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3-23,幸せを願うと

【これまでのあらすじ】

 村の小さな少女タルトは森で異世界人の高校生の安藤夏樹ナツキと出会う。ナツキの周りには何故か美少女が現れないので仲間を探すために人がたくさん集まる王都にいく。

 そこで異世界人の「お金を生み出す力」をもつ今川凛冬リントと「王になる力」をもつ国王での佐藤るい(ルイ)たちと出会い彼らも助けることを決める。

 トワイローザ王国は隣国アルムス王国より戦争を仕掛けられており国王であるルイはその対応に追われていた。国力で大幅に勝っているはずなのに何故かトワイローザは戦いに敗け続けているという。その原因を探るためにタルト達は戦争の前線に赴いていた。

 アルムス王国は「戦いに勝利する能力」をもつ異世界人シューマの力によって小国でありながら大国トワイローザ王国との戦いに勝ち続けていた。

 王国の危機を救うためにタルトたちはシューマを攻略するための作戦を展開する。

そして作戦は成功した。そしてトワイローザ軍はアルムス軍に「敗北」した。

 落雷に巻き込まれたタルトはトラック様に出会う。


 ボクは立っているのがやっとだった。体に外傷は見当たらないし痛みもないのだけど頭の中が渦巻いているようだった。

 トラック様はしかめっ面になっているボクのことはお構いなしにゆるい笑顔を崩さずに説明を続けた。


「異世界に転生するときには巨大なエネルギーが発生するんだ。位置エネルギーってわかる? 高いところにあるものが低いところへ落ちていく時に運動エネルギーに変換されるってやつ。あれと似ていてね、高位の世界から低位の世界への転移によって大きなエネルギーの変換が起きる。そのエネルギーのいち部を使って転生する者にはその者が望む願いを能力として与えられているんだよ。君も見てきただろう? 彼らの能力を。あれは全て彼らの願いを叶えたに過ぎないんだ。お金持ちになりたいとだとか王様になりたいだとか、ね」


 饒舌なトラック様。だけど今のボクの頭にはよく理解できない。話が頭に入ってこない。


「難しい話はよくわからないよ。あなただって知ってるんじゃないの。ボクはそんなに学があるわけじゃないんだ」


 トラック様は話を続ける。ボクの話は聞いてないのか。聞いていてあえてなのか。その内容はボクにはやはりよくわからないものだった。


「願いには必ずそれに見合う代償がついてくる。小さな願いには小さな代償、大きな願いには大きな代償がね。バランスだよ。転生者の能力のからくりは異世界転生によるエネルギーの転移なんだ。上限があるんだ。転生者の願いを何でも叶えるとまではいかないんだ。で、ナツキくんの場合だけど、彼だけは少し特別でね。彼は転生するときに自分ではなく「他人の願いを叶えたい」と願った。「他人の」というところに問題があってね、願いを叶えるなんて本来は与えられるはずのない能力が与えられてしまったんだ。他人とはいっても、たった一人だけという制約付きでね」


 ――ナツキが特別? 他人の願いを叶える? たった一人だけの願いを?


「まさか……!」


「そう。その「たった一人」というのがタルトちゃん。君なんだよ。彼の能力は他人の願いというよりは「君の願いを叶える」という能力だ。自分の願いも、君以外の願いも叶えられない。そしてもう一つ。願いは無制限に叶うわけではなく「彼が経験したこと」じゃないと叶えられない。それと、彼が起こす「奇跡」は君の願いの強さに比例する。願いを叶えるって言ってもそれなりに強い制限があるってわけだ。それでも世界のバランスを崩すほどの力を持つ能力だ。なんせ転生時に発生したエネルギーの殆どを持っていったくらいだからね。彼の能力の制限とかは君にも心あたりがあるんじゃないかな」


 心当たりは正直に言えば、ある。というかこれまでのナツキのよくわからん能力については今の説明ですべて辻褄が合ってしまう。だけど――


「なんで……ボク、なの?」


「どうしてだろうね。あの時ちょうど君がそばにいたからじゃないかな――」


「嘘だね」


 ボクはこらえ切れずにトラック様の言葉を遮った。

 さっきからずっと気持ち悪かった。

 ボクは本能的に感じ取ったんだと思う。


 ――トラック様は「嘘」をついている

 

