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3-19,青い妖精と赤い光

【これまでのあらすじ】


 村の小さな少女タルトは森で異世界人の高校生の安藤夏樹マコトと出会う。マコトの周りには何故か美少女が現れないので仲間を探すために人がたくさん集まる王都にいく。


 そこで異世界人の「お金を生み出す力」をもつ今川凛冬リントと「王になる力」をもつ国王での佐藤るい(ルイ)たちと出会い彼らも助けることを決める。


 トワイローザ王国は隣国アルムス王国より戦争を仕掛けられており国王であるルイはその対応に追われていた。国力で大幅に勝っているはずなのに何故かトワイローザは戦いに敗け続けているという。その原因を探るためにタルト達は戦争の前線に赴いていた。


 アルムス王国は「戦いに勝利する能力」をもつ異世界人シューマの力によって小国でありながら大国トワイローザ王国との戦いに勝ち続けていた。


 王国の危機を救うためにタルトたちはシューマを攻略するための作戦を展開する。

そして作戦が最終局面を迎えようとしていた。


 日が傾き始め、辺りが夕焼けに染まり始める。

 魔物。特に、動物型の魔物たちは夜が近づくに連れて活発化する。

 アルムス王国軍は本隊の一部を残してほぼ総崩れを起こしていたので、今ではもっぱら魔物との戦いがメインになってしまっていた。


 ――シャアアアアアアア!!!


 どんな動物の鳴き声とも違う、不快な音。ボクはこの音に聞き覚えがあった。


 ボクたちの前方の木々の合間に巨大な黒い影が浮かび上がる。

 視界が悪くなってきた最悪のタイミングで最悪の魔物が現れた。

 洞窟の魔物――大蛇だ。


「全員後退! 全力で!」


 ボクが叫んだときには大蛇の尾が周辺の兵士を薙ぎ払っていた。

 十人ほどの味方の兵士が吹き飛ばされる。


「タルト! なんでこいつがここにいるんだ!? あの時倒したはずじゃなかったのか?」


「わからない!」


 ボクたちは急いで負傷した兵士を回収する。


「だって、あれって伝説の魔物なんだよな!? 洞窟に封印されてたくらいなんだから!」


「わからないってば! ただ、村では手に負えなかっただけとかそういうことかもよ!」


「しかもあれ、前に見たときよりデカくなってないか?」


 ナツキとボクは一度この大蛇と戦うことになって、勝ったことがある。だけどあのときはナツキは一時大蛇に飲み込まれて死にかけ、ボクはお腹を引き裂かれて致命傷を負ってしまうというかなりの苦戦を強いられた。


「皆んな下がって! アレは見た目よりも動きが素早いよ! 牙と尻尾に気をつけて!」


 負傷した兵士を連れて戦場を離脱しようとするけど


「タルト様! 後方にも魔物の群れが!」


 振り返ると後方から側面にかけて、昆虫型の魔物がよりどりみどり、大量にボクたちを囲むようにわいていた。


「怪我人を中央に運んで、輪形陣を組んで。前方はボクたちがなんとかする。君たちは後方をお願い!」


「しかし、あのような巨大な魔物を相手にするのは……!」


「大丈夫! ナツキはあの魔物を前に退治したことがあるんだよ! だから任せて!」


「おお! さすがナツキ様! では私たちは後方の敵を倒してまいります!」


 そして大蛇を目の前にボクとナツキ。大蛇の目が赤く光り、こちらとの距離を測っている。


「確かに嘘は言ってないけど、あのときより二周りほどデカいぞこいつ。これはさすがにヘビーだな……。蛇だけに」


 ナツキが何故か得意げにこちらを向いた瞬間にボクたちの周りに影ができる。

 大蛇の尾が頭上から稲妻のように叩きつけられる、ボクとナツキはそれを転がりながら躱した。


「す、すごいじゃんナツキ!」


「お、おうよ。お前こそ!」


 ナツキは高揚した顔でこちらをみながら言う。たぶんボクも同じような顔をしていると思う。

 変なニヤケ顔。

 レベルなんてものがボクたちにあったならコタン村を出る前と今とでは文字通り桁が違うことだろう。この数ヶ月の間、幾度となく戦闘を経験し、数多くの魔物と戦い、ボクもナツキも経験値がそれなりに溜まっている。

