローザと国境を接することになった国。

大きさはとワイローザの半分程度ながらも歴史も古く魔法技術は世界一。

プリムローズ率いる使節団はトワイローザと友好条約を結ぶためにやってきた。




「みなさん魔法が使えるんですよね?」


「はい。我が国は生まれつき魔力の高いものが多いです。魔導王国と呼ばれる所以ですね。魔力が使えないものでも、魔導技術の発展に寄与しているので、国を挙げて魔法を研究しているのです」


 フィオール王国の使節の四人と、ボクとクレアでランチを共にしている。

 大臣のアルフォンスからは「できるだけ相手方の目的などを聞き出してもらえると助かります」なんて言われているのだけれど、ボクにはそんな話術はないし、そんなの失礼だと思ったので、あまり深く考えずに食事をすることにした。


 一応ボクもクレアもトワイローザ・ロズアブルのカラーである青い制服で相席した。

 使節団に皆さんは全員が白をベースにした美しい制服だった。

 団長のプリムローズさん。白い軽装の鎧と制服に桃色の長いふわふわの髪がとても映えていた。整った顔立ちで瞳には芯の強さを感じさせる。クレアの色違いみたい。

 大魔導師アコナさん。見た目だけならボクとあまり変わらない。つまり、一五歳位に見える。これで大魔導師というのだから、魔法ってやっぱり才能なんだな。

 大魔導師ユーフォルビアさん。真紅の髪で一番背が高く、力強そうに見えるけれど、やはり大魔導師。世界最高レベルの炎の魔法が使えるんだって。

 大賢者ゼルコバさん。世界に数人しかいない大賢者。時代によっては一人もいないということすらもあるというとてつもない魔力をもっている人。使節団の中でもずばぬけて高い魔力を持っているという。薄く赤みがかかった髪だけれど金髪に近い。もしかすると混血なのかも。


 食事会を通して知ったのはこのくらいだった。

 四人ともボクとクレアと歳も近いこともあって打ち解けるまでに時間はかからなかった。





「ねえ、クレアはこの国でも指折りの剣士なのよね? 私と一度手合わせしてみない?」


 プリムがいたずらっ子のような顔で言った。プリムローズだからプリム。仲良くなった私たちは非公式な場ではくだけた呼び方をお互いするようになった。


「タルト様、いかがいたしましょう?」


 なんでボクに聞くの、と思ったけど、プリムは魔法剣士。どんな戦い方をするのかとても気になる。


「じゃあ木剣で怪我しない程度という約束でどう? プリム」


「やった! さすがタルト! 話がわかるわね! それでいきましょう!」


 アルフォンスが聞いたら発狂して怒ると思うけれどクレアも割と乗り気なのは表情からうっすら読み取れていたしルビアさんも「おもしろそうだ!」と興奮気味。他の二人も興味ありありという感じだった。

 中庭の一部、人目の付かない場所を使って二人の手合わせが行われる。


「いくわよ!」と剣を上段に高く構えるプリム。「いつでもどうぞ」と下段に構え、低い体勢を取るクレア。


 プリムはきれいな太刀筋で剣を振り下ろす。クレアはそれを紙一重でかわして腹部にカウンター気味に胴当てを食らわせた。ボクは「うわっ」とつい声に出してしまったほどのクリティカルヒット。さすがクレアだ。

 放り投げたボールのように吹き飛ぶプリム。

 クレアはそのプリムを追うように走る。まだ追撃するつもりだ。

 プリムは空中で一回転。空中なのに態勢を立て直し、さらに、どうやって反動をつけたのかクレアに向けて突進してさらに上段から剣を振り下ろした。

 不意を疲れた形になったクレアはプリムの剣を剣で受ける。プリムはそのまま空中でさらに体を捻って足元を払うように剣を払う。

 バク転して足への攻撃を躱したクレアだったけど、剣を落としてしまう。

 プリムは地面に足がついていないのに、また空中で加速してクレアを追撃する。

 クレアはプリムの剣をまた紙一重で交わした後、クレアの腹部に掌底を当てる。プリムはふっとばされるものの、また空中で体制を整える。その間に素早く落とした剣を拾い、再度構え直すクレア。