 それがボクに凄まじい嫌悪感を感じさせている正体だったんだ。


「嘘? どういうことだい? ボクが嘘をつく? なんのために?」


「だって、あなたの与える能力には、願いの叶え方には、明確な悪意を感じるんだよ」


「悪意? 転生者の願いを能力として与えたボクのどこに悪意があるというんだい?」


「じゃあ、シューマはどんな願いであんな能力になったの? 教えてよ」


「トライアンフか。君はナツキくんというものがありながらずいぶんと彼に肩入れしているね。彼はね、元の世界ではとてもひどい人生を送っていたよ。ききたかい、かれの不幸な物語を。最初は入試だった。入試ってわかるかい? 向こうの世界では学校へ入学するためには試験に合格しなくちゃならない。その学校に入れたかどうかで残りの人生が決まるというなんとも理不尽なシステムがあってね。学校で何をやったかのほうが重要なこの世界の人間には理解できないと思うよ。彼はその入試に失敗した。試験の日に事故にあってしまってね。だけど彼は諦めなかった。翌年もう一度挑戦するために頑張った。だけどね、またダメだったんだ。不合格というやつだ。理由はわからないよ。ボクにもわからないことはあるんだ。彼はその後も頑張った。他人よりも何倍も頑張った。だけどね今度は彼の家庭に問題が発生した。父親が死んでしまったんだ。病気でね。彼は学校へ通うことが難しくなった」


「…………」


「あちらの世界のことだから君にはよくわからないと思うけどね。彼は頑張ったんだ。頑張り続けたよ。だけどうまくいかない。その気持ちはわかるかい? 何をやっても自分の力では乗り越えられなかった。別の何かによって失われ続けた。彼の心はいつだったかな、折れてしまったよ。彼は自らの命を終わらせる選択をした」


「それも、あなたがやったの?」


「まさか。ボクにはそんな力はないし、そんなことはしないよ。もしかして……君は世界に運が悪い人間なんていないと思っているのかい? それとも良いことと悪いことは最後は差し引きゼロになるとか、そんなことを考えているのかな? 残念ながら違うよ。運がいい人間はいるし、悪い人間もいる。長生きする人間もいれば生まれてまもなく命を落とす人間だっている。当たりを引き続ける人間もいればハズレを引き続ける人間だっている。いくら努力しても報われないことなんていくらでもある。シューマくんが「全てに勝ちたい」と願ったのはこういう事があったからだろうね。自らが受けてきた理不尽な不運の数々が、今度は自分にとって都合良く働く世界。そんな世界を彼は望んだんだ」


「あれがシューマにとって都合のいい世界? あんな姿を見ておいてよくそんな事が言えるね」


「そんなことをボクに言われてもね。それに、なにもかも都合よく、うまくいくようになった転生者がどうなるか、君も知っているんじゃなかったかな?」


「でも異世界人っていうのはそもそもがそういうものじゃなかったの? 異世界人は……その」


「ハーレムかい? あれもね、転生による力の影響だよ。あれも彼らの願いの一部なんだろうね。運命の力が強まってあんな物語になってしまうみたいだね」


「だったらおかしいじゃないか。なぜナツキの側には美少女が現れないの? ナツキだけじゃない。リントもルイも……シューマも! なぜあんな過酷な運命なの? 彼らがあんな運命を望んだとでも言うの? ……ねえ、これはやっぱり……あなたが仕組んだことじゃないの?」


「……思ったより勘がいい子なんだね、タルトちゃんは。それともどこかで既に気づいていたのかな?」


 トラック様は一瞬だけ真顔になった後にまた薄っすらと笑みを浮かべ、大げさに両手を広げた。


「よくわかったね! 正解。大正解だよ! そうだよ。ボクが意図的にやったことだ。彼らに能力の代償を教えなかったことももちろんわざとだし、彼らに君の言う│都合のいい仲間びしょうじょが現れないのも――ボクがそう誘導したからだ」


 ――やっぱりそうだったんだ


 ボクが出会う最近の異世界人は、ボクが見てきたこれまでの異世界人たちとは違いすぎていた。

 ハーレムどころか、まともな仲間すらいない。

 まるでわざわざ不幸になるために転生してきたかのようだった。


「どうしてそんなひどいことをするの?」


 広げていた両手をさげ、片手を腰に当てたトラック様はライトブルーの瞳をボクに突きつけるようにして、氷のように冷たく言い放った。


「異世界人が嫌いだからだよ」







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