3-18,最後の戦い
【これまでのあらすじ】
村の小さな少女タルトは森で異世界人の高校生の安藤夏樹と出会う。ナツキの周りには何故か美少女が現れないので仲間を探すために人がたくさん集まる王都にいく。
そこで異世界人の「お金を生み出す力」をもつ今川凛冬と「王になる力」をもつ国王での佐藤るい(ルイ)たちと出会い彼らも助けることを決める。
トワイローザ王国は隣国アルムス王国より戦争を仕掛けられており国王であるルイはその対応に追われていた。国力で大幅に勝っているはずなのに何故かトワイローザは戦いに敗け続けているという。その原因を探るためにタルト達は戦争の前線に赴いていた。
アルムス王国は「戦いに勝利する能力」をもつ異世界人シューマの力によって小国でありながら大国トワイローザ王国との戦いに勝ち続けていた。
王国の危機を救うためにタルトたちはシューマを攻略するための作戦を展開する。
「今日までよくがんばって戦ってきてくれたね。だけど、耐え続けてきた戦いも今日で終わりにするよ!」
――うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
士気はこれまでで最高。
ボクは最後になる(予定の)出陣式で気合の入った演説を行った。演説って言うほどでもないんだけどやたらとノリがいい兵士たちのおかげでいちいち盛り上がる。特にボクが噛むとすごく喜ぶ。ボクがセリフを噛むといいことが起きるというジンクスまであるそうだ。
ムカついたので今日こそは噛まないでおこうとがんばったんだけど……。
「いやあ、今日も上々でしたな! さすがタルト殿。兵士たちをノせるのが本当にお上手だ。ここまで兵士たちを鼓舞出来る人間はそうそういませんよ。タルト殿には今後もずっと出陣式をおまかせしたいですな。そうだ、このまま軍に入るというのはどうですかな? ぜひ将軍職をお任せしたい!」
ガトー将軍は自分の役目をボクに押し付け続けていたことを反省もせずに言う。
「何言ってんの! ガトー将軍はちゃんと仕事しなよ!」
「私は指揮を取るよりも前線で戦うほうが向いてますからな。タルト殿が将軍になって指揮を執ってくだされば私は戦闘だけに専念できるようになるので助かるんですわ。だから、ね?」
「ね? じゃないよ! 無理無理無理。 そんなの絶対無理!」
今は特別作戦中なので暫定的にボクが指揮をとっているのであって……ってそれもガトー将軍に押し付けられたからやっているだけだし。
「そうかなぁ? タルトの指揮、結構戦いやすかったと思うし、本当に向いてるんじゃないか?」
ナツキが余計なことを言う。
「確かに! 評判いいっすよタルトっちの出陣式の演説。ぷぷぷ!」
リントはどこかのタイミングで前線に引っ張り出してやろう。
「はいはい。冗談はこのくらいにしてね。 さあ、最後の戦いだよ! みんな準備はいい?」
クレアが無事に戻った。
ルイ親書をアルムス王国政府に渡し、交渉を終えたとのことだった。
これで作戦の第三段階までが完了した。
いよいよシューマ攻略作戦は最終段階に入ることになる。
第一段階から第三段階までボクとナツキのやることは変わらず前線維持だった。防戦一方だったボクたちだったけど最終段階はいよいよこちらから攻めることになっている。
「敵将軍の旗印が確認できました! 常勝将軍です!」
シューマが来た。予定通りだ。
アルムス王国の軍勢はリントの経済工作によって大半がまともに戦えない状態になっている。はっきり言ってトワイローザ軍と正面から撃ち合う戦力はない。
となればシューマは常に前線に出て来ざるを得ない。予定通りシューマを戦場に連れ出すことに成功した。
そして、トワイローザ王国とアルムス王国の最後の戦いが始まった。
戦場では、シューマの「絶対に勝つ能力」が発動して、急な地割れや天候の急変までありとあらゆる奇跡が起きてこちらの軍を敗退させていく。
――でも
「百戦百勝の力は「勝つ」こと。だったらこちらは負けなければいい。負けるまでは戦いは終わらないはずだ」
これがボクたちの考えた作戦だった。
シューマの能力がこれまでの異世界人の能力のパターンと同じように言葉のままの能力だったとしたら「勝つ」事ができる「だけ」の能力なんじゃないかと考えたんだ。
リントがただ「お金を出すだけ」の能力でルイが「王になるだけ」の能力だった(ふたりともごめんね!)のを参考にしたんだ。
シューマの能力を逆手に取り「敗け」を前提にしつつ被害を抑えるという作戦はこれまで予想以上に成果が出ていた。ボクたちの予想は当たっていた。
だけど、やはり勝てないままではいつかは敵の軍は王都までたどり着いてしまうかもしれない。
――だから、ここでシューマを、倒す!