「す、すごいね二人とも」とボクがつぶやくとルビアが反応してくれた。


「プリムが圧されてるなんて初めてみた。クレアのやつやるな」


「プリムあんなに攻撃当たっているのに全然平気そうだね」


「そりゃそうさ、プリムはうちのパーティのタンクをやってるんだぜ。木剣で百発殴られたってケロッとしてるよ」


「それはすごいな……あれも魔法なの?」


「そう、自分の周りの空気を圧縮したり膨張させたりして衝撃を緩和したり、自分の体を自由に動かしたりできるんだと。フィオール広しと言えど、あんな魔法が使えるのはプリムくらいなもんだ。それより、プリムのあの変幻自在の攻撃を全部躱してるクレアの方が信じられないよ。魔力も使わずにたいしたもんだ」


「でも怪我されても困るし、そろそろ終わりにしよう。二人とも、そこまで!」


 魔法といえば火を出す、水を生成する、穴をあける、なんていう大雑把なものしか見たことがなかったので最先端の魔法技術の片鱗を見ることが出来ただけでも今回の手合わせは十分な収穫があった。


「クレア、あなたの剣技すごいわね! どれだけの鍛錬を積んだらそんな事ができるのかしら。魔力って生まれつき決まっているものじゃない? だから私たちは時間をかけて磨き上げたものにとても敬意を払うの。私、クレアのこと尊敬するわ!」


「プリム様の剣技も素晴らしかったです。魔力を全開放されていたらすぐに勝負がついていました」


「そうねー、私打ち合ってて気づいたんだけどクレア、あなた魔力適性がとても高いと思うわ。あなたも魔法剣士になるのはどうかしら? 一度フィオールに魔法を学びに来るといいわ!」


 プリムに認められたクレアはほとんど表情を変えなかったけどあれはめちゃくちゃ喜んでる顔だ。プリムの魅力的な提案はボクの方からアルフォンスとルイに伝えておこう。

 豊富なトワイローザの資源や建築などの技術とフィオールの魔法の技術交流が行われるなんてことになれば理想的な共存関係を築くことができるかもしれない。



 その日の夕食。

 ボクたちはさらに打ち解けてお互いの身の上の話までするほど仲良くなった。トワイローザの食事は気に入ったらしく、皆美味しいと絶賛していた。


「ところで、どうしてタルトって男の子のような格好してるの?」


 不意にプリムがボクに言った。他のメンバーは「え? そうなの?」「気づかなかった」「嘘、女の子なの?」なんて言ってる。

 クレアと一瞬目を合わせる。クレアはどうしていいかわからないといった様子。


「え? ボクは男だよ? やだなプリム」


 返事に間が空いた上に、かなり不自然になってしまった。


「ふぅん」


 プリムは席を立つと、つかつかとボクの後ろまでやってくると、なんの遠慮もなくいきなり胸をつかんできた。クレアが止める間もなかった。

 ボクはみっともない悲鳴を上げてしまった。


「やっぱり女の子じゃない」


 ば、バレた。まさかこんな堂々と胸を触ってくるとは。


「なにか理由があるのね?」


 ボクは内緒にしてもらう代わりに事情を話すことにした。ついでにナツキやリントのことなんかも交えて。


「なるほどね。そのナツキくんとリントくんだっけ。その二人は異世界人なのね?」


 プリムが話を聞き終えて言った。すんなりと異世界人という存在を理解してくれた。もしかしてフィオールにも異世界人がいてプリムたちも知っているのかもしれない。


「皆にふたりのことも紹介したいんだけど、明日の昼食のときにでもどうかな?」


 ボクがそう言ったら、四人の顔が曇った。

 あれ? ボクなにかおかしなこと言ったかな。

 クレアの方を見るけどクレアも困ったような顔をしていた。


 プリムがさっきまでとは違って暗い声でいった。


「タルト、私たちね、異世界人のことが……キライなの」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