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3-24,異世界人が嫌いな理由

「あいつらはせっかく人生を異世界でやり直すチャンスを手に入れ、特別な能力を与えられていながら、ハーレムを作ってばかりでいつまでも世界を救ったりしない。いつまでも遠回りを繰り返し、終いにはスローライフなんて言い出して辺境に引きこもってしまうやつばっかりだ。そうだろ?」


 ――それって


「そう、君が嫌っていたのと同じ理由だよ。ボクは彼らに能力を与えた本人だからね、余計に腹がたつってものさ」


「そんな……! だったら最初から転生なんてさせなきゃ良いじゃないか!」


「そうもいかないんだ。世界と世界のバランスを取るのがボクの仕事なんだ。どちらかの力が溢れてしまわないように異世界転生を行ってエネルギーを調整してバランスを取らなくちゃいけなくてね。ボクだってやらなくていいならやらないよこんなめんどくさいこと。でもね、次々にボクのところへ転生者の候補が送られてくる。エネルギーバランスが狂っているせいだよ。どうやって選ばれるのかはボクもわからない。ボクは彼らに転生するか、それともそのまま消えるか、選択してもらうのが役割なんだ。ボクに拒否権はない。どうだいひどい職場だろう? 転生候補者が転生を望めば異世界に転生させるし、転生したくないといえばそのまま消えることもできる。彼らは自ら望んで転生したんだよ」


「だからって、わざわざ辛い思いをさせなくてもいいじゃないかって言っているんだよ! あなたは彼らに幸福な物語を与えることだってできるわけでしょ?」


「物語を与えるなんてことはできないけど、そう誘導することくらいならできるかもね。そうだね、例えばナツキくんの能力の対象を君にするとか。そのくらいはボクにも干渉できる」


「やっぱり……わざとボクの前にナツキを転生させたんだね」


「そうだよ。転生先はいくつかあったんだけどね、転生者を嫌っていた君なら彼と関わらないかもしれないと思ったんだよ。まさ  か君があっさり転生者と打ち解けるとは予想外だったけどねそれに君の性格なら万が一願望機の能力を知ったとしても悪用することはないだろうと思ったからね」


「ナツキに能力の事をぜんぜん教えなかったのも……」


「もちろん、わざとだよ。彼の能力はさっきも言った通り転生者の能力の中でもかなり特殊だからね。内容を知られてしまったらナツキくんの物語がとても楽しいものになってしまうかもしれない。いっそ君と出会わなければいいとさえ思ったよ。転生者にはもっと苦しんでもらわないとね」


 ボクの姿からボクが決して口にしない言葉を聞くのは、違和感がすごくて気持ち悪い。


「最低……」


「別に彼らをわざと苦しめているわけじゃない。彼らの物語を本来の姿に戻しているだけだ。都合の良い展開なんていう反則技をなくしてやってね」


「あのさ、その都合の良い展開がなかったら、異世界転生なんて島流しと変わらないんだよ」


「島流し! うまい表現を使うね。確か君はボクの与えた能力を「呪い」なんて言ってたっけ。なるほどね、受け取り方によって全く違うものになるんだねぇ」


「何を他人事みたいに。本当のことじゃないか。よくわかったよ、あなたの性格がひんまがってるってことがね。もういいよ。もうボクをもとに戻して。あなたが転生者をいじめようがボクには関係ない」


「関係ないなんてことはないよ。彼らがいなければいずれ君の世界は滅びを迎えることになる」


「だから、関係ないんだよ。ボクたちの世界のことに異世界の人たちは関係ないんだ。滅ぶ? だったら滅べばいいじゃないか。自分たちの世界くらい自分で守ればいい。ボクたちの世界のために異世界の人たちが苦しむ必要なんてないよ」


「まさか君からそんなセリフを聞くことになるなんてね。君はボクと同じだと思っていたんだけどな。君は異世界人たちを嫌っていたはずじゃなかったかな? だから君はそんな格好をしてまで彼らとの接触を拒んできたんじゃなかったかな」


「そう思ってた。だけど間違いだった。彼らだって彼らなりの苦労があったんだ。ナツキたちと知り合ってボクはそれを知ったんだ。あなたが思ってるほど異世界人だってお気楽じゃないんだ」


「そんなこと、ボクが一番良く知っているさ! ボクがどれほどの時間、何度も何度も期待を裏切られ続けててきたと思う? 君にわかるかい? 永遠とも悠久とも言える時をただ裏切られ続けて過ごし続けてきたボク気持ちが!」