ボクはマコトと共に最前線付近まで出張って、王国軍と共に戦う。とは言ってもボクの仕事は主に応援だ。
「みんな! 後少しだよがんばって!」
前線に来たのは応援の他に、敵の様子をなるべく注意深く観察するため。
敵の兵は明らかに士気が落ちており、まともな攻撃はほとんど飛んでこない。
圧倒的な戦力差でボクたちは敵を包囲するように攻め立てていく。
それでも、シューマの能力によってボクたちに不利な出来事が起きていくのだが……。
奇跡を起こす力もとうとうネタが尽きたのか、今では魔物まで発生するようになった。
コタン村の周りでもおなじみの大型昆虫型の魔物がよりどりみどり。
しかも発生場所は決まってボクたちの軍が攻撃を仕掛ける場所だった。敵の軍は戦える戦力もなくすぐに撤退するのだけど、その後に残った魔物との戦いに追われるようになってしまった。
だけど、今日はここで撤退する訳にはいかない。「合図」があるまで今日は撤退は出来ない!
ボクの周りでも魔物が発生して、そちらの対応に追われて前線に指示が出せなかった。
ナツキは歩兵部隊にまじり大型の魔物を「炎の腕」で丸焼きにし、小型の魔物は「鎌の腕」で切り裂いていく。初めて会ったときに、あんなよわっちぃ魔物相手に腕を切り落とされていた姿なんて、もう想像もできない。
「タルト様! 第三部隊右翼に大型の魔物が現れました! 動物型で数もかなり多いそうです!」
傷ついた兵士がボクの元へ報告に来た。昆虫型の魔物に比べ動物型の魔物は動きが早く知能も高いうえ、群れで行動するものが多く厄介だ。昆虫型は昆虫型で毒だったり鎌だったり武器が厄介という特徴もあってどちらも油断はできない。
「わかった。すぐに増援を送るから、皆落ち着ちついて行動して! 無理に前に出ないようにね! 任意に退却しつつ、戦線の維持に努めて!」
「はい! タルト様!」
その兵士は敬礼してみせた。戦中では珍しいというか普通やらないものなんだけど……。その敬礼の姿と、なぜか汚れているはずなのにピカピカと良く光を反射する鎧に見覚えがあった。
「君は……城門のとこにいた衛兵さん!?」
「はい! その節はお世話になりました! タルト様!」
王都にきて最初に王宮で出会い、その後も牢にとらわれてしまったりとなにかと因縁のある衛兵さん。今回の戦いに参加していたんだね。
「あ、怪我してるじゃないか。大丈夫? ナツキ! ちょっとこっち来て!」
ナツキにお願いして回復薬の滲み出た腕で触ってもらう。
「す、すごい! 傷が一瞬で治るなんて。 ありがとうございます! タルト様! ナツキ様!」
「ねえ、タルト様はやめてってば。恥ずかしいよそれ」
「とんでもありません。タルト様はタルト様です。タルト様のご活躍は王都でも有名なんですよ。初めてお会いした時はまさかタルト様がこの国を救ってくださる英雄だとは思いもよらず数々のご無礼誠に……」
「いいっていいって! 今は戦闘中なんだからそれくらいにしておこ? それにボクだってこんなことになるなんて思ってなかったよ。まさか自分が戦争に参加して王国軍の指揮を取ることになるなんてさ。でも、今はみんなが頑張ってるから、そんなこと言ってられないよね。後少しだから、ボクたちも頑張ろうね!」
「はい! お二人と共に戦場に立てたこと、光栄です! では!」
「うん、気をつけてね!」
トワイローザ王国も動かせる戦力の大半を今回の戦いにつぎ込んでいる。
その圧倒的な戦力の反動で、魔物の大量発生を招いてしまった。
怪我人も増えてきた。そのほとんどは敵軍の攻撃ではなく、なんらかの災害や魔物の襲撃によるものだ。予想がつかない分対応が難しい。はずなのだけど、この数ヶ月でシューマの起こす奇跡と戦ってきた歴戦の兵士たちは慌てることなく突発的な事象にも即時対応していっていた。
あと少し……「合図」があるまではどうにか戦線を維持しなきゃ。
ボクたちの部隊の前に敵の小部隊が現れる。この数ならこちらが優勢。
