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4-1,花びらの舞う季節


 トワイローザ-アルムス戦争は結果としてトワイローザ王国の勝利に終わった。


 ボクはというと傷――特に骨関連――がまだ治っていなかったので、クレアからきつく言われて一日中ベッドの上での療養していた。


 クレアは自分の仕事もほっぽってボクにつきっきりで看病してくれている。

 親衛隊長を兼任しているのだから他にも仕事があるでしょ? って言ってもクレアは「タルト様のお世話を最優先に行うよう陛下から仰せつかっています」とどこか嬉しそうに言って聞かない。

 いつも以上にテキパキと部屋の掃除をこなしつつ、ボクの身の回りの世話までやってくれていた。

 さすがに今は自由に動けなかったし、これはこれで助かったんだけどね。男どもはルイを除いてボクが女の子だと知らないし、デリカシー皆無だったので。


 長い戦いに出ていた間に伸びすぎていた髪はクレアがきれいに切りそろえてくれた。

 ボクが最初にダガーとガーデニング用のハサミで適当に切ったものとは大違いで、すごく綺麗に整えてくれた。この時すごいたくさん切ったんだけど、おもったよりもだいぶ伸びていた。よくバレなかったなこれでと思う。

 短くはなったけれど、クレアの散髪技術は本職並みで、自分で言うのも何だけど、かなり可愛く仕上がっていた。

 おしゃれなのは女の子としては嬉しいんだけど、これじゃ男の子とバレてしまわないか心配になる。

 だって、最近、ほんとに体のあちこちが成長してきていて、いつまで隠しきれるか不安になっていたんだよね。


「大丈夫ですよ。私がついていますから。タルト様は今は何も気にせずゆっくりお休みください」


 クレアからその後のことについては毎日教えてもらっていた。  


 アルムス王国は命令を無視し、トワイローザ王国との戦争を長引かせた責任を取らせ常勝将軍ことシューマを追放した。

 その後、周辺諸国から侵略について追求され、トワイローザ王国に保護を求める形で降伏し、トワイローザは戦いに一度も勝たずに、戦争に勝つという歴史的にも類を見ない結果となった。

 国王であるルイと大臣はその対応に追われて連日会議が行われているそうだ。

 アルムス王国を支配下にしたことで大陸内でも帝国に匹敵する超大国となったトワイローザ王国だったけど、領土が増えた分新しい問題が生まれた。


 新たに国境を接することになった魔導王国フィオールとの関係をどうするかだった。

 

 魔導王国フィオールはトワイローザ王国に比べれば領土も半分以下。武力や経済力は王国が圧倒的に上だ。だけど、世界に数人と言われる大賢者を複数人有するフィオール王国は魔法の技術が高く、少数ながらも強力な魔導部隊を持つ。

 魔導部隊の強さは先の戦闘において痛いほどよくわかった。

 たった一人で戦局を変えてしまえるほどの強力な攻撃が「魔法」だ。

 トワイローザには大賢者なんて一人もいないし、それどころか賢者と呼ばれるような上位クラスの魔法使いもほとんどいない。

 万が一、フィオールと戦争ともなれば甚大な被害が出ることは想像に難くない。


 もちろん、まだ戦争になると決まったわけじゃない。

 魔導王国フィオールは侵略戦争を仕掛けたことがない平和的な国と聞いている。

 豊かな魔法資源のお陰で国民の暮らしも安定しており、攻められたことはあれどその防衛戦争には全て勝利してきているのだ。


 ボクがクレアの付き添いが必要だけどなんとかベッドから起き上がり、テーブルで食事が取れるようになった頃、魔導王国フィオールの大使が王国に使者を遣わせてきた。




「我が国はトワイローザ王国との友好条約の締結を望みます」


 フィオールからの使者は四人だった。

 ボクは「無理するな、寝てろ……と言っても聞かないんだろうな」というナツキの忠告を当然無視して使者たちを野次馬しに来ている。

 だって、魔法が使えないボクみたいな平民からしてみれば魔導王国というのは憧れの存在なわけで。それと、ボクがもっていてナツキの命を救った回復薬はフィオールで作られたものだ。興味しかない。


「わかりました。条約の締結については我が国において検討し後日正式に返答したいと思います。それまでの間は王宮にご滞在いただきお待ち頂けますでしょうか」

 

 大臣アルフォンスが返答する。


「かしこまりました」


 そう言って顔を上げたのがこの使節団の団長のプリムローズさん。

 美しい女性で、どこかクレアと似た雰囲気を持つ彼女はフィオールでも最高と謳われる魔法騎士だという。

 他の三名も全て女性。ここからだとよく見えないけれどたぶん美人だ。

 ナツキやリントはフィオールに転生すればよかったのにね。

 たぶん、トラック様のせいでフィオールには最近転生者が行っていないんじゃないか、なんてことを考えながら接見を遠巻きに見ていた。


 接見の後、クレアから話を聞いた。

 

 使者がみな女性であったこともあり、クレアがそのお世話係に任命されたんだという。クレアはボクのお世話ができなくなることをとても残念がっていたけれど、今回ばかりはクレアでないと務まらない十代なお仕事なのでそちらに全力を尽くしてもらうように言っておいた。


「でも必ず毎日一度はお顔を拝見に参ります。お部屋のお掃除も私がやりますので、くれぐれも無茶なことはなさらないでくださいね」


「大丈夫だよ、自分の部屋くらい自分で……」


「ダメです。タルトさまはちょっと脇が甘いところがあります。皆さんに見られてはまずいものたくさんありますし、そもそもどこに下着がしまってあるのか、お湯の貯め方や抜き方などもご存知ないでしょう?」


「それは、そうだけど」


「なので身の回りのことは引き続き私にお任せください。そのくらい全然平気です」


 今頃になって気づいたけれど、ボクはずいぶんクレアにまかせっきりの生活をしてしまっていたようだ。

 特にここ一ヶ月くらいは寝たきりだったこともあってすっかりお世話されることに慣れてしまっていた。

 

「わかった、ありがとうねクレア」


 そう言いつつボクは自分の身の回りのことは自分でやらなければ、と心に決めた。


 

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