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3-17,調子が悪い日②

【これまでのあらすじ】

 村の小さな少女タルトは森で異世界人の高校生の安藤夏樹ナツキと出会う。ナツキの周りには何故か美少女が現れないので仲間を探すために人がたくさん集まる王都にいく。

 そこで異世界人の「お金を生み出す力」をもつ今川凛冬リントと「王になる力」をもつ国王での佐藤るい(ルイ)たちと出会い彼らも助けることを決める。

 トワイローザ王国は隣国アルムス王国より戦争を仕掛けられており国王であるルイはその対応に追われていた。国力で大幅に勝っているはずなのに何故かトワイローザは戦いに敗け続けているという。その原因を探るためにタルト達は戦争の前線に赴いていた。

 アルムス王国は「戦いに勝利する能力」をもつ異世界人シューマの力によって小国でありながら大国トワイローザ王国との戦いに勝ち続けていた。

 王国の危機を救うためにタルトたちはシューマを攻略するための作戦を展開する。


 堪えきれずボクは短い悲鳴を上げて地面に転げた。

 回避が遅れて矢が一本、左足のふくらはぎに刺さっていた。


「タルト様!! くそぉ! 言うことを聞いてくれ!」


 レオンの馬は迷走していたが味方の陣の方へ走り足してくれたので彼は大丈夫そう。

 だけどボクは……。

 筋肉が締まってしまう前に矢を引き抜かなくちゃ。

 ダガーの柄を加えて刺さった矢を思いっきり引き抜く。


「あぐっ!」


 血が溢れる。だけど大きな血管に損傷はなさそう。これなら致命傷にはならないな。毒も塗られてなさそうで良かった。……良かったのか? 良かったか。

 どちらにしてもボクは動けそうにはなかった。

 やがて、敵に囲まれ、ボクは捕虜として捉えられた。




「まさかこんな小さな子どもが指揮していたなんてな」

「女の子か? いやまさかな」

「こいつがあの青い妖精か」

「ガトーは一体何を考えているんだ」


 見張り役の兵士がチラチラとボクを見ては何かを話している。

 まあ大体がボクの見た目についてのことだ。そりゃまあボクみたいなチビが戦場で指揮を取っていたと慣れば珍しいのはわかるし見たくもなるだろうからね。途中から開き直って無視することにした。チビとか子どもとか女の子みたいだとか、仮にも敵の指揮官相手に失礼な奴らだな全く。全部本当のことだけどさ。

 ボクは体調もすこぶる悪かったし本当は横になりたかったのだけど、敵兵や捕虜仲間にだらしないところを見せるわけにも行かず、かなり無理して起き上がっていた。それがやっとだった。


 捕虜はお互いに傷つけたり殺してはならない。そういう国際条約がある。だけどそのまま戦いが終わるまで捕らえておくこともできれば、相手に還しても良く、早期返還させるための交渉材料として取引に使うことも許されていた。

 もしかしたら条約無視で拷問とかされるかなって覚悟もしていたのだけど、思っていたよりも敵はボクたち捕虜に興味を示さず、そもそも拷問するようなそんな元気すら見えないくらいだった。

 それと、意外なことに敵兵からはボクたちに対する憎しみのようなものは全くと言っていいほど感じられなかった。それはたぶんだけど、ボクが指揮を取るようになってからはお互いにほとんど死者が出ていないせいだとは思う。

 ボクは指揮官クラスであったので交渉の材料に使えたはずだったのだけど、シューマはそうはしなかった。

 ボクは明日の朝、他の捕虜と一緒に還されることが決まった。


 戻る前にどうしてもシューマに会っておきたかった。

 監視役をしていた敵の兵士に「シューマに会わせてほしい」と言ったら返還される前に少しだけ話す時間を取ってくれた。その兵士に何故か握手を求められた。何なんだ。

 夕食後にシューマと合う時間が設けられた。

 シューマは見るからに疲労困憊していた。光り輝いていた漆黒の鎧は今は泥と傷で汚れきって光沢をなくし、マントはその形状を残していなかった。シューマはゆっくりと振り返った。


「タルトか。足、大丈夫か?」


「うん。手当してくれてありがとうね。なんだか君にこんな事言うのはおかしな感じだけど」


「そりゃこっちのセリフだ。毎回捕虜を手当までして返還してもらってるからな。こっちもそれに応えないわけにはいかないさ。しかも腹いっぱい飯まで食わしてもらってるんだってな。すまんな。こっちは食糧が足りてねえから、足りなかったんじゃないか?」