迎撃体制をとり迎撃。追撃しようとしたところに大型の魔物が待ち構えている。これもトライアンフの力だね。でもワンパターンになりつつある。それだけ「奇跡」を起こすのが難しくなってきたのだろうか。
「ナツキ! 負けるな! もうすぐ日が暮れる。もう少し粘るよ!」
「おう! 俺はまだ全然大丈夫だ。でもリントは魔物と戦うのは初めてだから後方に下げといたぞ。さすがに戦場じゃいくらお金があっても意味ないからな」
「確かに」
ナツキは魔物の振り下ろす前足をバックステップで避けた後、前に踏み込んで左手で払う。魔物の前足は刃物で斬られたように切断。ナツキは鎌は完全にマスターしたみたい。
ナツキだって魔物と戦った経験が多いわけじゃないのにこの長い戦争ですっかり戦い方が身についたようだった。
そんなナツキの奮迅ぶりを眺めていたら、ナツキと目があった。するとナツキがとことことこちらに寄ってきた。
「あのさ、タルト忙しいところ悪りぃんだけどさ、ずっと気になってたけどタイミングがなくてさ、でもやっぱ言っておこうと思うんだけどさ」
「な、なに急に? 言いたいことがあるなら早く言ってよ」
「お前、髪が光ってるんだ。しかも前よりかなり明るく。あと目もだ。それ、暗くなったら結構目立つから気をつけてな!」
この長い戦いの間で伸びまくったボクの髪は先の方なら自分でも見ることができる。
ボクの髪の毛は本当にぼんやりと光を放ってた。
光を反射しているとかじゃなくて髪そのものが発光していた。
――本当だったんだ。ボクの髪が光るっていう話
ナツキの言う通り暗い場所ではこれは目立つかもしれない。今までボクはこんな状態で戦場を駆け回っていたってこと? なんであいつは早く言わないんだ。他の皆も全然教えてくれなかったじゃないか。
――髪が光るのが本当なら、目も光ってるってこと?
ダガーを取り出して刃に自分の目を反射させてみると、やはり瞳が青くうっすら光を放っていた。
「な、なにこれ!? なんで目が光ってんの!? ボクは人間じゃなかったのか!?」
目や髪が光るなんて聞いたことがない。
いや、高度な魔法を使う魔法使いなら魔力の影響が体の外側に反映されて光ることもあるらしいけど、そもそもボクにはその魔力がない。
でも魔力以外にこんなことあり得ないし……。
「タルト! あぶない!」
ボクがダガーとにらめっこしているとナツキの叫び声。顔をあげると、上空から鳥類の魔物が襲いかかろうとしている。
鳥の魔物は新しいパターンだ。これまでに報告にない。
地対地戦闘しか想定していなかったこちらの兵装では戦いづらい。森の中での戦いが多くなりがちなので弓兵も少ない。
とっさにナツキが空に向かって巨大な炎を撒き散らして魔物を追い払う。
あいつの炎の腕は大きさも変えられるのか。魔道士と同等かそれ以上じゃないか。
「大丈夫か?! タルト。俺が余計なこと言ったせいだな、悪りぃ。だけどぼーっとしてるなよ。お前がやられちまったなにもかもおしまいなんだからな!」
「うん、わかってる。ありがとうナツキ」
ナツキが巨大な炎を出した瞬間。
ボクの髪と瞳が炎に共鳴するかのように強く光った。
――なんなんだこれ……
だけど、いつか自分でも言ったことだけど、髪と目が光るから何だという話。
魔力が原因ではないのなら、なにかの病気? そんな病気聞いたこともないけど。
今は余計なことを考えていても仕方がない。でも気になって仕方ない。だって光ってるんだよ。ホタルかよ!
ボクは人間。ホタルなわけ、ない。だったら髪や目が光るなんていう身体変化がある原因とすれば、ボクの躰になにか魔力的なものが流れているということ!
「もしかしてボクにも魔力が宿って魔法が使えるようになったとか……?」
ずっと憧れていた魔法。魔力がなくて諦めていた魔法。何回も何百回も想像の中でだけでしか使えなかった魔法!
ボクは手をかざして叫んでみた。
「炎よ!」
ただ近くにいた兵士からチラチラと見られただけだった。
炎が出る代わりにボクの顔が赤く染まった。