 今の攻撃を二人とも余裕を持って躱せたのがその証拠だ。


「あのときとは違うってことだよな。俺たち。よぉし、やるぞ俺は! 見てろよタルト!」


 ナツキは右腕を炎に変えた。すごい。ナツキは「炎の腕」を完全に自分のものにしている。

 さらに、左腕も炎に変える。


「よし、今日は調子がいい。最高に絶好調ってやつだ!」


 気前のいい言葉をならべて、こんどは炎の腕が巨大化していく。薄暗くなった森の中で紅く輝く炎球が二つ。圧倒されてしまってボクは口を半開きにしたまま隙だらけで棒立ちしていた。

 その事に気づいて大蛇に視線を移したけど大蛇も炎を警戒して、そちらに気を取られていた。


「すごいよナツキ! まるで魔法だよ! いや、魔法以上だ! その炎の珠でやっつけるってことだね!?」


「そ、そういうことだ! 俺も割と驚いてるけどな! こんなデカくなるとは思ってなかったし!」


「やっちゃえナツキ!」


 ――ゴロゴロゴロ


 空が鳴いた。

 あたりが急に暗くなる。空が暑い黒ずんだ雲で覆われていた。嘘。まさか。


「うおぉぉぉぉぉぉ!」


 ナツキは両腕に巨大な炎の珠を作ったまま、叫びながら大蛇めがけて走り出した。ああ、そうか。腕が炎になっているだけだから投げたりは出来ないのか。

 なんか両肩に荷物を抱えて走っている感じはちょっとかっこ悪い気もしなくもないけど、威力はは間違いなく炎の魔法かそれ以上のものになるはずだ。はずだった。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 顔に冷たいものが当たった。雨。

 ここでもシューマの「奇跡」が効果を発動するのか。

 次の瞬間には前がよく見えないほどの大雨が降り始める。


「うおぉぉぉ……!」


 ナツキの火球が大雨に晒され、どんどんと小さくなっていく。


「うおぉぉ…………!」


 ――ペチッ


 ナツキが大蛇にようやくたどり着いたときには、炎はすべて消し去られ、ナツキのむき出しになった素手のパンチが大蛇の腹にあたって虚しく音を立てた。


「な、ナツキぃぃぃぃっぃ!」


 大蛇も一瞬怯んでいたが、すぐに体を大きくひねらせナツキを吹き飛ばした。きれいな放物線を描いてボクの後ろに落ちた。


「ナツキ! 大丈夫!?」


「大丈夫……なわけないだろ。腕も足も、たぶん腰かどっかの骨も折れた!」


 よかった。

 生きてるならナツキは超回復が発動しさえすればどうにかなる。

 よろよろとナツキは立ち上がるけど、足が気持ち悪い方向に曲がっているままだ。

 もう超回復が始まっているらしい。さっきの炎の腕といい回復といい、こいつは人間離れしすぎてててむしろ、引く。


「おい。なんて顔でこっち見てんだよ。さすがに傷つくわ。俺だってちょっとこれは無いなって思うくらいだけどさ。お前がそんな顔したら俺の立場ないだろ」


「ご、ごめん。だって、足とかすごいおかしなことなってって……うわ! なんかうねうね動いて、うわわ!! 足が治ってるの、それ」


「だから、うわ、とか言うな! 確かにキモいけど、うわわとか言うなよ!」


 ナツキは死なないしいいとしても


「よくねえよ! 痛みはそのままだって言ってんだろ!」


 これはかなりまずい状況だ。

 ボクや兵士が攻撃を受ければ下手すれば死ぬ。死ななければナツキが出す回復薬で治せることもあるかもしれないけど、あれは骨折には効きが悪いのは以前ボクの骨折が治るのに時間がかかったことで実証済みだ。

 かといっていくら不死身染みているとはいえ、ナツキだけで大蛇の攻撃をすべて防ぐのも難しい。

 ダガーに手をかけるけど、これが通用しないことは既に証明済みだ。

 雨は強さをまして、視界もすこぶる悪い。


 ――ガハハハハハハハハハ!


 どこかから笑い声? のようなものが聞こえる。激しい雨音に全くかき消されない、豪快な笑い声。

 笑い声はどんどんと近づいてくる。


「ガハハハハハハァァァァ!」


 大蛇の首辺りに光が一閃、間髪入れず二閃! 三閃!