「だからといってなんの罪もないナツキたちを苦しめていい理由になんかならないじゃないか。だからボクにどうしろというんだよ。あなたに協力して異世界人への嫌がらせを手伝えとでも言うの? お断りだね。ボクは別にあなたに転生させてもらったわけでもなんでも無いんだからあなたに従う必要もない。そうでしょ?」


「じゃあ君は彼らの運命を背負うというのかい? 君が過去に見てきた異世界人のような都合の良い展開はやってこないんだよ? 都合よく美少女の仲間に出会う確率なんて本来ならゼロに等しいんだよ?」


「ボクはボクの出会ったみんなを助ける。せめてボクの出会った皆がこれ以上嫌な思いをしなくていいように頑張るだけだよ。どうせあなたを止めることは出来ないんだから」


「止められるよ」


「そうだろ。だからもういいって……え? 止められるの?」


「その話をしにきたんだよ。タルトちゃん」







「やっと本題に入れそうだね。もう説明は十分したよね。ボクはね、君に挑戦しようと思うんだ。ボクの邪魔ばかりする君にね。わざわざ教えなくても良いナツキくんの能力の詳細まで教えたのはこの勝負を君に持ちかけるためだ。いくらなんでも自分の駒の使い方もわからないようではフェアではないからね」


「駒って言うな。ボクの仲間のことをそんな呼び方しないで。そもそも神様がボクみたいなただの人間に挑戦するなんて、一体どこがフェアなのさ。それに邪魔なんてしてないし」


「邪魔なんだよ。ボクが転生者を送り込んでも君がそれを救ってしまう。それじゃあボクの復讐が成り立たないじゃないか」


「復讐って……。自分で能力を与えておいてそれが思い通りに使ってもらえなかったから復讐するっていうの? ずいぶん押し付けがましい神様だね」


 トラック様は鼻で笑ってみせた。いくら話したところで考えは変わらないんだろうね。

 でも待てよ。

 ボクじゃなくったって誰かが異世界人を助けるかもしれない。

 そのたびにこうやって呼び出すつもりなのかな? 

 ……違うね、そんなことはしない。


「ねえ、なにか隠してない? またボクに嘘をつこうとしてない?」


「さあ、なんのことかわからないな」


 答えるつもりはないってことか。


「まあいいよ。それで? ボクになにをするつもり? 挑戦だっけ?」


「さっきも言ったけど、ボクは現実世界の人間たちに直接干渉はできないよ。直接はね」


「じゃあ間接的には出来るってことね」


「そう。ボクはこの世界にとっておきの転生者を送り込んである。さっきも言った通り、ボクは転生者になら少しは干渉できるからね。その転生者に「使命」を与えようと思うんだ。君をボクのもとに連れてくるように、と」


「ボクは今あなたの前に既にいるじゃないか」


「ここは君の精神世界だって言っただろ。ほんとうの意味でボクの前に連れてきてほしいってことさ」


「じゃあそんな回りくどいことしなくても、直接あなたのところへ行ってあげるよ。一発ぶん殴ってやる」


 トラック様はボクをじっと見つめてきた。そんな真剣な顔もできるのか。


「……ボクのところへ来るということが何を意味しているか、君ならもうわかっているんじゃないのかな」


 トラック様に会うということは、トラック様に会ったことがある皆の話から考えれば、わかる。


 死ぬということ。


 トラック様はボクを転生者をつかって殺す、と言ってきたってことだ。

 さっき「ひどい職場」なんて言ってたけどこれって職権乱用なんじゃないの? トラック様には上司とかいないんだろうか。

 まったく、人間を殺そうとするなんてひどい神様もいたものだよ。

 どうせやめてくれって言っても聞いてくれるわけもないし、トラック様の言いなりになるつもりもない。

 だったら、その挑戦とやらを受けてやろうじゃないか。


「……じゃあボクが勝ったら?」


「なにが?」


 トラック様は予想外と言った表情を浮かべている。


「だから、あなたのその嫌がらせをボクが退けたらボクの勝ちってことでしょ? そしたらなにかしてくれるの?」


 トラック様は「挑戦」なんて言ってたけど、ただの「嫌がらせ」だ。こいつは言葉で相手を騙す。


「ボクに勝つつもりなのかい!? 驚いたな。一応言っておくけどトライアンフはボクには通じないよ」


「あなたの思い通りなんかには絶対になってやらないよ」


「いいね。さすがタルトちゃんだ。期待以上の反応だよ。そうだね、もし君がボクの挑戦を退けることができたらその時は転生者たちへの干渉はやめるよ」


「絶対だからね。約束破ったら許さないからね」


「もちろんだ。こう見えてボクはこれまで約束を破ったことはないんだ。たっぷり楽しませてもらうよ。これまで邪魔された分ね」


「ほんと最低!」



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