「いや、そんなことはないよ……」


「あれでも御前に出した食事はこっちじゃ一番マトモなやつだ。お前、うちの兵たちにずいぶん気に入られてたみたいだぞ。あいつら勝手にお前に一番いい食事持っていきやがったんだぜ」


 正直に言えばボクたち捕虜に与えられた食事はかなり寂しいものだった。一欠片の干し肉と少量のパンと水。あれでも一番マトモな食事だったというのだからアルムス王国軍の食料事情はかなり大変なことになっているんだろう。


「そっちには、なんかすげえ回復魔法が使えるやつが居るんだって?」


「……そうだよ。この傷もたぶんすぐに治せてしまう。傷をすぐに治せる能力をもった異世界人がいるんだ」


「そうか。……俺の国がいまどういう状態か、聞いているんだろう?」


「……うん」


「……お前、なんだな。 だからお前たちはいつまでも諦めず時間稼ぎを続けているということなんだろう」


「……そうだよ」


 ボクは認めた。正確には「ボク」ではなく「ボクたち」ではあるけれど。

 そもそもこの作戦を考案できたのはシューマ自らが自分の能力を明かしたからだ。あの時シューマが自分の能力の詳細までボクに話さなければもしかすると違った展開になっていた「かも」しれない。「かも」っていうのは、結局はシューマが異世界人というのはわかっていたことではあるし、明らかに不自然なこの展開からいずれはシューマの「│全ての戦いに勝つトライアンフ」にこちらも気づいていたと思う。ただ、そこにたどり着くまでには掃討な犠牲が出た後だったと思うけどね。


「まさか、こんな方法があるなんてな。お前の仕業だということはお前の仲間の異世界人の能力ってことか。いったいどうやったら国を崩壊なんてさせられるのか、正直今でも俺にはわからない。ずっと戦場にいるしな」


 せめてもの誠意でボクはシューマの質問には嘘なく答えようと思った。


「シューマの百戦百勝トライアンフはたしかにすごいよ。でもね、うちにもとっておきの能力者がいたんだ。無限にお金を生み出せる能力だよ。それで君の国、アルムス王国の経済を崩壊させたんだ」


 シューマは空を仰いだ。


「マジかぁ……そんなやつがいたのかぁ……。異世界にきて剣や魔法でドンパチするってのが戦争だと思いこんでたぜ。まさか現代戦さながらの経済戦争を仕掛けてくるなんてな。そっちにも異世界人がいるってことをもっと真面目に考えるべきだったか。……いや、違うな。俺は自分の力に溺れていたんだろうな」


「ねえ、シューマ。できるなら、その……」


「今日の戦いも俺の勝ちだ。いくら国が傾こうと、俺が勝ち続ければいい。俺がいずれお前の国を手に入れれば全ては解決する。最終的にはおれが「勝つ」んだ」


 ボクの言葉を遮ったシューマの声は言葉とは裏腹に力がなかった。 


「でも、それじゃ君の躰が先に壊れてしまうよ。……やめることはできないの?」


「何を言ってるんだ。勝ったのは俺だ。降伏するのならそっちだろう? お前たちが敗けを認めればいくつかの地方の割譲くらいで手を打って終戦なんてこともできる。むしろ、アルムス王国政府はそれが狙いだ。お前たちにとっては領土の二十分の一を失うに過ぎなくとも、こちらのとっては領土が倍になるわけだからな。国家規模が一〇倍以上もあるんだ。最初からトワイローザの全てを奪おうなんて思っちゃいないのさ。だから、絶対に勝つ俺の力をつかって一部を割譲させられれば儲けもの、くらいの考えで宣戦布告したんだ。まさか一九回も戦いに勝ったってのにたったの二地区しか奪えなかったとは思わなかったけどな。本国からも毎日のように矢の催促が来ているよ。補給は一切送ってこないくせにな」


「残念だけどトワイローザはこの戦争に敗けないよ。それとね、シューマ。ボクたちの作戦はまだ終わっていない。ボクたちは君に「勝つ」つもりだ」


「…………そうか」


 シューマはボクの発言の意味を理解していたと思うけど考えることをやめたように答えた。


「だが、俺は負けない。――負けられないんだ」


 シューマは振り返らずに自分のテントへと帰っていった。


 ――やっぱり気づいていたんだね。シューマ。


 お腹がまたずきん、と傷んだ。苦痛に顔がゆがむ。無理をしすぎた。

 ちくしょう。

 お腹痛い。足も痛い。頭もくらくらする。なんだか気分もすぐれない。

 ほんとに、ほんとに、今日は調子が悪い日だった。


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