 ――ボト――ボトボトボト


 大蛇の首が落ち、さらに躰も輪切りにされて、蛇のぶつ切りの肉塊が完成した。


「無事ですかな、タルト殿」


「ガトー将軍!」


 そこにはずぶ濡れになったガトー将軍が、でかい体のさらに二倍はある巨大な剣を肩に乗せて立っていた。


「それ、もしかして大型魔物討伐用の武器!?」


「そうです。対人で使うのは国際法違反ですが、魔物の討伐なら問題ありません。 ようやく私の活躍の場がまわってきたということですな!」


 ガトー将軍とは指揮する部隊が違うことが多いので戦っているところを見たことがなかった。

 ボクたちもいくらか強くなったと思っていたけれど、ガトー将軍の強さは比べ物にならなかった。これが本物の戦士の力。


「さあ、ここからが正念場。気を引き締めてまいりましょうぞ!」


 後方の兵士たちも囲んでいた魔物たちを一掃できていた。彼らもかなりレベルアップしていたんだろうね。彼らだって選り抜きの兵士たちなのだから、一人ひとりはナツキは別としてもボクなんかよりは遥かに強いはずなんだ。


 ――うおぉぉぉぉ!

 ――ガトー将軍バンザイ!

 ――│青い妖精フェブルバンザイ!


 ガトー将軍の剛力は圧倒的だった。人間が相手だと一撃でミンチになってしまうであろう斬撃で、魔物を叩き潰していく。疲れ始めていた兵士の士気も大きく挽回。

 雨も弱まってきていた。

 ところで青い妖精ってなに? どこかでも聞いたような。


「タルト様の戦場での二つ名ですよ。ご存じなかったんですか? 割と前から呼ばれてたのですが。兵士の間では青く光る髪をなびかせて戦場を駆け回る様子から、青い妖精と呼ばれてるみたいですなー。私もさっき始めて見ましたが、本当に髪が青く光っていたので驚きました。魔法ですかな? ガハハハ」


 な、なんてこと!? この髪そんなに目立ってたの!?

 青い妖精は、恥ずかしい。恥ずかしすぎる! っていうか妖精って男の子につける二つ名じゃなくないか? そりゃ実際は女の子なんだけども。正体がバレかねないからどうにかやめてほしい。後でガトー将軍にお願いして、やめさせてもらおう。せめて、青い牙とか青い風とかなんかそういうかっこいいやつに。

 

 日が落ち、ここからは夜戦に突入した。

 今回はこのまま戦いを終わらせることが出来ない。最終作戦は「合図」があるまで却くわけには行かない。

 本来なら夜戦になってしまえば夜目の聞く魔物たちがでる森の中での戦闘は危険なのだけど、ボクたちは最初から夜戦の準備を完全に整えてあった。

 すでに敵軍は疲弊の極地にあり、まともに前線に出てこられる兵士は皆無。

 敵がいなくなったことでボクたちの部隊の周りの魔物たちも発生しなくなっていたようだった。

 ただ一点、トライアンフの旗のもとだけでは未だに激しく戦闘が続いているようだった。


「シュウマ……」


 ボクたちが戦い続ける限り、シュウマは戦わないといけない。ユウタは絶対に勝つ。でもそれは逆を言えば勝負を挑まれ続ける限りシュウマは逃げることが許されないということ。

 ボクはユウタのトライアンフは「勝つこと」だけを叶える能力だと予想した。

 あのトラック様とかいう性格の悪い神様はそういう嫌がらせのようなことをすると思ったからだ。


 百戦百勝トライアンフという圧倒的な能力。正面から戦えばどんな能力だって絶対に勝てない。だったらその逆を突いていけばいい。



 そのとき。


 ――パァン


 音のする方を見る。

 空に小さく赤い光が見えた。敵軍の後方より、照明弾があがったんだ。


「ガトー将軍。「合図」だよ。ここからは兵に戦闘を極力避けさせて。これ以上の戦いは無駄になる。いや……もう大きな戦闘は発生しないはずだ」


「いよいよ大詰めということですな。すぐに全軍に通達してまいります」


 待ちに待った「合図」が上がった。

 赤い照明弾は「撤退の合図」だ。

 それが、敵軍から上がった。


「タルト、あれが上がったってことは……最後の作戦も成功したということでいいんだよな?」


「うん。そうだよ。ボクたちの勝ちだ。ナツキ、君もよく頑張ってくれたね。お疲れ様」


 ナツキは力尽きるようにその場に座り込んだ。本当に頑張ったねナツキ。見直したよ。


「作戦、最終段階へ移行します!」


 最後の戦い。その結末へ向けて、ボクはシューマのいる場所へと向かった。






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