3-24,これまでの行い
目を覚ましたときにはボクはベッドの上だった。
ふかふかで大きな王宮のベッド。紫色の悪趣味なベッド。ボクの部屋のベッドだ。
「タルト様! お気づきになったのですね! よかったです!」
クレアが目に涙を浮かべながらボクに抱きついてきた。
その衝撃で躰のあちこちに痛みがはしった。
「痛ッ」
「ああっ! 申し訳ございません!」
どうやらボクは大怪我をしているらしい。体中が痛すぎてどこが痛いのかもわからない。
まだ状況が読み込めないけど、クレアがこうしてボクのそばにいるということだけでもボクはとても嬉しい。
「私があのときしっかりお守りできなかったばかりに……」
「大丈夫だよクレア。ありがとう。傷を治してもらいたいからナツキを呼んでもらえないかな?」
「……でもナツキさまの回復薬はあの戦いの後ほとんど出せなくなってしまって……」
「……そうだろうね。でも大丈夫だから。お願い」
「わかりました。少々お待ち下さい!」
クレアは真っ赤な目をしたまま走って部屋を出ていった。すぐに扉が開いてナツキとリントが入ってきた。
「タルト気がついたのか!」
「タルトっち! 生きてたんか!」
「心配かけてごめんね。二人とも元気そうで良かった」
躰を起こそうとしたけど、腕は感覚がなく、下半身はほぼ動かない。代わりに激痛が走った。激痛が走るってことは神経は無事ってことだ。
頭や腕にも包帯が巻かれている。これは思った以上に大怪我してたみたい。
「無理するな! タルト!」
「そうだよタルトっち。まだ怪我全然治ってないんだから無理すんな!」
二人がそっとボクを起き上がらせてくれて、背中に柔らかいクッションを挟んでくれた。
「ありがとう。ねえナツキ、回復薬をお願いしてもいいかな」
ナツキとリントは顔を見合わせ、俯いた。
「……すまん、タルト。俺も何度も使おうとしたんだ。だけど、あれから俺の能力は使えなくなってしまったんだ……」
「ナツキ、君なら出来る。ボクを信じて、もう一度試してくれないかな」
「……わかった。やってみるよ」
ボクは目を閉じて、心のなかで強くイメージした。ナツキが回復薬を出している姿。皆を助ける姿を強く思い描いた。
「タルトっち髪がまた……」
多分ボクの髪や目が光っているとき、ナツキの能力が発動する仕組みなんだろう。
強い願いほど強く光る、そういうことだったんだと思う。
「か、回復薬が、すごい、あふれるように出てくる! 俺の能力、なくなったわけじゃなかったのか」
これまでと違って、ボクは「回復薬を出してほしい」とを願ってナツキの能力を使ってもらった。
そのせいか、コレまでは滲み出るような出方をしていた回復薬はナツキの手のひらから湧き出していた。
なるほどね、これが願望器か。
ボクの願いを叶えてくれる。
ボクがこれまで無意識に願っていたものを拾い上げて叶えていたものが、今回はボクが具体的に願いを思い描いたから、ナツキの能力もそれに呼応して力を発揮できたんだ。
これがナツキの本来の能力だったんだ。
能力の詳細を知らされなければいつまでも気づかなかったかもしれない。
満面の笑顔をボクに向けるナツキ。
「よかった……」
ナツキに回復薬をかけてもらったおかげで、表面的な傷は全て一瞬にして治癒された。
骨折系の怪我には少し効きが悪いけど、それでも体の感覚が一気に蘇ってきた。
「これは……なあ、タルトっち。もしかしてナツキの能力とタルトっちの光って関係があるんじゃねぇのか?」
リントはやっぱり賢いね。もうちょっと早くわかってたらもっと良かったのだけど。
「タルトさん!」
扉を叩きつけるように開けてルイが入ってきた。ルイの後ろにはクレアと大臣もいる。
「ルイ、それに大臣。心配かけてごめんね。今回復薬を使ってもらったからこの通り、もう大丈夫だよ」
「タルトさぁん!」
ルイはボクに飛び付こうとしたところをクレアに止められた。
「だめですよ陛下。タルト様は大怪我をされているのですから」
「そ、そうだったね。ありがとうクレア」
ルイはゆっくりボクの手を握って涙を流した。
「本当に、よかった……」
「皆に話さなきゃいけないことがあるんだ」
ボクはトラック様とのやり取りをみんなに話した。
「願望器……タルトの願いを叶える力……だからタルトが寝ている間俺は能力が仕えなかったのか」
「とんでもない能力だな。願いを叶える、か。っていうかトラック様ってタルトっちウケるんだけど」
「だって、皆が皆口を揃えてトラックトラックっていうもんだからてっきりそういう名前だと思っちゃったんだよ。それでね、今言った通りボクはこれから異世界人に命を狙われるらしいんだよね。ボクはここにいたらみんなに……」
「迷惑がかかる、とか言い出さねぇよな」
リントは立ち上がりながらボクの言葉を遮った。
「王国内の異世界人の情報を集めましょう。すごい能力を持っているのならすでに噂になっている可能性があります」
ルイがそれに続く。
「さっそく、私は各知事へ調査命令を出してまいります。では」
大臣は早足で部屋を出ていく。
「俺とナツキは王都での見回りだな。いこうぜナツキ!」
「おう」
ナツキとリントも勢いよく出ていった。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。みんな落ち着ちついて……」
止める間もなく皆部屋から出ていってしまった。
ボクの横に残ったのはクレアだけだった。
クレアは優しい笑顔を浮かべて、ボクの手を優しくとって言った。
「タルト様。ここにタルト様を守ることが迷惑だなんて思う人はいません」
胸が締め付けられるような痛み、それと鼻の奥もツンと痛い。
この痛みもナツキの回復薬で治せるのかな。




