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3-22,青い髪のカミサマ

【これまでのあらすじ】

 村の小さな少女タルトは森で異世界人の高校生の安藤夏樹ナツキと出会う。ナツキの周りには何故か美少女が現れないので仲間を探すために人がたくさん集まる王都にいく。

 そこで異世界人の「お金を生み出す力」をもつ今川凛冬リントと「王になる力」をもつ国王での佐藤るい(ルイ)たちと出会い彼らも助けることを決める。

 トワイローザ王国は隣国アルムス王国より戦争を仕掛けられており国王であるルイはその対応に追われていた。国力で大幅に勝っているはずなのに何故かトワイローザは戦いに敗け続けているという。その原因を探るためにタルト達は戦争の前線に赴いていた。

 アルムス王国は「戦いに勝利する能力」をもつ異世界人シューマの力によって小国でありながら大国トワイローザ王国との戦いに勝ち続けていた。

 王国の危機を救うためにタルトたちはシューマを攻略するための作戦を展開する。

そして作戦は成功した。そしてトワイローザ軍はアルムス軍に「敗北」した。

 落雷に巻き込まれたタルトはトラック様に出会う。



「ボクがカミサマという存在なのかどうかは置いておいて、彼らを転生させ能力を与えたのは確かにこのボクだ」


 灰色の世界。


 光が消えて数秒。

 目が慣れてきて、その姿をようやく見ることが出来た。


 トラック様は人間の形をしていた。

 それもかなり小さい。ボクと同じくらい。

 白い布をただまとっただけの格好はまさに神様という感じだけど……。


 トラック様が頭にかぶせていた白い布を取り払った。

 青い髪がはらはらと腰の下まで流れ落ちた。

 そして顔が見えた。

 青い瞳。

 思わず、あっと声を上げてしまった。

 

 ――そこにいたのはボクだった……それもナツキと出会ったばかりの頃の。髪を切る前の。


 トラック様の声もどこかで聞いたことがある既視感を感じていたけど、当たり前だ。

 

 ――ボクの声だ。なんかこうやって客観的に聞くとすごい子供っぽい声だな。


 トラック様はボクと同じ容姿で口の端をあげて話しかけてきた。


「そんなことよりも、ずっと君に会いたかったんだよタルトちゃん。こうして君と会うことが出来て本当に嬉しいよ。まずはトライアンフの攻略おめでとう。君の頑張っていた作戦とやらは成功だ。君の仲間はみんな無事だし、なんとトライアンフも無事だ。あれを無事と言っていいのかはいささか疑問の余地はあるけどね」


 不気味だった。

 自分と全く同じ形をした生き物が自分と全く同じ声で「自分に」話しかけてくる。

 不愉快だった。

 自分に話しかけられるのは鏡を見ているようなもの、と思えなかったのはこのボクと同じ姿の「生き物」は鏡を前にしたボクが一度もしたことのない表情で話しかけてきたからだ。それがとても気持ち悪かった。

 さっきまで戦場にいた「はずの」ボクはまだ精神的に緊張したままだったし、眼の前の「生き物」が久しぶりにあった同級生に偶然会ったような気軽さで話しかけてきたことも、奇妙なズレを感じる。自分と同じ姿なのに所作も言動もまったく自分じゃない。


 ――何を話せばいい

 

 聞きたいことは山ほどある。

 名前は?

 ボクの前に現れた目的は?

 この灰色の世界は何?

 

 でも、何よりもボクはこの妙な嫌悪感がどうにも拭いきれず

 

「その姿はいったい何なの?」


 かなりそっけない声で聞いた。神様相手にはずいぶんと無礼だったと思うけど、トラック様は気にもとめずに答える。


「ああ、これ? ボクには決まった姿っていうのがないからね、君の姿を借りさせてもらったんだ。君がボクの送った転生者相手をしてくれているのを見ているうちにすっかり君のファンになってしまったんだよね」


 うん、わかった。

 たぶんボクはこの神様は「苦手」なんだ。


 なんだかめまいがする。

 ボクは気持ち悪くなってきて、今にも吐きそうになっていた。

 緊張なのか嫌悪感なのか疲れなのかわからない。その全部かもしれない。

 とにかく調子が悪い。


「あなたが現れたということはボクは死んだということなんだね」


「いや、君は死んでないよ。さっきも言っただろう? 全員無事だと」


 死んでいない? どういうこと? ますます頭が混乱する。


「じゃあ、ここはどこ? あなたは何をしにボクの前に現れたの?」


「ここは君の精神の中だよ。君は今意識を失っているんだよ。君は意識を失う寸前にボクに会いたいと願ったよね。その君の願いとナツキくんの力を媒介にすることでボクは君の精神の中に来ることが出来たというわけだ」


 精神の中。夢を見ているような状態ということかな。

 それよりも。


「ナツキの力!? どういうこと? なんでナツキが関係あるの?」


「彼には願望器リアライズという能力を与えてあるからね。願望器リアライズは「他人の願いを叶える」という異世界人のでたらめな能力の中でもさらに群を抜いてでたらめな能力だよ」


 ナツキの能力。願望器リアライズ。あいつのはそんな能力だったのか。

 たしかにでたらめだ。

 他人の願いを叶えるだって?

 もうでたらめを通り越して、能力というよりは概念、法則のようなものを壊してしまう能力とはいえないような能力。


「君がボクに会いたいと願い、その願いをナツキくんが叶えてくれた。そのお陰でこうしてボクは君に会うことができた。いくらボクでも自分が転生させたわけでもないこの世界の人間の精神に直接干渉することはできないんだ」


 でも、願いを叶えるというのなら自分の願いを叶えればよかったのに。

 それなら今頃ナツキはもっと素敵な異世界生活を送れていただろうに。


「ナツキくんは自分の願いを叶えればよかったのに、って思ったかい?」


 ……心を読まれたのか? いや、当然の疑問だと思うのでとりあえずうなずいておいた。


「そんな能力はさすがに与えられないよ、というより与えられるほどの力がボクにはない。だって、願いを叶える能力、なんてボクと同等。いや、それ以上のとんでもない能力になってしまうよ。トライアンフなんてチート持ちがちっぽけになるほどのね」


 そういうものなのか。

 でもそんな事言われたところで、こいつの言う常識なんてボクにはわからないんだから。

 ボクはこんな勿体ぶった回りくどい話し方がすごく苦手なんだ。

 余計に気持ち悪くなってすこし吐きそうだ。

 多分ボクはいますごく苦い顔をしていることだと思う。トラック様のどこか余裕の笑みを浮かべている顔とは正反対に。

 

「うーん。はやく本題に入りたいところなんだけど、いきなりボクの要件を言っても意味がわからなくなるだろうし、先に少し説明をしてあげようか」



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